- 「Prêmio Multishow」とは?
- 第30回ムウチショウ賞
- 2023年のノミネートと受賞結果まとめ
- Artista do ano(今年のアーティスト)、IZA
- Revelação LATAM Airlines(新人賞)、Melly
- Capa do ano(今年のジャケ写)、IZA “AFRODHIT”
- DJ do ano(今年のDJ)、Alok
- Instrumentista do ano(今年の楽器演奏家)、Pretinho da Serrinha
- Produção Musical do ano(今年のプロデューサー)、、Pretinho da Serrinha
- Música Brega e Arrocha do ano(今年のブレーガ/アホッシャ)、“Sinal” Nadson O Ferinha & João Gomes
- Música Cristã do ano(今年のキリスト教音楽)、“Deus Cuida de Mim” Kléber Lucas & Caetano Veloso
- Música Hip-Hop do ano(今年のヒップホップ)、“Penumbra” Djonga ft Sarah Guedes & Rapaz do Dread
- Música MPB do ano(今年のMPB)、“No Tempo da Intolerância” Elza Soares
- Música Pop do ano(今年のポップス)、“Fé Nas Maluc” IZA & MC Carol
- Álbum do ano(今年のアルバム)、Xande de Pilares “Xande canta Caetano”
- Música sertaneja do ano(今年のセルタネージョ)、“Erro Gostoso” (Ao Vivo) Simone Mendes
- Música de samba e pagode do ano(今年のサンバ/パゴージ)
- Música rock do ano(今年のロック)、“Distopia” Planet Hemp & Criolo
- Música funk do ano(今年のファンキ)、“Tá OK” Dennis & MC Kevin O Chris
- Música de forró e piseiro do ano(今年のフォホー/ピゼイロ)、“Pequena Flor” João Gomes
- Música de axé e pagodão do ano(今年のアシェー/パゴダォン)、“Zona de Perigo” Léo Santana
- Clipe TVZ do ano(今年のビデオクリップ)、Jão & Anitta “Pilantra”
- Show do ano(今年のライブ)、Ludmilla “Numanice”
- Voz do ano(今年の歌手)、Ludmilla
- Hit do ano(今年のヒット)、“Erro Gostoso (Ao Vivo)” Simone Mendes
- Categoria Brasil(ブラジル部門)
- 最後に
「Prêmio Multishow」とは?
一年間のブラジル・ポップスを振り返る音楽賞
「ブラジルの最近の音楽を聴きたい!」
それなら、「Prêmio Multishow」をチェックするのがオススメです!
「Prêmio Multishow」とは、ブラジルのTV局「Multishow」が主催する音楽賞で、ブラジルのポルトガル語では「プレミオ・ムウチショウ」と読みます。訳すなら「ムウチショウ賞」、英語風に「マルチショー賞」とも呼べるでしょう。
この音楽賞は、あくまで「ブラジル人目線」で、幅広いジャンルのブラジル音楽を網羅(もうら)しているのが特徴です。ラテン・グラミーのように「アメリカ人目線のブラジル音楽」でもなく、「ブラジル音楽の中の、一部のジャンルだけ」でもない。もっと「大衆的」な、「ポップ」な音楽がノミネートされ、受賞経験が今までで多いアーティストは、Ivete Sangalo(イヴェッチ・サンガロ)やAnitta(アニッタ)のようなポップ・スターとなっています。一般投票と専門家による投票、という2種類の方法によって勝者が選ばれるのも特徴です。
とにかくオススメ!
このサイトの管理人の私は、日本にいながら「ブラジルポップス」のファンになって何年かたつのですが、毎年どの音楽賞よりも、この「Prêmio Multishow」を楽しみにしています!
「今年はこの人がこの部門を受賞した」ということに、納得がいくことが多いからです。
受賞結果に「…?」となることも多々ありますが、それも許容範囲内。逆に、自分が知らなかったノミネート作が良作だったりすることも多く、1年間分のブラジル音楽を「発掘」することができるので、それも楽しみのひとつです。
第30回ムウチショウ賞
無料で視聴可能に
そんな「Prêmio Multishow」も、2023年で第30回をむかえることになりました。
授賞式は2023年11月7日に開催され、その様子は有料放送のMultishowチャンネルで放映されただけでなく、初めての試みとして無料放送のテレビとラジオでも放送されたようです。
こうした「無料化」によって、ますます「国民的」な音楽賞になっていくのではないでしょうか。
部門が増えた
また、今年は「今年のデュオ」や「今年のグループ」といった部門が無くなり、音楽ジャンルごとの部門が新しく登場しました。その結果、賞が増え、どのジャンルのアーティストでも、ノミネートされやすくなりました。
これは、すごく良い改革だと思います!「セルタネージョ部門」とか「ファンキ部門」とか、なぜ今まで無かったのでしょう──。いろいろなブラジル音楽をあつかう音楽賞として、今後ますます重要性が増すのではないでしょうか。
一般投票は5部門のみ
今回、一般投票を受け付けていたのは、次の5部門でした。逆に言えば、これ以外の賞は全部、専門家投票ということです。
- Clipe TVZ do Ano(今年のビデオクリップ)
- Show do Ano(今年のライブ)
- Voz do Ano(今年の歌手)
- Hit do Ano(今年のヒット)
- Categoria Brasil(ブラジル部門)
2023年のノミネートと受賞結果まとめ
前置きが長くなりました。それでは全部門の受賞結果とノミネートをチェックしていきましょう!
Artista do ano(今年のアーティスト)、IZA
最大の栄冠である「今年のアーティスト」部門は、IZA(イザ)が受賞しました!
イザは、元夫のプロデューサーと決別し、再出発となるアルバム”Afrodhit”(アフロジーチ)を発表したばかり。詳しくは、ブログ内のこちらの記事でも書きました。ほぼ完成していたというアルバムのデモを破棄し、ゼロから曲を作り直した、その再スタートを祝福するような受賞となりました!
また、2023年のラテングラミーでは、「Best Portuguese Language Urban Performance」(ポルトガル語最優秀アーバン・パフォーマンス)部門に、2022年の楽曲“Fé”(フェ)がノミネートされています。というわけで、昨年の作品ですが、ここには“Fé”のビデオを貼っておきました。カエターノ・ヴェローゾも絶賛したMVは、必見です!
Genial vídeo, música, tudo: FÉ, com @IzaReal. @felipesassi, claro. pic.twitter.com/z61P8morcc
— Caetano Veloso (@caetanoveloso) June 4, 2022
Multishow賞で「今年のアーティスト」部門にノミネートされていたのは、誰が受賞してもおかしくない面々です。去年爆発的にヒットし今年も売りに売れたセルタネージョ歌手Ana Castela(アナ・カステラ)、去年この部門を受賞し今や世界的に有名となったAnitta(アニッタ)、今年の新アルバムが大ヒットしたJão(ジャウン)とLuísa Sonza(ルイーザ・ソンザ)、そして今年の授賞式で司会など中心的な役割を果たしたLudmilla(ルジミーラ)。
ちょっと言いにくいことを言うと、私はIZAが大好きなのですが、今年のこの賞は、Jão(ジャウン)が受賞するのではないかと思っていました。Jão(ジャウン)は1994年サンパウロ生まれのシンガーソングライターで、イギリスっぽい音楽をブラジル的な感性でやっています。フェスのライブ映像を見ても人気のほどが伝わってきたし、2023年のアルバム“SUPER“(スペル)は、今までジャウンがやってきたことをさらに洗練させた感じで、すごく良い作品でした。ヒット曲”Me Lambe”をこの下に貼っておきます。
でも、IZAが受賞したなら文句はありません。ここ数年のリリース作や芸能活動がすべて評価されたのでしょう。IZA、おめでとう!
ノミネート
- Ana Castela
- Anitta
- IZA
- Jão
- Ludmilla
- Luísa Sonza
Revelação LATAM Airlines(新人賞)、Melly
「新人賞」は、昨年まで「Revelação do Ano」(今年の新星)という名称でしたが、今年は「LATAM Airlines」というチリの航空会社の名前が付け加わっています。
ノミネートされていたのは、オーディション番組「The Voice Brasil」(ザ・ボイス・ブラジル)出身のポップス女性歌手Carol Biazin(カロウ・ビアジン)や、ラッパーのKayblack(カイブラキ)とVeigh(ヴェイギ)、北東部の郷土音楽アホッシャの男性歌手Nadson O Ferinha(ナジソン・オ・フェリーニャ)。
こういったSpotifyのチャートを賑わす大人気のアーティストたちをおさえて、受賞したのはバイーア州出身の女性歌手、Melly(メリー)でした。
Mellyは駆け出しのアーティストで、まだ知名度は高くなく、この受賞にはSNS上で異論も出たようです。でも、一度聞くと忘れられない声の持ち主で、表現力も圧倒的なのは間違いありません。この受賞をきっかけに、今後ますます活躍の場が広がるといいですよね。
色々なコラボ曲やソロ曲がありますが、上に貼ったのは、ピアニストのJonathan Ferr(ジョナタン・フェー)の曲で、ヴォーカルをMellyが担当しています。
新人賞部門、個人的には、このブログでも推しているThiago Pantaleão(チアゴ・パンタレオン)がノミネートされていたので、うれしかったです。このMV、いつ見てもキュートで、元気がもらえます!
ノミネート
- Carol Biazin
- Kayblack
- Melly
- Nadson, O Ferinha
- Thiago Pantaleão
- Veigh
Capa do ano(今年のジャケ写)、IZA “AFRODHIT”
「capa」というのは、アルバムのジャケットや雑誌の表紙のことなので、「今年のジャケ写」部門と訳してみました。受賞したのは、IZA(イザ)の“AFRODHIT”(アフロジーチ)です。
アメリカのR&Bテイストに寄せていた鮮烈なデビュー作とは違い、ブラジルらしさを押し出した、成熟を感じさせる一枚ですよね。私も大好きなジャケ写です!
ノミネート
- Iza, “AFRODHIT”
- Luísa Sonza, “Escândalo Íntimo”
- BK’, “ICARUS”
- Djonga, “O Dono Do Lugar”
- Jão, “SUPER”
- Marina Sena, “Vício Inerente”
DJ do ano(今年のDJ)、Alok
DJ部門は、国際的に有名なAlok(アロック)が受賞しました。Alokは、1991年ブラジルのゴイアニア生まれで、ヨーロッパを中心にDJとして活動し、10年以上にわたってEDMをやっています。いろんな楽曲のミックスもやっていますが、2023年のフルセット音源を貼っておきます。
個人的には、ポップスターのPedro Sampaio(ペドロ・サンパイオ)が受賞したら面白かったな、と思います。まじめ系DJばかりノミネートされている中で、ひとりだけ系統が違いますよね。2023年は、大型フェスLollapalooza Brasil(ロラパルーザ・ブラジル)に出演し、Lulu Santos(ルル・サントス)の曲”Toda forma de amor”をかけてバイセクシュアルであることをカミングアウト。理屈抜きに楽しくて感動的なステージで、動画を見て「楽しくて泣く」という体験を私は初めてしました。
そういうわけで、最高にペドロ・サンパイオっぽい新曲をここに貼っておきます。ただし、Multishow賞の後日に発表された曲です。おしりがずらりと並ぶサムネイルに驚かれたかもしれませんが、思わず笑顔になれる超ハッピーなMVなので、ぜひ見てみてください!
ノミネート
- Alok
- Dennis DJ
- MU540
- Pedro Sampaio
- Vhoor
- Vintage Culture
Instrumentista do ano(今年の楽器演奏家)、Pretinho da Serrinha
楽器演奏家部門は、Pretinho da Serrinha(プレチーニョ・ダ・セヒーニャ)が受賞しました。Pretinho da Serrinhaはサンバの打楽器奏者で、2023年は、Xande de Pilares(シャンヂ・ヂ・ピラレス)のアルバム、”Xande Canta Caetano“(シャンジ・カンタ・カエターノ)をプロデュースしています。このアルバムは複数部門を受賞したので、また後で取り上げますね。
ここに貼った曲は、ショーロで使うギター系の楽器、バンドリンの奏者であるHamilton de Holanda(アミルトン・ジ・オランダ)も参加しています。彼もまた、この部門にノミネートされていました。
他のノミネートにも注目です。型破りなピアニストのAmaro Freitas(アマーロ・フレイタス)は日本でも人気が高く、2023年には初来日を果たしています。
私が注目しているのは、Jonathan Ferr(ジョナタン・フェー)というジャズ/ネオソウル系のピアニストです。新人賞のMelly(メリー)も参加した2023年のアルバム、”Liberdade“(リベルダージ)も印象的で、今後の活躍が楽しみなアーティストだと思います!
ノミネート
- Amaro Freitas
- Hamilton de Holanda
- Jonathan Ferr
- Pretinho da Serrinha
- Rafael Castillo
- Silvanny Sivuca
Produção Musical do ano(今年のプロデューサー)、、Pretinho da Serrinha
プロデューサー部門も、楽器演奏家部門と同じくPretinho da Serrinha(プレチーニョ・ダ・セヒーニャ)が受賞しました。
2023年のムウチショウ賞は、“Xande Canta Caetano”(シャンジ・カンタ・カエターノ)とIZA(イザ)が強かった、と言えそうです。
ノミネート
- Douglas Moda
- Iuri Rio Branco
- Mu540
- Nave
- Papatinho
- Pretinho da Serrinha
Música Brega e Arrocha do ano(今年のブレーガ/アホッシャ)、“Sinal” Nadson O Ferinha & João Gomes
ブラジル北東部(ノルデスチ)の郷土音楽の部門です。
Brega(ブレガ、ブレーガ)という名前は、ブラジル版Wikipediaによると歴史が古く、1960年代には存在し、その頃には大衆的なバラードの歌を指したようです。ところが、1990年代になると、電子キーボードや巨大サウンドシステムを使ったポップスが、 Brega Pop(ブレガ・ポッピ) 、Tecnobrega(テクノブレガ)と呼ばれるようになります。
こうした中、2000年代にバイーア州で生まれたのがArrocha(アホッシャ)でした。アホッシャは、ブレガの「バラード」と、ブレガポッピの「電子キーボード」、そして伝統的なダンス音楽である「フォホーのリズム」を受けついでいるように思います。
この「ブレガ/アホッシャ」部門を制したのは、アホッシャの若手歌手Nadson O Ferinha(ナジソン・オ・フェリーニャ)と、2021年のデビューで爆発的にヒットしたピゼイロ歌手João Gomes(ジョアン・ゴメス)でした。
ノミネートを見てみると、Nattan(ナタン)、Felipe Amorim(フェリピ・アモリン)、Nadson O Ferinha(ナジソン・オ・フェリーニャ)が複数ノミネートされていますよね。この3人が、最近のアホッシャの注目株ということなのでしょう。
このノミネートの中から”Sinal”が選ばれた理由は、後述する「ジョアン・ゴメスの人気」にあるのではないか、と私は邪推しています。
ノミネート
- “Anota Aí” (Ao Vivo), Ávine e Nattan
- “Cadê Seu Namorado Moça?”, Thales Lessa e Nadson, O Ferinha
- “Duas” (Versão Arrocha), Dilsinho, Nadson, O Ferinha, Rafinha RSQ
- “Love Gostosinho”, Natan e Felipe Amorim
- “Sinal”, Nadson, O Ferinha e João Gomes
- “Toca o Trompete”, Felipe Amorim
Música Cristã do ano(今年のキリスト教音楽)、“Deus Cuida de Mim” Kléber Lucas & Caetano Veloso
「キリスト教音楽部門」があるのって、ラテン・グラミーっぽいですよね。実際、部門の分け方が音楽ジャンルごとになったのもラテングラミーに似ていて、今年のムウチショウ賞は、かなりラテングラミーを意識して改革したのだと思います。
その一方で、ブラジル音楽の巨匠や中堅に対するリスペクトが強く、この新部門もCaetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)が受賞しました。こういうところ、Multishowっぽいと思います。
ノミネート
- “Deixa”, Maria Marçal
- “Deserto” (Ao Vivo), Maria Marçal
- “Deus Cuida de Mim”, Kléber Lucas e Caetano Veloso
- “Me Atraiu”, Gabriela Rocha
- “Ninguém Explica Deus”, Clovis e Ton Carfi
- “Todavia Me Alegrarei” (Ao Vivo), Sarah Beatriz
Música Hip-Hop do ano(今年のヒップホップ)、“Penumbra” Djonga ft Sarah Guedes & Rapaz do Dread
「ヒップホップ部門」を受賞したのは、Djonga(ジョンガ)の”Penumbra“(ペヌンブラ)でした。
Djonga(ジョンガ)はもともと社会派のラッパーで、2020年にはアメリカのBET Hip Hop Awards(ビーイーティー・ヒップホップ・アワーズ)で、Best International Flow(国際部門)にブラジル人として初めてノミネートされています。2023年にはラップの大型企画、Poesia Acústica(ポエジア・アクースチカ)の第14作目にも参加していました。
ノミネート作は、ジョンガ意外の全部の曲が、Trap系です。「Trap Nacional」(トラッピ・ナシオナウ)と呼ばれる「ブラジルのトラップ」は、WIU(ウィウ)のようなレゲエっぽいポップスも含まれていて懐が深く、いまとても流行している音楽ジャンルのひとつとなっています。
なかでも、独自のスタイルを確立しているMatuê(マトゥエ)には注目です。2023年はMTV Europe Music Awards(エムティーヴィー・ヨーロッパ・ミュージック・アワード)でBest Brazilian Act(最優秀ブラジル人アーティスト)を受賞。ネットでの人気投票で結果が出る賞なので、単に商業的に成功しているだけでなく、ファン層が強く根付いている証拠でしょう。大ヒットしたノミネート曲、 “Conexões de Máfia“(コネクソンス・ジ・マフィア)を貼っておきます。
ノミネート
- “Ballena”, Vulgo FK, MC PH, Veigh e Pedro Lotto
- “Conexões de Máfia”, Matuê ft. Rich The Kid
- “Coração de Gelo”, Wiu
- “Melhor Só”, Kayblack, Baco Exu do Blues e Marquinho no Beat
- “Novo Balanço”, Veigh, BVGA Beatz, Produtores Malax
- “Penumbra”, Djonga ft Sarah Guedes e Rapaz do Dread
Música MPB do ano(今年のMPB)、“No Tempo da Intolerância” Elza Soares
MPB(エミペーベー)は、Música Popular Brasileira(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)、直訳して「ブラジルのポピュラー音楽」の略。ただし、ブラジルのポップスがすべてMPBというわけではなく、あくまでも伝統重視の硬派なポップスがMPBと呼ばれます。
今年のMPB部門は、2022年に亡くなったElza Soares(エルザ・ソアレス)の遺作のタイトル曲が受賞しました。“No Tempo da Intolerância”(ノ・テンポ・ダ・イントレランシア)は、生前に録音されていた曲を集めたオリジナル・アルバムで、音源にAIを使っていない、正真正銘の「新作」です。
晩年の作品がアヴァンギャルドで重厚だったのと比べて、親しみやすいメロディーの曲が多く、とても「ポップ」な印象を受けますよね。すごく聴きやすくて、私も料理をしながら聴いたりしていました。そんな聴き方でいいのか分かりませんが──。
ノミネートを見てみると、ポップスのLuísa Sonza(ルイーザ・ソンザ)が「MPB」枠に入っているのは、ちょっと意外ですよね。とはいえ、ルイーザの新アルバム、“Escândalo Íntimo“(エスカンダロ・インチモ)は、MPBの後継者であろうとする意欲的な作品だったし、フェスでも一級のライブ・パフォーマンスを見せてくれるので、正当な評価でしょう。
楽曲”Chico“(シコ)は、ボサノバ風のポップスです。ブラジル本国では、「この歌を新恋人にささげ、秒で別れた」というスキャンダルゆえに再生回数が伸びた側面もあるようですが、皆なんだかんだ「聴いてしまう」、「気になってしまう」ところに、彼女のスター性が表れているのではないでしょうか。私の場合は、単純にかわいくて歌がうまいので、ルイーザが好きです!
ノミネート
- “Bateu”, Gilsons, Rachel Reis e Mull
- “Céu Rosa”, Gilsons e Lagum
- “Chico”, Luísa Sonza
- “Grão de Areia”, Rubel e Xande de Pilares
- “No Tempo da Intolerância”, Elza Soares
- “Vem Doce”, Vanessa da Mata
Música Pop do ano(今年のポップス)、“Fé Nas Maluc” IZA & MC Carol
「ポップスの曲」部門は、 IZA(イザ)とMC Carol(エミセー・カロウ)の“Fé Nas Maluca”(フェ・ナ・マルーカ)が受賞しました。イザの歌手としてのキャリアを寓話として描いたかのようなMVも必見です(くわしくはこちらの記事で)。
ノミネートの中では、Marina Sena(マリーナ・セナ)の”Tudo Pra Amar Você“(トゥード・プラ・アマー・ヴォセ)も、2023年という時代の曲として重要だと思います。
Marina Senaは、作家性の強いアルバムでソロ・デビューし、SNSでのバズりから大ヒットしました。評論家からも認められ、2021年のMultishow賞では3部門を獲得し、2022年のLatin Grammyでも2部門にノミネートされています。
ただ、最近はTikTok向けのダンスもやっていて「ポップス化」が目立ち、それを評論家たちは良く思わなかったのか、2023年はラテングラミーにノミネートされませんでした──。私からすると、どんな「ポップ」なことをやっても「マリーナセナっぽさ」が影を落とし、妖艶でダークな感じになるのがすごいと思うんですけどね。2023年のアルバム、”Vício Inerente“(ヴィシオ・イネレンチ)については、こんな記事も書いたので、よければお読みください。
ノミネート
- “Ameianoite”, Pabllo Vittar e Gloria Groove
- “Fé Nas Maluc”, IZA e MC Carol
- “Me Lambe”, Jão
- “Pilantra”, Jão e Anitta
- “Sintomas de Prazer”, Ludmilla
- “Tudo Pra Amar Você”, Marina Sena
Álbum do ano(今年のアルバム)、Xande de Pilares “Xande canta Caetano”
「今年のアルバム」部門は、Xande de Pilares(シャンジ・ジ・ピラレス)の“Xande canta Caetano”(シャンジ・カンタ・カエターノ)が受賞しました。
アルバム名は、直訳すると「シャンジがカエターノを歌う」。その名前のとおり、パゴージ(サンバの一種)のバンド、Grupo Revelação(グルーポ・ヘヴェラサォ)の元ボーカルであるXande de Pilares(シャンジ・ジ・ピラーレス)が、ブラジル音楽界の重鎮Caetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)の名曲をパゴージ風にカバーしたアルバムです。
そして、このアルバムが、2023年のMultishow賞で何個も賞をもらうことになりました。
すごく良い一枚ですよね! ただ単にカエターノの曲をサンバ風にしているだけでなく、元の曲の「サンバらしさ」を引き出している感じで、私の場合、原曲より好きになったトラックもあります。
他のノミネートでは、IZA(イザ)やLuísa Sonza(ルイーザ・ソンザ)、Jão(ジャウン)、といったポップスターとともに、ラッパーのBK’(ベーカー)、今は亡き伝説的歌手Elza Soares(エルザ・ソアレス)が挙がっています。
BK’(ベーカー)の“ICARUS”(イカルス)は、日本でも人気のJulia Mestre(ジュリア・メストリ)が参加していたりして、MPBが好きな方にもオススメです!
ノミネート
- IZA, “AFRODHIT”
- Luísa Sonza, “Escândalo Íntimo”
- BK’, “ICARUS”
- Elza Soares, “No Tempo da Intolerância”
- Jão, “SUPER”
- Xande de Pilares, “Xande canta Caetano”
Música sertaneja do ano(今年のセルタネージョ)、“Erro Gostoso” (Ao Vivo) Simone Mendes
ブラジル独自のカントリー・ミュージックである「セルタネージョ」の部門は、ソロ活動を始めたSimone Mendes(シモーニ・メンデス)のライブ版“Erro Gostoso”(エホ・ゴストーゾ)が受賞しました。
バイーア州出身の姉妹デュオ、Simone & Simaria(シモーニ・イ・シマリア)は、2012年にデビューして以来、セルタネージョ界に珍しい女性歌手として人気をあつめてきましたが、昨年2022年に解散。Simone Mendes(シモーニ・メンデス)は、1984年生まれの「妹」のほうです。歌声が断然かっこよくて、私はいつも心の中で「姐さん」と呼ばせてもらっています。そんなシモーニメンデスのソロ活動を祝福するような受賞となりました。
一方で、ノミネート作も見逃せません。Ana Castela(アナ・カステラ)は、2003年11月16日生まれなので、この記事を書いている時点で、まだ19歳。ブラジルの南の果ての農場に生まれ、SNSで「農場ガール」的な存在感が話題になり、2022年にはシングル”Pipoco“(ピポコ)で大ヒットし、Multishow賞の「新人賞」を受賞しています。2023年は次々と曲を出し、「出せば売れる」という状態でした。中でも大ヒットしたのが、この曲です。
「AgroPlay」とは、もともとデュオで活動していたというRodolfo AlessiとRaphael Soaresが2021年に設立した会社で、Ana Castelaの楽曲を制作するだけでなく、衣装やライブ活動も含めたすべての芸能活動のマネジメントもしているそうです。目標は、アナ・カステラを国際的なラテン・ポップ・スターに育てること(G1、2023/6/29)。そんな「AgroPlay」名義で出された作品として、さっそく爆発的にヒットしたのが、”Nosso Quadro“(ノッソ・クアドロ)でした。Spotifyのチャートを見ていた限りでは、まちがいなく2023年を代表する曲のはずです。また、音楽的にも、セルタネージョ界に風穴を開けるような曲だと思います。
ノミネート
- “Dói”, Jorge e Mateus
- “Erro Gostoso” (Ao Vivo), Simone Mendes
- “Oi, Balde” (Ao Vivo), Zé Neto e Cristiano
- “Narcisista” (Ao Vivo), Maiara e Maraisa
- “Nosso Quadro”, Ana Castela“Solteiro Forçado”, Ana Castela
Música de samba e pagode do ano(今年のサンバ/パゴージ)
Samba(サンバ)と、そのサブジャンルであるポップなサンバ、Pagode(パゴージ)。「サンバ/パゴージ」部門を制したのは、Xande de Pilares(シャンジ・ジ・ピラレス)のアルバム”Xande Canta Cetano“(シャンジ・カンタ・カエターノ)の一曲、”Muito Romântico”(ムイント・ホマンチコ)でした。
ノミネート作は、パゴージのスターFerrugem(フェフージェン)、ポップスのIZA(イザ)とLudmilla(ルジミーラ)が含まれているのが、ムウチショウ賞っぽいなと感じます。一方、歌手のDilsinho(ジウシーニョ)やバンドMenos É Mais(メノス・エ・マイス)は近年のパゴージで存在感があって、私は注目しています。
ノミネート
- “Diferente” (Ao Vivo), Dilsinho
- “Insônia”, Ludmilla e Marília Mendonça
- “Interessante”, Ferrugem
- “Lapada Dela” (Ao Vivo), Menos É Mais e Matheus Fernandes
- “Me Perdoa”, Ferrugem e Iza
- Muito Romântico”, Xande de Pilares
Música rock do ano(今年のロック)、“Distopia” Planet Hemp & Criolo
「ロック」部門は、ポルトガル語の読み方では「ホッキ」部門となります。Planet Hemp(プラネッチ・ヘンピ)とCriolo(クリオーロ)のコラボ曲、“Distopia”(ジストピア)が受賞しました。Planet Hempは社会派・大麻推進系のハードコア・バンドで、CrioloはMPB系のラッパーです。もともとブラジルの音楽評論家から高評価の作品だったので、納得の受賞ではないでしょうか。
日本で話題になったAna Frango Elétrico(アナ・フランゴ・エレトリコ)は、このロック部門でノミネートされていました。おしゃれで心地よい一曲ですよね。
ノミネート
- “Aos Poucos”, Supercombo
- “Distopia”, Planet Hemp e Criolo
- “Electric Fish”, Ana Frango Elétrico
- “Segredo”, Sophia Chablau e Uma Enorme Perda de Tempo
- “Taca Fogo”, Planet Hemp
- “Você Vai Lembrar de Mim”, NX Zero
Música funk do ano(今年のファンキ)、“Tá OK” Dennis & MC Kevin O Chris
ブラジルの「Funk」は、「ブラジリアン・ファンク」とも「バイレファンキ」とも呼ばれますが、ポルトガル語の発音にしたがって「ファンキ」としておきます。ファンキについて、詳しくはこちらの記事にまとめてあるので、よければお読みください。読まなくても、「ブラジル版ヒップホップ」だ、という認識でオッケーだと思います。
このファンキ部門は、Dennis(デニス)とMC Kevin O Chris(エミセー・ケヴィン・オ・クリス)の“Tá OK”(タオキ)が受賞しました。今年一番ヒットしたファンキの曲です。
最近、ファンキが進化して多様化している中、2000年代のリオデジャネイロのファンキに原点回帰した一曲で、初めて聴いた時、とても新鮮に感じたのを覚えています。当時は無名だったダンサーのAline Maiaの動画も話題となり、MalumaとKarol Gによるスペイン語リミックス・バージョンまで作られた──などなど、詳しくはこちらの記事にも書いたので、ぜひお読みください。
ノミネート
- “Faz um Vuk Vuk (Teto Espelhado)”, MC Kevin O Chris
- “Funk Rave”, Anitta
- “Namora Aí”, MC Ryan SP, MC Daniel e Kotim
- “Novidade Na Área”, MC Livinho e DJ Matt D
- “Tá OK”, Dennis e MC Kevin O Chris
- “Vai Novinha Ah Ah Ah”, DJ Dyamante
Música de forró e piseiro do ano(今年のフォホー/ピゼイロ)、“Pequena Flor” João Gomes
ブラジル北東部(ノルデスチ)の伝統的なダンス音楽、Forró(フォホー)。「チャッチャカ、チャッチャカ♪」というリズムが特徴で、もともとは、トライアングル、アコーディオン、ザブンバという太鼓によって演奏されていたのですが、電子キーボードやサウンドシステムの登場とともに演奏スタイルも進化してきました。
2020年代になると、João Gomes(ジョアン・ゴメス)のデビューと大ヒットとともに、 Piseiro(ピゼイロ)と呼ばれるスタイルのフォホー系ダンス音楽が大流行し、今に至ります。
そんな「フォホー/ピゼイロ」部門では、João Gomes(ジョアン・ゴメス)が3曲もノミネートされ、“Pequena Flor”(ペケーナ・フロー)で受賞しています。他にもフォホー/ピゼイロの曲は数えきれないほどあった気がするのですが、やはりジョアン・ゴメスは強い、というか、ピゼイロといえばジョアン・ゴメスでしょ、という受賞結果です。
ノミネート
- “Chorei na Vaquejada”, Eric Land e Tarcísio do Acordeon
- “Coladin (Minha Deusa)”, Zé Vaqueiro
- “Pega o Guanabara” (Ao Vivo), Wesley Safadão e Alanzim Coreano
- “Pequena Flor”, João Gomes
- “Pra Que Fui Me Apaixonar”, João Gomes e Iguinho & Lulinha
- “Prejudicado”, João Gomes
Música de axé e pagodão do ano(今年のアシェー/パゴダォン)、“Zona de Perigo” Léo Santana
1980年にバイーア州で生まれたお祭り音楽、Axé(アシェー)と、その進化形である Pagodão(パゴダォン)。この「アシェー/パゴダォン」部門を制したのは、「ィヨッ!」の掛け声でおなじみのLéo Santana(レオ・サンタナ)の曲、“Zona de Perigo”(ゾナ・ジ・ペリーゴ)でした。
中毒性のある一曲ですよね。私も今年はSpotifyでこの曲をかなり再生していました。もともとアシェー/パゴダォンは、ライブ会場で爆音の打楽器音に包まれて、ステージ上のダンサーの振り付けをマネして踊って楽しむ音楽らしいのですが、私は日本で一人で楽しんでいます。仲間を探しています!
ノミネート
- “Cria da Ivete” (Ao Vivo), Ivete Sangalo
- “Dejavú”, ÀTTØØXXÁ ft. Liniker
- “Pitbull Enraivado”, Oh Polêmico
- “Posturado e Calmo”, Léo Santana
- “Soca Fofo”, A Dama
- “Zona de Perigo”, Léo Santana
Clipe TVZ do ano(今年のビデオクリップ)、Jão & Anitta “Pilantra”
「TVZ」というのはMultishow局の番組の名前なので、単に「今年のビデオクリップ」と訳してみました。「MV賞」とも訳せるかもしれません。
この賞を受賞したのは、Jão(ジャウン)とAnitta(アニッタ)の“Pliantra”(ピラントラ)でした。ブラジル・ポップスの大スターの豪華コラボで、ファンの期待も高かった一曲です。
MVは、70年代風のレトロでキッチュなディナーショーから始まり、途中から血みどろのスプラッター・サスペンスになってゆきます──。
他のノミネート作も、「血みどろ」が目立ちます。Matuê(マトゥエ)の“Conexões de Máfia”(コネクソンス・ジ・マフィア)はマフィア映画ばりのシリアスな作りだし、Luísa Sonza(ルイーザ・ソンザ)の“Campo de Morango”(カンポ・ジ・モランゴ)は苺ジュースを血に見立てて全身に浴びる演出が話題となりました。
ちなみに私は、ルイーザ・ソンザに投票していました。サムネイルだけでも度肝を抜かれますよね。「グロさ」で注目を集めればいいというやり方は苦手なのですが、このMVは、「女であること」や「若さ」の危うさというか切実な感じがあって、うまく言語化できないけれど、すごい、と思います。
ノミネート
- “Campo de Morango”, Luísa Sonza
- “Conexões de Máfia”, Matuê ft. Rich The Kid
- “Fé nas Malucas”, IZA e MC Carol
- “Funk Rave”, Anitta
- “Pliantra”, Jão e Anitta
- “Tá OK”, Dennis e MC Kevin O Chris
Show do ano(今年のライブ)、Ludmilla “Numanice”
「今年のライブ」部門は、Ludmilla(ルジミーラ)のパゴージ専門ライブ、Numanice(ヌマナイシ)が受賞しました。国民的人気をほこる現役のサンバ歌手Alcione(アルシオーネ)や、パゴージ・ホマンチコの名物歌手Belo(ベロ)とのデュエットは、ブラジル国内で反響が大きかったのではないでしょうか。特に、ここに貼ったアルシオーネとの共演は、「おばあちゃんと孫」みたいで、見ていて幸せな気持になりますよね。
ルジミーラは、この部門で「Rock in Rio」(ロック・イン・リオ)の公演もノミネートされています。私は「ロックインリオ」のほうに投票していました! あれは、ただの「ライブ」ではなかったと思います。黒人であり、女であり、ペリフェリア出身であり、バイセクシュアルで同性婚し、ファンキをやっている。それによって受けるバッシングにめげず、自分の道を進み続ける。そういうプライドに満ちたショーで、日本でリアルタイムで中継を見ていて、胸が熱くなりました!
ノミネート
- BaianaSystem e Olodum com OlodumBaiana
- BK’ com “ICARUS”
- Ludmilla com Numanice (2023)
- Ludmilla com Rock in Rio (2022)
- Marisa Monte com Turnê Portas (2023)
- Titãs com Turnê Titãs Encontros (2023)
Voz do ano(今年の歌手)、Ludmilla
去年から「女性歌手(Cantora)」部門と「男性歌手(Cantor)」部門が統合され、「声(Voz)」部門となりました。日本語だと男性名詞と女性名詞の区別が無いので、「歌手部門」と訳しておきます。
この部門を受賞したのは、Ludmilla(ルジミーラ)でした。2023年リリースのアルバム”VILÓ(ヴィラン)は、商業的にはそこまでヒットしなかったようですが、「男ばかりがやっているTrap(トラップ)を女もやる」、「原点のR&Bポップスにこだわる」、という強い意志を感じる作品で、彼女のキャリアの中で意味のある一枚だったと思います。アルバムの一曲、”Sintomas de Prazer“(シントマ・ジ・プラゼー)を貼っておきます。
ノミネート
- Gloria Groove
- IZA
- Liniker
- Ludmilla
- Luísa Sonza
- Marina Sena
Hit do ano(今年のヒット)、“Erro Gostoso (Ao Vivo)” Simone Mendes
「今年のヒット」部門は、Simone Mendes(シモーニメンデス)の“Erro Gostoso (Ao Vivo)”が受賞しました。セルタネージョの楽曲部門と並んで、ダブル受賞です。
ノミネート
- “Chico”, Luísa Sonza
- “Erro Gostoso (Ao Vivo)”, Simone Mendes
- “Nosso Quadro”, Ana Castela
- “Posturado e Calmo”, Léo Santana
- “Tá OK”, Dennis e MC Kevin O Chris
- “Zona de Perigo”, Léo Santana
Categoria Brasil(ブラジル部門)
「ブラジル部門」とは?
新しい部門、「Categoria Brasil」は、直訳して「ブラジル部門」。ブラジルじゅうのアーティストが地区予選をへて全国大会に行く、という形式で選ばれました。
具体的には、まず、ブラジルの全州から、それぞれの代表が選ばれ、合計27人のアーティストがノミネートされていました。その27人が人気投票にかけられ、「中西部」・「北東部」・「北部」・「南東部」・「南部」をそれぞれ代表する5人が決定。この5人が、さらに人気投票にかけられて、最終的に1人が選ばれる、という仕組です。
国土が広いブラジルでは、地域ごとに独自の音楽があると言われていますよね。そういったローカルな音楽や新人を発掘できる、面白い試みだと思います。
地域区分ごとの代表
ノミネート作 | 地域区分 | 州 |
---|---|---|
Banda Rock Beats, “Eu Só Quero Ficar Só | 中西部 | 連邦直轄区 |
Joyce Alane, “Idiota Raiz” (ft. João Gomes) | 北東部(ノルデスチ) | ペルナンブーコ州 |
Pedro Libe “O Copo Não Mente” (ft. Hugo e Guilherme) | 北部 | トカンティンス州 |
Os Garotin, “Zero a Cem” | 南東部 | リオデジャネイロ州 |
Isa Buzzi, “Direitos Autorais” | 南部 | サンタカタリーナ州 |
受賞結果
最後に
2万字超の長い記事になってしまいました。なにせ賞の数が多かったですよね。授賞式のパフォーマンスもすごかったのですが、さすがにそこまで書ききれませんでした──。
ムウチショウ賞(マルチショー賞)は、人によっては「出来レース」のように感じるかもしれません。ある程度、評価の定まった中堅ばかり受賞するし、大御所の存在感が強いし、専門家投票は不透明だし──。
たしかに、ルイーザソンザやマリーナセナ、そしてアナカステーラのような歌手が今年ひとつも受賞しなかったのは、私も残念でした。こういった受賞傾向で、視聴者が離れてしまうのではないかと、ちょっと心配です。
でも一方で、「このアーティストは、やっぱり偉大だよね」と皆で確認しあう儀式のような側面があって、そういった側面が、じつは大事なのではないかと思います。
プレゼンターにはミルトン・ナシメントまで登場して、文字通り「ブラジル音楽の祭典」でした。世代やジャンルを超えて、たくさんのアーティストが集まる。こういう場があるからこそ、「ブラジル音楽」という系譜が守られていくのではないでしょうか。