Iza(イザ)とは、誰?

イザ アーティスト紹介
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Iza(イザ)とは、誰?

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ブラジルのR&B歌手Iza(イザ)は、2016年のデビュー以来、ポップス界の最前線で活躍し、テレビ番組などでも明るいキャラクターで人気を集めてきました。

人種差別に抗議し、女性のエンパワーメント・ソングを歌ってきたことでも知られており、2021年には、アメリカの雑誌Time(タイム)によって「次世代のリーダー」の一人に選ばれています。

この記事では、イザの代表曲を紹介しながら、バイオグラフィーをたどっていきます。

イザを初めて聴くなら、この一曲

イザを初めて聴くという方にオススメしたい一曲は、2021年リリースの“Gueto”(ゲットー)です。

IZA – Gueto

「強さ」にあふれた歌声、そして鍛えぬかれた身体のダンス。リオデジャネイロ北部のストリートを表現したカラフルなMVも、映像作品としてクオリティが高く仕上がっています。MVの監督は、凝ったMVを作ることで知られるFelipe Sassi(フェリピ・サッシ)です。

なお、途中で出てくる丘の上の教会は、リオデジャネイロのBasílica Santuário de Nossa Senhora da Penha(バジリカ・サントゥアリオ・ヂ・ノッサ・セニョーラ・ダ・ペニャ)。教会につづく階段にいる女性は、イザのお母さんです。

こんなにもカリスマ性にあふれたイザですが、音楽一筋で生きてきたわけではありません。名門大学卒業後に就職し、自分の動画をYoutubeに投稿して、二十代なかばでデビューしたという異色の経歴の持ち主です。

イザのバイオグラフィー

~2016年 デビューまでの半生

リオで生まれ、ノルデスチの白人が多い環境で育つ

イザは、リオデジャネイロのOlaria(オラリア)地区で、1990年9月3日に生まれました。

本名は、Isabela Cristina Correia de Lima Lima(イザベラ・クリスチーナ・コヘイア・ヂ・リマ・リマ)。最後の「リマ・リマ」というのは、両親がいとこ同士であったため重複しているそうです。

父は海軍将校、母は音楽教師で、イザが6歳の時、父の転属にともない、リオグランデ・ド・ノルチ州の州都ナタウに引っ越しています。

このナタウという町は、「白人」と、「パルド」と呼ばれる黒人・白人の混血の人が多いようで、「黒人」は少数派だったそうです。

ちょっと脇道にそれますが、イザがインタビューで語っている、当時のエピソードをひとつ紹介します。

ある日、白人しかいないレストランに家族と入ったとき、周囲の人からじろじろ見られ、「なんでみんな私を見るの?」とお母さんに尋ねたそうです。

お母さんの返答は、「あなたがとっても美人だからだよ」。

肌の色ゆえに差別されていることで子供を傷つけまいと、機転を利かせた返事で、心から子供をかわいいと思っているからこそ、とっさにこういった言葉が出たのでしょう。

イザはステージでお母さんと共演することも多いのですが、そういった共演を見るたびに、私はこのエピソードを思い出し、「素敵なお母さんだな」と思います。

縮れた髪と、大きなお尻

イザが人種差別に気づくのは、そう遅くありませんでした。学校に入ると、黒人の女の子は彼女一人だけ。インタビューでは、「ひどい扱いをされた」と語っています。

最初は理由が分からなかったそうですが、肌の色のせいなんだと気づくと、「黒人らしさ」を隠さなければ、と思うようになったようです。

そして12歳になると、髪に縮毛矯正をかけたい、とお母さんに頼み込むことになりました。学校に溶けこみたい、という一心だったそうです。

私は10年近く、縮毛矯正をかけ、お尻を隠して過ごしてきました。

今、私は(隠していた)その全部が私にどれほどのパワーを与えてくれるか知っています。

Cena Pop(2017/11/6)

黒人らしい髪や体型を隠し、周囲に適応しようとしたイザは、家ではR&Bを聴いて過ごし、14歳になると教会で歌うようになったそうです。

リオの名門大学に進学

イザは、学業優秀でした。

ブラジルには、日本の大学入試共通テスト(センター試験)と同じような試験で、ENEM(全国高等教育試験)というものがあります。この試験は、公立大学(学費無償、難関)の入試となるだけでなく、成績優秀だと私立大学でも学費免除の奨学金が出るのが特徴です。

イザは、このEMEMで全額学費免除の奨学金を得て、リオデジャネイロのポンティフィカウ・カトリック大学(PUC-Rio)に進学しています。PUC-Rioはブラジルでも指折りの名門校で、私立のトップ校とも評されているようです。

無理やり日本のイメージに寄せると、「慶〇大を特待生で入学」みたいなものでしょうか。大学進学率も、入試制度や大学教育の意味も違うので、単純に比較できないとは思いますが、イザが「高学歴」であるということは、間違いないでしょう。

大学では「広告」を専攻し、卒業後は専門を生かして就職。これだけでも、彼女の人生は順風満帆だったかもしれません。

Youtubeからデビュー

パソコンにユーチューブのロゴがうつっている写真。
tomasiによるPixabayからの画像

しかし、歌手になる夢を諦めきれなかった彼女は、Youtubeに自分が歌った動画をアップし始めます。

そして、その動画がワーナー・ミュージック・ブラジルの目にとまり、2016年に契約。二十代なかばにして、突如、歌手としての人生を歩み始めました。2016年のデビュー曲です↓

IZA – Quem Sabe Sou Eu

デビューアルバム”Dona de Mim”

“Pesadão”(ペザダンゥ)

2017年からデビュー・アルバムの制作を開始。先行シングルとして“Pesadão”(ペザダンゥ)をリリースすると、またたくまにヒットしました。

IZA – Pesadão (Participação especial Marcelo Falcão)

↑ レゲエ調のR&Bで、タイトルのpesadão(ペザダンゥ)は、「ヘヴィーな」という意味。レゲエ・ロック・バンドO Rappa(オ・ハッパ)のヴォーカルだったMarcelo Falcão(マルセロ・ファウカンゥ)と共同で作詞作曲をしています。

この曲は高く評価され、2018年にムウチショウ賞の「最優秀音楽部門」を受賞することになりました(ムウチショウ賞とは何かについてはこちらの記事をどうぞ)。

“Ginga”(ギンガ)

2018年3月には二枚目の先行シングルとなる“Ginga”(ギンガ)をリリース。

IZA – Ginga (Participação especial Rincon Sapiência)

↑ ラッパーRincon Sapiência(ヒンコン・サピエンシア)とのコラボ。間奏と最後のラップのパートで聞こえる、ブラジル特有の弦楽器ビリンバウの音が印象的です。MVの野性的なダンスもかっこよく、音楽・ダンスの「黒人らしい」魅力に圧倒されます。

なお、この曲の最初で、イザの「トリャッ」という掛け声が聴けます。この「トリャッ」が私は大好きなのですが、“Bateu”という曲ではもっとたくさん聴けるので、気になる方は、こちらのYoutube公式動画でご確認ください。

アルバム”Dona de Mim”(ドナ・ヂ・ミン)リリース

期待の新人として注目を集める中、2018年4月27日、ファーストアルバム“Dona de Mim”(ドナ・ヂ・ミン)をリリースしました。

アルバムのチーフ・プロデューサーは、Sérgio Santos(セルジオ・サントス)。ほかにも、Ruxell(フクセウ)Pablo Bispo(パブロ・ビスポ)がプロデュースに加わっています。今のブラジルポップスの最前線にいる豪華なプロデューサー陣を迎え、この作品はデビュー作と思えないクオリティに仕上がりました。

ゲストも豪華です。ブラジルの国民的スターIvete Sangalo(イヴェッチ・サンガロ)や、パゴージのバンドExaltasamba(エザウタサンバ)Thiaguinho(チアギーニョ)などが参加しています。

なお、イザとプロデューサーのセルジオ・サントスは、2018年12月に結婚しています(追記:2022年に離婚)。

このアルバム”Dona de Mim”は国内外で高く評価され、2018年のラテングラミーの「ポルトガル語ベスト・コンテンポラリー・ポップ・アルバム」部門にもノミネートされました。

大ヒット曲”Dona de Mim”(ドナ・ヂ・ミン)

9月にはアルバムと同名の曲“Dona de Mim”(ドナ・ヂ・ミン)のMVを公開。女性のエンパワーメント・ソングで、彼女の代表曲となりました。

IZA – Dona de Mim

↑ 映画のようなこのMVは、脚本をイザ本人が書いています。この曲に限らず、物語風のMVはけっこう彼女自身がシナリオを作っているようです。

本人の解説によると、「ドナ・ヂ・ミン」のMVに登場するのは、三人の女性。家事育児の合間に勉強するシングルマザー銃声がひびく中で生徒を守ろうとする教師、そしてトランスジェンダーの弁護士とのことです。弁護士は、裁判官と陪審員である白人男性たちを前に、被告である黒人女性を弁護しており、なにか人種差別的な冤罪の裁判であることがうかがえます。

この三人が、最後に教会に来て、イザのゴスペルを聴くという筋立てです。弱い立場にありながら、もっと弱い立場の誰かを守ろうとする女性たちを、イザが歌で力づけるという物語になっています。

そして、歌詞が良いんです! コーラス(サビ)の歌詞を私なりに日本語訳してみました。

Sempre dou o meu jeitinho

É bruto, mas é com carinho

Porque Deus me fez assim

Dona de mim

Deixo a minha fé guiar

Sei que um dia chego lá

Porque Deus me fez assim

Dona de mim

“Dona de Mim”

(意訳)「いつも自分のやり方でやる
それは雑だけれど、愛がある
神様が、私を私自身の主人として作られたのだから

自分の信じることに導かれるままにする
いつかそこにたどり着けると思う
神様が、私を私自身の主人として作られたのだから」

Dona de mim(ドナ・ヂ・ミン)という言葉は、直訳すると「私の主人、持ち主」なのですが、名詞に男性と女性がある中、donaという名詞は女性形です。自分の主人が、女であるこの私自身である、という意味合いのある言葉になっています。

ここで「女」の枠を狭めることなく、トランスジェンダーのキャラクターをMVに登場させているのが、ポイントだと思います。女性のエンパワーメント・ソングは数多くあるけれど、トランス差別に反対し、自分を女性と認識する人、女性として生まれた人、すべてをとりこむジェンダー観を明確にして歌っているポップスの歌手は、世界的にも珍しいのではないでしょうか。

2019年~ 多方面にわたる活躍

デビューアルバムで歌手としての名声を確立したイザは、2019年、テレビや映画など多方面にわたる活躍をみせました。

テレビ番組The Voice Brazilの審査員

テレビ番組、The Voice(ザ・ボイス)は、一般人が歌声を披露し、背を向けた審査員が歌声のみを審査するというオーディション番組です。

この番組のブラジル版、The Voice Brazil(ザ・ボイス・ブラジル)のシーズン8以降で、イザは審査員をつとめています。

日本在住の私は視聴できていませんが、SNSなどでリークされる映像では、すばらしい歌声が聴こえるとすぐに踊りだしていて、ノリのいい姉御肌な人柄が表れている印象を受けました。

『ライオンキング』超実写版でビヨンセの吹替

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2019年に公開されたディズニー映画『ライオンキング』の「超実写版」では、ビヨンセが声優を務めた「ナラ」役の、ブラジル版吹替を担当しています(写真はビヨンセです)。

ビヨンセに憧れて音楽の道に入ったというブラジルのディーヴァは多いのですが、イザもその例にもれず、ビヨンセの大ファンとのこと。また、この仕事もあり、イザは「ブラジルのビヨンセみたいな歌手」として国際的に注目されることにもなりました。

シングルの発表

IZA – Meu Talismã

↑ 2019年8月リリースの、チルなR&Bの曲。タイトルのMeu talismã(メウ・タリスマン)は、「私のお守り」とう意味です。この曲のリリース以降、イザのファンはSNSなどで「タリスマン」と呼ばれるようになりました。

IZA, Ciara and Major Lazer – Evapora

↑ 2019年11月の曲。アメリカのMajor lazer(メジャー・レイザー)と、歌手Ciara(シアラ)とのコラボです。

なお、イザはデビュー前に、メジャー・レイザーの“Lean On”を歌った動画を公開しています(この記事最後のリンクから視聴できます)。Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)も”Lean on”をカバーしてメジャー・レイザーとコラボしていますが、何かそういう人脈のつかみ方みたいなのがあったのかもしれません。

黒人としてのプライド

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さて、ここでバイオグラフィーから離れ、イザの魅力である「黒人らしさ」について触れておきます。

日本在住の私から見れば、イザは、ただひたすら「美人」で、ダンスも歌もうまくて、知的で、最強のディーヴァに見えます。

ですが、ブラジルではまだまだ黒人差別が存在していて、「白人らしい」ことが「美しい」という美意識が根強くあるようです。「肌が黒いよりも白いほうがいい、髪が縮れているよりもストレートであるほうがいい──」といった感覚。日本在住であっても、どこか身に覚えのある感覚ですよね。

そんな中で、イザがポップスのスターとして、黒人らしい美しさを色々な媒体で披露しているのは、画期的なことのようです。

インタビューでイザが語っている言葉を、私なりに日本語訳してみました。

美しくあるために、スラッとしていて、肌が白く、ブロンドでなくてもいいということを証明するのに、ともかく役立ったと思うと、うれしいです。

子供たちのことを考えると、心配になります。ちっぽけな基準にあわせるために、美容整形外科に行ってお直しする女性が多いのも、しょうがないですよね。

(でも、)私は図体が大きくて、お尻が大きくて肩幅が広くて、美しい、それでおわり。

Cena Pop(2017/11/6)

インタビューでこのように語るだけでなく、MVを制作するときにも、イザは、「黒人の女である自分が子供のころに見たかったもの」を意識してシナリオを作っています

たとえば、この記事の冒頭で紹介した曲“Gueto”(ゲットー)のMVでは、イザがアフロヘア―の実業家に扮し、契約書の列に刷毛でサインをした後、「IZA」ブランドのヘアケア商品をCMで紹介する、という場面がありました。

これは、「アフロヘア―の黒人女性が実業家であるはずがない」という固定観念をくつがえすものです。また、世の中のヘアケア商品が、髪を「まっすぐ」にするためのものばかりだ、ということも問題提起しています。

このMVを見た黒人の女の子が、「社会で成功するためには縮毛矯正をしなければいけない」と思わないように。そもそも、黒人の女は成功できないと思わないように。そういったメッセージが込められたMVだといえます。

最後に

ここまで、イザの代表曲とともにバイオグラフィーをたどり、インタビューから垣間見られる彼女の信念にも迫ってきました。

イザが歌うのは、アメリカのR&Bの影響を受けたポップスですが、音楽もダンスもビジュアルの表現も、「ブラジルらしさ」、そして「黒人女性らしさ」にこだわっているのが魅力だと思います。今後の活躍が楽しみです。

なお、この記事は以下のリンク先を参考に書きました。

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