Luísa SonzaのアルバムがSpotifyで記録更新
Luísa Sonza(ルイーザ・ソンザ)の3枚目アルバム、”Escândalo Íntimo“(エスカンダロ・インチモ)が2023年8月29日にリリースされました。
この新作が、かつてないほど爆発的にヒットしています。Spotify Brazilでは、アルバムのリリースから24時間以内のストリーミング数が1560万回を超え、最多記録を更新。2023年のブラジルポップス最大のヒット作となるかもしれません。
ロサンゼルスで制作された、「ブラジルらしい」作品
3か月間で制作されたというこのアルバムは、レコーディングの大部分がアメリカのロサンゼルスでおこなわれました。外国人のプロデューサーも迎え、ブラジルではできないことにチャレンジしたとのことです。
その結果、ロック色が強くなり、ボサノバやMPB(エミペーベー、ブラジルの伝統的ポップス)が取り込まれ、これまでとは違った意味で「ブラジルらしい」、新たなポップスの作品ができあがったように思います。
とくに、「ロックの女王」Rita Lee(ヒタ・リー)を引用した曲をはじめとして、随所にブラジル音楽の先輩へのオマージュが見られる点は注目です。
ルイーザは、これまでファンキ寄りのポップスをやっていましたが、ボサノバやMPBのような「古き良き音楽」に目を向けた作品として、キャリアの上でも重要な位置づけになると思います。
アルバムのリリースにともない、ツアーも開始しており、そのスタートとなる大型フェスThe Town 2023では、ロックスターのような力強いステージを披露しました。
楽曲紹介
それでは、アルバム”Escândalo Íntimo”の中から、私が注目した楽曲を紹介していきます。
Luísa Manequim
アルバムの序盤で特に印象的なのが、”Luiza Manequim“(ルイーザ・マネキン)。この曲の元ネタになっているのは、1972年音源で、Abílio Manoelというアーティストの”Luiza Manequim“という曲らしいです。ジャンルとしては、Samba Rock(サンバ・ホッキ、サンバ風ロック)に分類されます。
元の曲も良い曲ですよね。この70年代の楽曲が、ルイーザの歌声によって力強いロック・チューンとしてよみがえっています。
Romance em Cena
ミナスジェライス出身のシンガー・ソング・ライター、Marina Sena(マリーナ・セナ)とのコラボ。2022年の大型フェスRock in Rioでも、2人で共演していました。
“Romance em Cena“(ホマンシ・エン・セナ)は、マリーナセナの世界観が強く出ており、妖艶で、ちょっと怖い印象さえあります。そして次の曲”Campo de Morango“が続き、このあたりがアルバムの中でも特に危うげな雰囲気で、聴いていてゾクゾクするところではないでしょうか。
Campo de Morango
アルバムのタイトル曲、”Campo de Morango“(カンポ・ジ・モランゴ)は、8月15日に先行シングルとしてリリースされました。
タイトルは直訳して「苺畑」。もしかするとThe Beatles(ビートルズ)の”Strawberry Fields Forever”をもじっているのかもしれません(ルイーザのビートルズ愛についてはこちらの記事をどうぞ)。
性的な歌詞と、苺を血に見立てたミュージックビデオが物議をかもし、リリース直後にインスタグラムのフォロワーを10万人失ったとのことです。
私も初めて見たとき、驚き、圧倒されました。もちろんインスタのフォローをやめるようなことはせず、逆に新作への期待が高まりましたが──。1分16秒の短いトラックであっても、強烈な存在感のある一曲だと思います。
Surreal
バイーア州出身のラッパー、Baco Exu do Blues(バコ・エシュ・ド・ブルース)とのコラボ。このふたりは、シングル曲”Hotel Caro“のコラボも記憶に新しいですよね。
なお、こういった曲がブラジルでは「R&B」とされているようです。アメリカの現代のR&Bとはまた違うので、「ブラジル流R&B」と呼んだほうが適切かもしれません。
Iguaria
サウンドは欧米っぽいですが、メロディーラインはセルタネージョ(ブラジルのカントリー・ミュージック)のような良曲。まさに「ブラジルでしかありえないポップス」で、個人的にアルバムの中でもかなり好きな曲です。
Chico
ルイーザの新恋人のインフルエンサー、Chico Moedas(シコ・モエダス)に捧げられた曲で、タイトルはその名も”Chico“(シコ)。ボサノバ風の穏やかな曲で、優しい繊細な歌声を聴かせます。
この記事を書いている2023年9月15日時点で、Spotify Brazilのトップチャートで2位を維持しており、アルバム最大のヒット曲となるかもしれません。
情感のあるバラードが得意なルイーザの持ち味を生かし、新境地を開いている曲だと思います。
Onde é Que Deu Errado?
アコーディオンが印象的なセルタネージョ風の曲。
ブラジルのカントリー・ミュージック、セルタネージョは、ルイーザの出身地であるブラジル南部の農園地帯で人気の音楽です。「ルイーザはセルタネージョが上手い」と私は思っているのですが、この曲では、まさにそんな彼女の魅力が発揮されています。
Penhasco 2
アメリカのDemi Lovato(デミ・ロヴァート)とのコラボ曲。デミロヴァートはブラジルで大人気のようで、ルイーザのこのアルバムの中でも最大の注目曲でした。そのため、アルバムのリリース直後は全トラックの中でも飛びぬけて再生されていたように記憶しています。2023年9月15日現在は、”Chico”の人気に押され、Spotify Brazilのチャートで3位です。
曲のタイトルは、”Penhasco2“(ペニャスコ・ドイス)。ルイーザの重要なレパートリー、”penhasco.“(ペニャスコ)の続編という位置づけなのだと思います。
ここに貼ったのは”penhasco.“のアコースティック・バージョンです。オリジナル音源は、ルイーザの2枚目アルバム”Doce 22“(ドーシ・ヴィンチドイス)に収録されています。
Interlúdio – Dão Errado
MPBのシンガーソングライター、Vanessa da Mata(ヴァネッサ・ダ・マタ)の2002年のヒット曲をダークにアレンジした間奏曲。ふたつの曲を聴き比べると、印象が全然違いますが、歌詞とメロディーは確かに一緒ですよね。
Ana Maria
ペルナンブーコ州レシフェ出身のシンガーソングライター、Duda Beat(ドゥダ・ビーチ)とのコラボ曲。
ドゥダ・ビーチは女の情念を歌うのが得意で、もともとは落ち着いたダークな世界観だったのですが、近年はフォホー(ブラジル北部のダンス音楽)のリズムを取り込んだり、アゲアゲなリミックス・アルバムを発表したりして、新境地をひらいています。
“Ana Maria“(アナ・マリア)は、そんな今現在のドゥダ・ビーチらしい、洗練されたエレクトロニック・ミュージックです。
Lança Menina
軽快なロック・チューン。ルイーザがリスペクトするブラジルの「ロックの女王」、Rita Lee(ヒタ・リー)の歌を引用しています。歌声も力強く、聴いていて元気の出る一曲です。
Rita Leeは、長い闘病生活の末、今年5月に他界しました。完全に個人的な話になってしまいますが、私はRita Leeが大好きで、こうして記事を書きながら、「他界した」とタイプして涙が出ました。「この世にヒタリーがいない」ということが、まだ受け入れられていません──。でも、”Lança Menina“(ランサ・メニーナ)を聴いて、「ヒタリーの精神がルイーザの中に生きている!」と感じ、すごく嬉しかったです。
元ネタとなった曲は、1980年の”Lança Perfume“(ランサ・ペルフミ)。ルイーザのバージョンとあわせて、ぜひこちらもご試聴ください。
最後に
ルイーザ・ソンザのアルバム、”Escândalo Íntimo”は、ルイーザのルーツともいえるロックに回帰し、MPBやボサノバも取り込んだ意欲作です。古き良き時代の音楽を再解釈しつつ、今のブラジルの音楽界で注目のアーティストをゲストとして招き、新しい音楽を作り出しています。ルイーザの名前を知っている方はもちろん、ブラジルの音楽に関心のある方は必聴の一枚です。
なお、4部構成になっている長いアルバムで、まだ発表されてないトラックもあります。この記事も、順次更新する予定です。