“TÁ OK”(タ・オキ)の大ヒット
2023年、バイレファンキの曲、”TÁ OK“(タ・オキ)がブラジルで大ヒットしています。
約1分30秒の短いトラックですが、ゼロ年代中頃(2000年代)のファンキに原点回帰したサウンドで、約20年後の今聞くと、逆に新鮮な感じがする一曲です。
DJのDennis(デニス)は、ファンキからEDMまでいろんな曲を作っていますが、Ludmilla(ルジミーラ)ファンの私としてはLudmillaとXamã(シャマン)とのコラボが記憶に新しいので、ここに貼っておきます。
MC Kevin O Chris(エミセー・ケヴィン・オ・クリス)は、BPM150(1分150拍)の高速ファンキ、ファンキ150BPMで有名になりました(詳しくはこちらの記事で)。
中でも2019年の曲”Ela É Do Tipo“(エラ・エ・ド・チポ)は大ヒットし、Spotifyのブラジル国内チャート1位を獲得。なんとDrake(ドレイク)のリミックス版まで作られており、世界でも通用するヒットメーカーの素地がこの時点からあったと言えます。
“TÁ OK”の公式ミュージックビデオには、TikTokから出てきた男の子も登場しています。Xurrasco(シュハスコ)という名前の金髪の少年で、今年はじめTikTokにアップされたダンス動画がバズり、一躍有名になったそうです。
この子のダンスのおかげで、MVに何とも言えない「軽さ」があって、良いですよね。
ヒットするまで
“TÁ OK”は、2023年5月4日に公開されました。リリース直後はそこまでヒットしていなかったのですが、TikTokでバズり、爆発的に流行。Anitta(アニッタ)をはじめとする有名人が次々とダンス動画をアップしていきました。
中でも、次に紹介する動画が果たした役割は大きかったはずです。
表向きは非公式動画ですが、この動画に出演しているダンサーのAline Maiaは、Dennisのチームの要請を受けて動画を制作したそうです。共演しているLorenna Rosa、Pablinho Fantástico、全員がプロのダンサーで、ファヴェーラを舞台に、正真正銘のファンキのダンスを披露しています。
エネルギーが爆発している感じで、圧倒的ですよね。「下品だ」というような批判もされていましたが、私には「踊るのが楽しくてしょうがない子供が踊り続けてそのまま大人になり、最高のダンサーになった」みたいな感じに見えて、とにかく目を奪われました。
そして、実際に多くの人の目を奪ったのだと思います。
こうしたTiktokでの拡散もあって、6月初旬には楽曲”TÁ OK”がSpotifyのブラジル国内チャート1位に到達。7月末までの約2か月間、トップを維持し続けました。この記事を書いている8月18日時点でも、チャート2位をキープしており、それを上回る1位は、MC Kevin O Chrisの新曲という状態です。
スペイン語のリミックス版のリリース
ブラジル国内での大ヒットを受け、2023年8月3日、コロンビアのMaluma(マルーマ)とKarol G(カロル・ジー)によるスペイン語リミックス・バージョンがリリースされました。
レゲトン界の大スターMalumaだけでなく、今のラテンアメリカで一番人気の歌姫Karol Gまで出てきて、ラテン・ポップスの文脈でも超豪華なコラボだと言えます。
ただ、この国際的なコラボには、リリース直後にトラブルがありました。
まず、曲のクレジットが当初「DENNIS, Karol G, Maluma ft. MC Kevin o Chris」という形で、ケヴィン・オ・クリスが「フィーチャリング」扱いされたことに、彼のマネージャーが反発。作曲の手柄をデニスが横取りしている、と激しい口調でののしる動画をインスタグラムにアップしました。
ミュージックビデオも、ケヴィン・オ・クリス側の承認なしにリリースされたようです。こうした一連の問題を受け、音源をすべてのプラットフォームから削除するよう訴える声明を、ケヴィン・オ・クリスのチームが発表。
まもなく和解したのか、クレジットが書き換えられ、今は「DENNIS, MC Kevin o Chris, Maluma, Karol G」の楽曲として公開されています。
他にも、Anitta(アニッタ)が出演の打診を断ったという噂がKarol Gの発言から浮上。これに対しては、Maluma側が「ブラジル関係の仕事がアニッタとのコラボばかりにならないように」と配慮し、アニッタをあえて呼ばないことにしたという裏話があっただけだと、明らかになりました。
ブームの火付け人ともいえるAline Maiaにも、MV出演のオファーがあったのに、提示された報酬が安すぎて話が流れたとか──。
たくさんの人が国境を越えてコラボしたために、いろんな行き違いや勘違いがあったのかもしれません。
個人的には、せっかくだからAline Maiaに出演してほしかったです。リミックス版にはちょっと似た雰囲気のダンサーが出ているけれど、ダンスの躍動感が違うし、やはりこの曲は彼女のダンスでヒットしたように思います。
なにはともあれ、スペイン語圏のアーティストたちがブラジルのファンキをやっているという構図は、とても珍しく注目に値します。このコラボを通して、世界的なファンキ・ブームが起こるかもしれません。
参考
- G1、Globo(2023/2/17) Xurrascoについて
- O Dia(2023/6/20) Aline Maiaについて
- G1、Globo(2023/8/5) リミックス版をめぐる紆余曲折について