Iza、待望の2枚目アルバムをリリース
Iza(イザ)のセカンド・アルバム、”Afrodhit“(アフロジーチ)が2023年8月3日にリリースされました。
2021年から「次のアルバムの先行シングル」として沢山の楽曲がリリースされ、「2022年には出る」と噂されてきた2枚目のスタジオ・アルバム。そのリリースがここまで遅れ、全曲がオリジナルの新曲となった背景には、元夫との離婚がありました。
この記事では、離婚がIzaのキャリアに与えた影響にふれながら、”Afrodhit”(アフロジーチ)という作品の魅力にせまります。
意味深なMV、”Fé Nas Maluca”
アルバム“Afrodhit“(アフロジーチ)のリリースに先立ち、先行シングル、”Fé Nas Maluca“(フェ・ナス・マルーカ)が7月27日に公開されました。ファンキのフィメール・ラッパー、MC Carol(エミセー・カロウ)とのコラボ曲です。
MVの監督は、Felipe Sassi(フェリピ・サッシ)。フェリッピ・サッシといえば、凝ったクリップを作る映像作家で、私の知る限り、Izaのデビュー以来すべてのMVを手掛けてきました。
そして、近年のIzaは、彼女自身がMVのコンセプトやストーリーを作り、単に「視覚的に美しい」だけでない、メッセージ性の強い作品を発表しています。
“Fé Nas Maluca“のビデオは、もはやひとつの短編映画のようです。
あらすじは、ある男によって文字通り「発掘」されたIzaが、奇跡を起こす「偶像」として利用されるものの、それを拒んで自分の人生を生きる、という内容。
荒れはてた砂漠の岸壁から、女神のようなIzaが切り出される場面は神秘的ですが、そのあと爪から涙まで身体を「搾取」される場面は、グロテスクそのもので、なにかサイコ・ホラー映画を見ているような恐怖を感じさせます。
だからこそ、Izaが事の異常さに気づいて逃げ、荒野でMC Carolに出会うシーンは爽快です。
その一方、やりすぎなほどの復讐を遂げるラスト、「発掘」が繰り返されるかのようなエンディングは、どこか後味の悪い苦味を残します──。
このビデオを見て、多くのファンは、こう思ったはず。
「イザ、つらかったんだな。このアルバムを作れて本当によかった!」
実際、このミュージックビデオは、まさにアルバム”Afrodhit”を象徴するかのような内容なのです。
Izaの「発掘」
Izaは、文字通り「発掘」され、スターダムにのしあがりました。
もともと大学卒業後に就職していたIzaは、歌手になる夢を諦めきれず、YouTubeに自分の動画をアップ。その動画がWarner Music Brasil(ワーナー・ミュージック・ブラジル)の目に留まり、デビューしています。
そして、2018年に発表されたデビューアルバム、”Dona de Mim“(ドナ・ジ・ミン)は、商業的に大ヒットしただけでなく、批評家からも絶賛され、ラテングラミーにもノミネートされました。
こうした快進撃を支えたのが、Pablo Bispo(パブロ・ビスポ)、Ruxell(フクセウ)、Sérgio Santos(セルジオ・サントス)という強力なプロデューサー陣です。
このうちのセルジオ・サントスとIzaは恋愛関係になり、2018年に結婚。
2021年以降は、セカンドアルバムの先行シングルとして、”Gueto“(ゲットー)をはじめとする数々の曲がリリースされており、”Sem Filtro“(セン・フィウトロ)のMVでは夫婦で共演も果たしています。
これら曲を含むセカンドアルバムのリリースは、早い段階から噂されており、ファンの私も当然、楽しみにしていました。実際、全曲が完成し、あとはリリースを待つのみという状態だったそうです。
プロデューサーとの離婚
ところが、2022年にイザとセルジオ・サントスが離婚。
この離婚は、大変だったようです。
イザの成功に寄与したと主張するセルジオ・サントスに300万レアル(7000万~8000万円)が支払われたとのことですが、当初は1000万レアル(2億円以上)が請求されていたとか──。
また、イザの関係者の話によると、セルジオ・サントスは妻の外見・体重・服装に厳しく、人前でも子供を叱るようにイザにダメ出ししていたとか──。
あくまで第三者の噂なので真相は分かりませんが、関係が修復不可能となり、円満とはいえない別れ方をした、というのは確かなのでしょう(Splash, 2023/8/4)。
セカンドアルバムの作り直し
こうした離婚を経て、完成していたというセカンドアルバムを破棄し、5ヶ月のあいだに、全曲が新曲のセカンドアルバムが制作されました。
ただし、Iza自身はこういった経緯にはあえて触れず、あくまでも自分の声が低くなったため全曲を作り直したと語っています。
実際、”Afrodhit”(アフロジーチ)のIzaの声は、かつてないほど低く、まさに「超ヘビー」。また、全曲を聴いてみても、アメリカのR&Bへの憧憬が強く感じられたデビューアルバムと比べて、ブラジルらしいアフロビートやパゴダォンの曲が目立ちます。
中でも印象的な曲、Russo Passapusso(フッソ・パッサプッソ)とコラボしたパゴダォンの曲を貼っておきます。
豪華なゲスト
こうした「ブラジルらしさ」へのこだわりは、ゲストたちの顔ぶれからも見て取れます。
ファンキのMC Carolを筆頭に、「現代ブラジル音楽の最重要バンド」(音楽誌LATINA評)ともいわれるBaianaSystem(バイアーナ・システム)のRusso Passapusso(フッソ・パッサプッソ)、近年活躍がめざましい若きラッパーのL7NNON(レノン)、そしてもはや大御所ともいえるラッパーのDjonga(ジョンガ)。
こういったブラジル音楽界の豪華なゲストだけでなく、無名の新人や海外アーティストとのコラボがあるのも、Izaにとって初めての試みです。
King Saints(キング・セインツ)は、リオ郊外ドゥケ・デ・カシアス出身の新人アーティストで、まさにこのイザのアルバムで作曲に携わり、名前が知られるようになったそうです。
また、Tiwa Savage(チワ・サヴィージ)はナイジェルアのシンガーソングライターで、ナイジェリアとイギリスで活躍する通称「アフロビートの女王」。アフリカのルーツ・ミュージックと、欧米のブラック・ミュージックを融合させる2人のアーティストが、国境を越えて共演を果たしました。
Izaの「再出発」
声がヘヴィーになり、音楽もヘヴィーになったIzaの新境地、”Afrodhit”。このアルバムは、圧倒的な美貌と才能で「発掘」されたIzaが、いわば「発掘してくれた」プロデューサーであり夫だった人物と手を切り、新たな「再出発」をとげた作品です。
この「再出発」の覚悟は、シングル”Fé Nas Maluca”のビデオによく表れています。「奇跡の偶像」が、「人間」に戻り、しがらみを捨てて自由に人生を楽しむ──。そして、「復讐」は決してハッピーエンドではなく、同じような「発掘」がきっと繰り返されていくのだろうという予感を残して、物語が終わる──。
こういった寓意的なストーリーを映像で表現しながらも、「現実の世界」のインタビューでは一切、別れた元夫について悪く言わないところが、またかっこいいと思います。
ただ、一方で、破棄されてしまったという幻のオリジナル・セカンド・アルバムも気になりますよね。破棄せざるをえない事情があったとしても、ぜひこっそり聴いてみたかった──。そう思ってしまうのは、私だけでしょうか。