イヴェッチとは、誰?
Embed from Getty Imagesブラジルの国民的歌手、Ivete Sangalo(イヴェッチ・サンガロ)。1993年のデビュー以来、ジャンルをこえてポップなヒット曲を歌い続けてきました。
彼女の歌は、どれもパワフルで元気をもらえるものばかり。力強い歌声と、エネルギッシュなパフォーマンスを少しでも見れば、彼女が人気なのも納得できると思います。
また、私生活では、数度の流産を経験しながらも、2009年に37歳で第一子を、2018年には45歳で双子を出産。出産育児と並行して精力的なライブ活動をおこない、「ラテンの明るさ」に満ちあふれた音楽をずっと聴衆に届けてきました。
そして、常に「旬」なアーティストとコラボしているのも見逃せません。このブログで紹介しているアーティストも、彼女とコラボしています。Emicida(エミシーダ)、Criolo(クリオーロ)、Ludmilla(ルドミラ)、PablloVittar(パブロ・ヴィター)、Iza(イザ)…。昔ながらのラテンミュージックを歌うだけでなく、幅広いジャンルのアーティストと共演しています。
簡単なバイオグラフィー
イヴェッチ・サンガロは、1972年5月27日、バイーア州のジュアゼイロ生まれ。
「アシェー」というジャンルの音楽が大流行する中、1993年から、アシェーのバンド、Banda Eva(バンダ・エヴァ)のボーカリストとしてデビューし、大ヒットしました。
1999年にソロデビューすると、圧倒的カリスマで、国民的なスターの座を獲得。
「70年代はエリス・レジーナ、80年代はガル・コスタ、90年代はマリーザ・モンチ」…「00年代はイヴェッチの時代」と表現されるほど、時代を象徴するアーティストとなりました(『ムジカ・モデルナ』、ウィリー・ヲゥーパー著、2006年、アスペクト)。
いまも現役で精力的にライブをおこない、著名なアーティストとのコラボも積極的におこなってきたことは、先にも述べました。
アルバム”Onda Boa com Ivete”について
そんなイヴェッチが、2022年に新作アルバムをリリース。“Onda Boa Com Ivete”(オンダ・ボア・コン・イヴェッチ)です。英語でいえば、”Good Wave With Ivete”。まさにイヴェッチと「良い波」を楽しむ一枚になっています。
“Onda Boa com Ivete”は、ブラジルの有料放送HBO Maxの音楽番組のタイトルでもあります。イヴェッチが毎回いろいろなアーティストを招き、コラボするという内容の番組です。
残念なことに、日本在住の私は視聴できていません…。視聴できるようになることを願ってます。
第一話の公開は、2022年1月20日。同年2月24日には、音源がリリースされました。
ブラジル音楽初心者の方にもオススメ!
そんな「番組発」のアルバムですが、ブラジル音楽初心者の方に自信をもってオススメできる内容になっています。ゲストの人選がバリエーションに富んでおり、いろんなジャンルの曲が収録されているからです。
「なんとなくブラジルのポップスに興味があるけれど、まず何から聴けばいいのか分からない」という方にとっても、良い「発見」のある一枚となるはず。「アシェー」、「MPB」など、ジャンルとの出会いもあれば、アーティストとの出会いもあるでしょう。
私自身、このアルバムを通して、Agnes NunesやMaestrinhoといったアーティストを知ることができました。
それでは、前置きはこれくらいにして、ゲストを迎えた曲を見ていきましょう。
共演者たちと曲の紹介
Gloria Groove
一曲目はアメリカンなファンク。イヴェッチの曲“Abalou”を引用し、ほんのちょっと「アバロウ」と言っています(リンクはYoutubeに飛びます)。
ライブ映像では、二人でピンクのふわふわした衣装で飛び跳ねていて、ひたすらキュートです。
そんな共演者のGloria Groove(グロリア・グルーヴ)は、男性のドラァグクイーンのアーティスト。子役出身の歌手で、アメリカのブラックミュージックをファンキ(Funk)と融合させたポップスをやっています。
ややこしいですが、アメリカのファンクとブラジルのファンキは、同じスペルでも全く違うジャンルです。「ファンキ」、「MPB」、「アシェー」のようなブラジル独自の音楽ジャンルがよく分からないという方は、ぜひ次の記事をご覧ください。
Vanessa da Mata
二曲目は、MPB(エミペーベー)。不思議な陰りがあって、心に残るメロディーで、個人的にはこのアルバムの中で一番好きな曲です。
共演者は、Vanessa da Mata(ヴァネッサ・ダ・マタ)。21世紀のMPBを代表するディーヴァのひとりです。
Carlinhos Brown
「これぞラテン!これぞブラジル!」という感じの、とにかく楽しくて踊りだしたくなるようなAxé(アシェー)の曲。
Carlinhos Brown(カルリーニョス・ブラウン)は、1990年代のアシェー・ムーブメントの立役者のひとりです。歌声はもちろん、ファッションも最高だし、存在感がすごいですよね。
そして、私もTwitter経由で教えていただいたのですが、映像の冒頭で映る髪の長い少年は、なんとイヴェッチの息子さん。13歳の長男マルセロ君で、パーカッショニストとして修行中みたいです(詳しくはこちらの外部記事をどうぞ)。
Agnes Nunes
Agnes Nunes(アグネス・ヌネス)は、2019年から音源を発表している新人歌手。ノルデスチ(ブラジルの北東部)出身で、Elza Soares(エルザ・ソアレス)を尊敬しているという、ネオ・ソウル系アーティストです。
このコラボはクラシカルな感じのソウルで、イヴェッチの包容力ある歌声と、アグネス・ヌネスの甘い歌声が、とても心地よい一曲です。
Iza
Iza(イザ)は、2016年、彗星のごとく現れたR&Bの歌手。もはやブラジルのR&Bを代表するアーティストであり、米国の雑誌Time(タイム)では「次世代のリーダー」に選ばれています。
この曲はレゲエ調のポップスで、二人の「姉御肌」な感じの声がとてもマッチしています。
ちなみにイザはイヴェッチのファンで、デビューアルバムでもコラボしており、その曲を収録するためにアルバム発表を遅らせているほど。イヴェッチが幅広い層のファンから愛され、アーティストからの信望も厚いことをよく表すエピソードだと思います。
Mestrinho
Mestrinho(メストリーニョ)はアコーディオン奏者で、プロデューサーや編曲家としても活動しているそう。
もともと私は知らないアーティストだったのですが、このコラボで知り、Mariana Aydar(マリアナ・アイダル)の名曲”Te faço um cafuné”をカバーしていることに気づいて、一気に興味を持ちました。
イヴェッチとの共演では、楽器の編成がブラジルらしいですが、イタリア映画のような南欧系の哀愁が溢れています。そしてこのライブの、「キャンプの夜」みたいな雰囲気が、また素敵です。まさに「サウダーヂ」(郷愁)を感じます。
最後に
イヴェッチの2022年のアルバム、”Onda Boa com Ivete”から、コラボ曲をひとつひとつ紹介してきました。
こうして見てみると、本当にいろんなジャンルの、いろんなアーティストとコラボしています。大御所から若手まで、分け隔てなく楽しそうに共演しているのも素敵ですよね。相手の魅力を引き出して、イヴェッチ自身もカリスマ性を発揮しているところは、さすがだなと思います。
そんな彼女も、2022年5月27日で50歳になりました。50歳は、まだ人生の折り返し地点。これからも彼女の活躍が楽しみです。
なお、50歳の誕生日に記念ライブを開催しています。詳しくはこちらの記事もどうぞ。