Anitta(アニッタ)から始めるブラジル音楽入門

アニッタ アーティスト紹介
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Anitta(アニッタ)から始めるブラジル音楽入門

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Anitta(アニッタ)は、ブラジル・ポップスのトップスターとして10年以上にわたり音楽界をにぎわしてきました。

そして2022年3月には、楽曲“Envolver”(エンヴォルヴェール)Spotifyのグローバル・ランキングで1位を獲得。これはブラジルのアーティストとしては初の快挙で、もはや彼女を「世界の歌姫」と呼んでも異論はないでしょう。

これまでブラジル音楽を聴いたことがなくても、”Envolver”をきっかけにアニッタを知り、ブラジル・ポップスを聴き始めたという方もいるのではないでしょうか。

そこで、この記事では、アニッタの曲や、彼女が歌っている音源を通して、いろいろあるブラジル音楽のジャンルを紹介してみようと思います

ボサノヴァMPBセルタネージョホッキファンキフォホーアシェーパゴージ…。

「カタカナばかりで何を言っているの?」と思っているあなたも、この記事を読めば、それぞれの音楽ジャンルがどのようなものなのか、だいたいのイメージがつかめるはずです。

なお、「アニッタとは誰?」「アニッタの代表曲を知りたい」という方は、以下の記事をご覧ください。彼女のMVはだいたいがセクシーなので、おもな代表作はこの記事にまとめてあります。

セクシーなのは苦手!」という方は、次の記事をご覧ください。MVが「おしり無し」で、純粋に歌声を堪能できる楽曲をリストアップしてあります。

ブラジル音楽のジャンル紹介

サンバで使う太鼓の写真。
Daniel KirschによるPixabayからの画像

Bossa nova(ボサノヴァ)

ブラジルの音楽といえば、ボサノヴァ(Bossa Nova)。日本では、「おしゃれなカフェで流れているムードミュージック」として、誰もが聴いたことがあるでしょう。

もともとは1960年前後、サンバを洗練させた新しい音楽として誕生し、裕福な白人のあいだで流行した音楽です。

Anitta “Girl From Rio”

↑ “Girl from Rio”(ガール・フロム・リオ)は、ボサノバの名曲のカバーです。原曲は、Antônio Carlos Jobim(アントニオ・カルロス・ジョビン)作曲の「イパネマの娘」。英語では”The girl from Ipanema”といいます。「イパネマ」というのは、リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)にある海岸の名前です。

アニッタの”Girl from Rio”は、2022年発表の5枚目アルバム“Versions of Me”(バージョンズ・オブ・ミー)の先行シングルとして2021年にリリースされました。古典的な曲を最新のポップスにアレンジし、MVはセクシーでレトロポップに仕上がっています。

MPB(エミ・ペー・ベー)

ボサノバの次に1960年代後半のブラジルで生まれたのが、MPB(エミ・ペー・ベー)です。Música Popular Brasileira(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)、直訳すれば「ブラジルのポピュラー・ミュージック」の略なのですが、ブラジルのポップス全般を指すわけではありませんCaetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)Gilberto Gil(ジルベルト・ジル)といったアーティストの系譜を受け継ぐ、いわば伝統的なポップスがMPBと分類されます。

MPBは、1960年代後半、ボサノヴァのような「白人の」「古い」音楽と決別する、「ブラジルらしい」「新しい」実験的なポップスとして誕生しました。とはいえ、現在MPBといえば、古き良きブラジルの音楽、というイメージが強いです。

Anitta with Caetano Veloso “Você Mentiu”

↑ “Você Mentiu”(ヴォセ・メンチウ)は、アニッタの2019年のアルバム“Kisses”(キッシーズ)で、最後を飾る異色の一曲です。MPBの大御所Caetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)との共演で、世代やジャンルは違えどブラジルのトップスターである二人の、歌声のすばらしさを実感できる一曲だと思います。

Sertanejo(セルタネージョ)

セルタネージョ(Sertanejoは、ブラジルの「カントリー」、「歌謡曲」とも表現されます。

もともと内陸の奥地(Sertão、セルタンウ)で生まれた「田舎」の音楽ですが、時代と共に進化し、今やブラジルの音楽市場で一番メジャーなジャンルとなりました。

音楽の特徴としては、「こういう条件を満たしていればセルタネージョ」と言えるようなリズムや楽器編成は無いようです。ただ、最近の曲を聴いていると、アコーディオンをよく使っていたり、声のボリュームが大きい歌手がバラードを熱唱するのが良しとされる、という共通点があるように思います。

とはいえ、アコーディオンを使っていなかったり、日本人で素人の私が聴くと、欧米のフォークロックのような印象を受ける曲や、ダンスミュージックもあります。音楽自体よりもライフスタイルや社会的な属性で定義されるようなジャンルなのかもしれません。

なお、近年は、地方から都市に大学進学した若者の間でシーンが盛り上がったため、セルタネージョ・ウニヴェルシターリオ(Sertanejo universitário、大学のセルタネージョ)と呼ばれるサブジャンルが主流となっているようです。

もともとライブで演奏し、みんなで盛り上がるための音楽らしく、踊りたくなるようなポップな曲もあれば、コテコテの演歌のようなものまであり、懐が広いジャンルだと思います。

Luan Santana “RG” ft Anitta

↑ 1991年生まれのLuan Santana(ルアン・サンタナ)は、今のセルタネージョ界で最も成功しているアーティストの一人です。“RG”(エヒ・ジェー)は彼の2016年のアルバム“1977”に収録されているトラックで、動画では2分25秒のところから歌が始まります。

ロックバンドのような編成で、欧米のフォーク・ロックのようなバラードですが、歌い方はいかにもセルタネージョです。ルアン・サンタナの歌声は、声質も個性的だし、声量も圧倒的で、やはりカリスマ性にあふれていますよね。

Gustavo Mioto “Coladinha em mim”

↑ “Coladinha em Mim”(コラヂーニャ・エン・ミン)は、2017年の曲で、共演しているGustavo Mioto(グスターヴォ・ミオト)は、1997年生まれのセルタネージョ歌手です。アコーディオンが使われていて、大衆音楽(ポップス)で、ライブで盛り上がる、というセルタネージョの特徴がよく分かるライブ映像だと思います。

Anitta & Marília Mendonça “Some Que Ele Vem Atrás”

↑ 1995年生まれのMarília Mendonça(マリリア・メンドンサ)は、セルタネージョ界の頂点に立つ女性歌手でしたが、2021年11月5日、ライブ会場に向かうため乗った飛行機が墜落し、若くして命を落としました。この飛行機事故と訃報は全世界で報じられ、日本でもニュースになっています(リンクは時事通信社の記事に飛びます)。

生前から国民的な人気を得ており、数々の音楽賞を受賞するような歌手で、まさに人気絶頂のときの事故でした。死後もなお愛され、2023年になっても、Spotifyランキングの上位に入り続けています。魂で歌う、という表現がぴったりの力強い歌声で、今ぜひ聴いてみてほしいセルタネージョ歌手の一人です。

なお、アニッタとコラボしたこの“Some Que Ele Vem Atrás”(ソミ・キ・エリ・ヴェン・アトラス)は、2019年の曲で、動画はPrêmio Multishow(プレミオ・ムウチショウ)というテレビの音楽番組のライブ映像になります。

Rock(ホッキ)

欧米の影響を受けたロックは、ブラジル音楽に「ブラジルらしさ」を求める場合は見過ごされがちだと思いますが、いい曲がたくさんあります。「ワールドミュージック」に興味がないロック好きな人にもオススメです。なお、ポルトガル語ではRockを「ホッキ」と読みます(私はいまだに慣れません…)。

Jota Queste “Blecaute” ft. Anitta, Nile Rodgers

↑ Jota Quest(ジョタ・クエスチ)は、1990年代から活動しているロックバンドです。アニッタとコラボした2015年の“Blecaute”(ブレカウチ)は、特にポップで楽しい一曲に仕上がっています。

Anitta feat. Melim “Meu Mel”

↑ Rodrigo(ホドリゴ)、 Gabriela(ガブリエラ)、Diogo(ヂオゴ)の三兄弟によるポップスのトリオで、Melim(メリン)というのは三人の苗字です。フォーク、レゲエを取り入れた親しみやすいポップスで人気を獲得しました。“Meu Mel”(メウ・メウ)は2019年の曲で、レゲエ調のポップスです。

Funk(ファンキ)

Funk」と書きますが、英語圏の「ファンク」とは全く別のジャンルです。ポルトガル語では「ファンキ」と読みます。

ブラジルの「ファンキ」は、アメリカのHip Hopの影響を受け、リオデジャネイロのファベーラ(スラム街)で独自の発展をとげたラップ・ミュージックです。詳しくはこちらの記事にまとめてあります。

ただ、かなり長文の記事なので、やはりアニッタの曲を聴いてみたほうが手っ取り早いかもしれません。それに、アニッタはファンキ出身のアーティストとして大成功したという経緯があります。「アニッタのファンキ」として、特徴的な2曲を紹介しておきます。

Anitta feat. MC Guimê “No Meu Talento”

↑ “No Meu Talento”(ノ・メウ・タレント)は、2014年のアニッタの2枚目アルバム“Ritmo Perfeito”(ヒチモ・ペルフェイト)の曲で、MVは2015年にリリースされました。作詞作曲をアニッタが手掛けており、ファンキをポップスに落とし込んだ作品です。ファンキ・ポッピ(Funk Pop)で注目された初期アニッタの典型的な一曲だと思います。

共演しているのは、サンパウロ出身のMC Guimê(エミセー・ギメ)。エミセー・ギメは、サンパウロ・ファンキ(正確にはファンキ・パウリスタ)の重要人物でした(詳しくはこちらの記事で)。音楽的には、最初はEDMかと思いきや、途中に入ってくる「ズンッチャズッチャ、ズッチャッチャ」というリズムの乾いた音が、いかにもファンキらしいなと思います。

Anitta, MC Zaac, Maejor feat. Tropkillaz & DJ Yuri Martins “Vai Malandra”

↑ 2017年の“Vai Malandra”(ヴァイ・マランドラ)は、今でもライブで演奏されるアニッタのレパートリーのひとつです。海外市場を意識して製作されているのもあって、「猥雑さ」をこれでもかと演出したMVになっています。分かりやすい「ファベーラ」、「ファンキ」のイメージでしょう。Hip Hopとは全然違う、ファンキ特有のリズムやサウンドが全面に出ている一曲です。

Forró(フォホー)

フォホー(Forróは、ブラジルの「北東部」(Nordeste、ノルデスチ)につたわる伝統的なダンスミュージックです。アコーディオントライアングル、そして「ザブンバ」という太鼓で演奏されます。「チャッチャカ、チャッチャカ♪」という軽快なリズムが特徴で、聴けば思わず踊りたくなるような音楽だと思います。

そうした伝統的なフォホーに対して、リズムを継承しつつもドラムやエレキギターなどで演奏するフォホーを、フォホー・モデルノForró moderno、訳せば「現代フォホー」)といいます。現代フォホーの中でも、エレクトロミュージック寄りのものは、フォホー・エレトロニコForró eletrônico、英語では「エレクトロニック・フォホー」)と呼ばれることもあります。

フォホー・モデルノのアーティストとして、最も成功しているアーティストのひとりが、Wesley Safadão(ウェズリー・サファダォン)です。Spotifyでは「フォホーの王」とも表記されています。かつてはGarota Safada(ガロッタ・サファーダ、訳して「エロ娘」)というバンドをやっていましたが、近年はセルタネージョ寄りのソロ活動で人気を誇っています。

Wesley Safadão e Anitta “Romance com safadeza”

↑ 2018年のWesley Safadão(ウェズリー・サファダォン)とアニッタの共作です。セルタネージョっぽい曲ですが、途中からアップテンポになり、フォホー特有のリズムである「チャッチャカ、チャッチャカ♪」が始まります。また、このMVでは、ペアで踊るフォホーのダンスも見られます。

Axé(アシェー)

アシェー(Axéは、1980年代にブラジルのバイーア州で生まれた音楽のムーブメントで、サンバやレゲエなどをミックスした、ひたすら明るいポップ・ミュージックです。ライブでお祭り感覚で楽しむ文化とともに、90年代に大流行しました。

アシェー出身で有名なアーティストといえば、Ivete Sangalo(イヴェッチ・サンガロ)です。イヴェッチは今もブラジル国内で絶大な人気を誇る女性歌手で、まさに国民的スターと言えます。

Harmonia do Samba feat. Anitta “Tic Nervoso”

↑ Harmonia do Samba(アルモニア・ド・サンバ)は、90年代のバイーア州でアシェー・ブームを巻き起こしたバンドのひとつとして知られています。この動画は、2017年のライブで演奏された“Tic Nervoso”(チキ・ネルヴォーゾ)で、アニッタはゲスト出演し、お得意の「尻芸」も披露しています。音楽だけでなく、お祭りのような会場の雰囲気、ステージ上のダンサーと一緒に観客も踊るスタイルも含めて、すべて「アシェーっぽい」の一言に尽きる動画だと思います。

Pagode(パゴージ)

Pagode(パゴージ、パゴーヂ)Sambaサンバ)のサブジャンルです。伝統的なお祭りの音楽というよりも、より日常に根ざした形で演奏され、親しまれているスタイルのサンバだと言えます。詳しくは次の記事にまとめてあるので、よろしければご覧ください。

Anitta e Turma do Pagode “Selinho”

↑ パゴージのバンド、Turma do Pagode(トゥルマ・ド・パゴーヂ)が、レパートリーの”Selinho”(セリーニョ)という曲でアニッタと共演した、テレビ番組の動画です。公式動画ではありませんが、躍動感あふれるパゴージの面白さが伝わってきて、良いですよね。

最後に

長くなりましたが、ここまで、いろいろなブラジルの音楽ジャンルを見てきました。

ボサノヴァ、MPB、セルタネージョ、ホッキ、ファンキ、フォホー、アシェー、パゴージ。

最初にこれらの言葉を見た時より、「ああ、フォホーって、あれね!」とイメージできるようになっていたら、もはやブラジル音楽の「沼」に片足を突っ込んだようなものです!

なお、ブラジル音楽について、もっと詳しく知りたいという方は、ウィリー・ヲゥーパー氏の『リアル・ブラジル音楽』という本がオススメです。この記事を書くときも、参考にさせていただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。

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