必聴の一枚、Marina Senaの”Vício Inerente”

Marina Senaの"Vício Inerente" 作品紹介
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2023年ブラジルポップス最大の期待作

2023年4月27日、Marina Sena(マリーナ・セナ)2枚目アルバム”Vício Inerente”(ヴィシオ・イネレンチ)がリリースされました。マリーナ・セナは、ミナスジェライス出身のシンガーソングライターで、2021年にデビューアルバムで大ヒットし、数々の音楽賞を受賞した注目の新人です。

新作のタイトルは、直訳して「生まれつきの悪習」、あるいは「固有の悪」。その名のとおり、どこか退廃的な世界観の作品で、デビュー作のスタイルから一歩踏み出し、エレクトロニック・ミュージックに挑戦した野心作です。

オススメの一曲、”Dano Serrada”

この新作の中で、まず聴いてみてほしいオススメの一曲は、”Dano Serrada“(ダーノ・セハーダ)。歌詞では恋に落ちた感覚を「のこぎりでめちゃくちゃになった(dano serrada)」と表現しています。退廃的なムードで、私は聴いていてちょっと怖いくらいに感じました。

Marina Sena – Dano Sarrada (Visualizer)

アルバムの先行シングルとしては、”Tudo Pra Amar Você“(トゥード・プラ・アマー・ヴォセ)が事前にリリースされていました。こちらの曲のほうが浮遊感あるポップな音楽で、ミュージックビデオではTikTokを意識したダンスを披露しています。

Marina Sena – Tudo Pra Amar Você (Clipe Oficial)

シンガーソングライターとして異例のヒット

ブラジル国内での反響も上々です。

Spotifyでは、リリース直後の24時間で220万回の再生回数を記録。リリース2日後には「ブラジルトップ200」に10曲がランクインしています(POPline、2023/4/29)。ブラジルの音楽配信ではSertanejo(セルタネージョ)というジャンルがランキング上位を支配していて、その中にTrapやPopが少々食い込む、というのが現状なのですが、そんな中で大健闘の数字です。

また、この記事を書いている5月1日時点で、Apple Musicでは「ブラジルトップ」ランキングの上位50位にアルバム全曲がランクイン。その中でも同日ビデオクリップがリリースされた”Olho no Gato“(オーリョ・ノ・ガト」)は、7位までのぼりつめています。

Marina Sena – Olho no Gato (Clipe Oficial)

作家性の強いシンガーソングライターのアルバムがここまで商業的にヒットしたのは、近年まれにみる快挙です。

プロデューサーが恋人に

今作”Vício Inerente”は、前作”De Primeira”(ジ・プリメイラ)に引き続き、Iuri Rio Branco(イウリ・ヒオ・ブランコ)プロデューサーをつとめています。

ソロデビュー作、”De Primeira”は、コロナ禍の外出制限の中で誕生した奇跡のような作品でした。家に引きこもったマリーナ・セナがギター片手に作曲し、そのデモをプロデューサーに送ってオンラインでのやりとりを通じて音源を作り上げていった、という話は、こちらの記事でも紹介しています。

そして、プロデューサーとネットでやりとりする中、ふたりはいつのまにか恋愛関係に発展していったそうです(非公式動画ですが、こちらのインタビューで詳しく語られています)。

デビューアルバムの完成後に同棲を始め、今はブラジル最大の都市サンパウロに住んでいるとのこと。世界観の「都会的」な雰囲気は、こうした生活環境の変化から来ているのかもしれません。

音楽的にも、プロデューサーの影響力が前作以上に強くなっているように感じました。Iuri Rio BrancoがJean Tassyと共同名義で出した2021年のアルバム”Amanhã“(アマニャン)は、”Vício Inerente”と音楽性が似ており、Marina Senaもゲスト参加しています。

+1 Minuto – Jean Tassy, Marina Sena (Prod. Iuri Rio Branco)

音楽性の変化

“Vício Inerente”でマリーナセナは、前作のスタイルをいったん崩し、新境地を開拓しています。

今作の土台は、いまブラジル国内で流行しているようなエレクトロニック・ミュージック。ハウス、ブラジリアン・トラップ、ファンキ、アフロビートなどなど、いろいろな音楽の要素が見え隠れします。

前作は制作過程からしてギターがサウンドの核で、レゲエ由来の裏打ちのリズムが多かったですが、今作はギターから離れ、昔のメロトロンのようなアナログ感のある電子音で全体を作り上げているのも印象的です。

そして、一番重要なのは、そういった要素を分析するのが無意味に思えるような、独自の世界観を作り出していることです。

ジャケットの90年代SF風のビジュアルが象徴するように、都会的で近未来的でありながら、退廃的で孤独で、その孤独の底に心地よい沼があり、沼の底に引きずり込まれていくような感じ…。うまく説明できませんが、ちょっと怖いくらいの強力な魔力をもった音楽だと思います。

Marina Sena – Pra Ficar Comigo (Visualizer)

Pra Ficar Comigo“(プラ・フィカー・コミゴ)は、南アフリカのエレクトロニック・ミュージック、Amapiano(アマピアノ)からの影響が指摘されています(POPline、2023/4/26)。たしかにアマピアノに通じるサウンドなのかもしれませんが、そういった音楽ジャンルの文脈を超えたところで魅力のある一曲ではないでしょうか。

この曲は、孤独を肯定的に歌っているのも印象的です。

Quero só gostar do tempo que eu passo comigo
Pra ficar comigo

私は私と過ごす時間をただ味わいたい
私と一緒にいるために

とにかくオススメ!

Marina Senaの”Vício Inerente”は、まちがいなく2023年のブラジリアンポップスの最重要作品のひとつです。

これからの彼女のキャリアがさらに楽しみに思えるような、攻めたセカンド・アルバムで、細かいことを措いておいても、独特の世界観をつくりあげている素晴らしい一枚だと思います。

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