Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)とは、誰?
世界的に有名なブラジルのドラァグ・クイーン
Embed from Getty Imagesブラジルのドラァグ・クイーン、Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)は、2015年にYouTubeで衝撃的なデビューを果たして以来、LGBTQのアイコンとして国内外の人気を集め、数々のヒット曲を世に送り出してきました。Instagramのフォロワー数は現在1299万人に達し、世界一フォロワー数の多いドラァグクイーンとしても知られています。
パブロ・ヴィターの魅力は、高音域のクリアで力強い歌声と、長身を生かしたダンス、そして唯一無二の笑顔。Lady Gaga(レディー・ガガ)やRina Sawayama(リナ・サワヤマ)など海外のアーティストとも積極的にコラボしており、2024年にはSevdaliza(セヴダリザ)の楽曲「Alibi」(アリバイ)に参加しています。この曲は世界的な大ヒットをとげました。
この記事では、そんなパブロのバイオグラフィーを深堀し、代表曲を紹介していきます。なお、名前の読み方は「パブロ・ヴィッタル」や「パブロ・ヴィタール」など色々ありますが、このサイトでは「パブロ・ヴィター」で統一します。
バイオグラフィー
子供時代
パブロ・ヴィターの本名は、Phabullo Rodrigues da Silva(パブロ・ホドリゲス・ダ・シウバ)。1993年11月1日、赤道近くの港町、マラニャン州サンルイスで男の子として生まれました。
じつはパブロは双子で、双子の妹、年上の姉、そしてお母さん、という家族構成です。お母さんは看護技術者として働き、女手一つで三人の子を育てており、苦労も多かったのではないでしょうか。職場が変わるたびに引越しを繰り返しており、ブラジルの北部であるマラニャン州やパラ州の各地を転々としていたそうです。
ここで重要なのは、パブロが生まれ育った場所が「ブラジル北部」ということ。ブラジルという国はとても広く、地域ごとに色々な音楽が根付いています。そんな中でもブラジル北部は、ブレーガやフォホーというジャンルの音楽が根付いている場所で、パブロも小さい頃からそういった音楽を聴いて育っています。こうしたルーツゆえ、パブロの歌う曲はフォホーやブレーガが多いのが特徴です。
性別、セクシュアリティーの悩み
小さなころから女の子っぽかったというパブロは、声が高いことを学校でからかわれていたそうです。食堂で突然、熱いスープの入った皿を顔に投げつけられたこともあったとか。
こうした経験から、パブロはLGBTQに向けられる差別に抗議する姿勢を、デビュー当初からはっきり表明しています。なお、パブロの政治性に関する話は、こちらの記事にまとめてありますので、よければお読みください。
ルポールのドラァグレースとの出会い
アーティストになることを夢見て16歳で家を出て、大都会サンパウロに約2年住んだ後、パブロは家族のもとに戻り、一家でミナスジェライス州のウベルランジアに転居しています。
この頃に見たというテレビ番組、「ルポールのドラァグレース」が、パブロの人生を大きく変えることになりました。
Embed from Getty Images「ルポールのドラァグレース」は、「アメリカの次のドラァグ・スーパースター」の座をめぐって出場者が芸を競う、コンテスト形式のリアリティー番組です。世界一有名なドラァグ・クイーンとも呼ばれるルポールが司会と審査員をつとめ、数多くの有名人を輩出しており、いまや世界中に根強いファンをもつ長寿番組だといえます。
パブロはこの番組のシーズン7を見て、ドラァグのアーティストになりたいと決意。17歳で初めて女装をし、最初の仕事としてはクラブでフライヤー配りをしたそうです。そして18歳ごろから、クラブのショーに出演したり、Youtubeに動画を投稿するようになります。
2015年「Open bar」が話題に
そんなパブロにデビューのチャンスをもたらし、その後もプロデューサーとして音楽面を支え続けることになったのが、Rodrigo Gorky(ホドリゴ・ゴーキー)でした。
Rodrigo Gorkyは、2000年代にBonde Do Rolê(ボンヂ・ド・ホレ )のDJとして活躍していたアーティストで、Diplo(ディプロ)のレーベルMad Decent(マッドディセント)から音源を出し、ブラジルのバイレファンキを最先端のクラブミュージックとして世界に紹介するという役割を果たしています。
そんなゴーキーのプロデュースのもと、最初にパブロが取り組んだのが、「Lean On」(リーン・オン)のカバーでした。「Lean On」は、DiploのプロジェクトであるMajor Lazer(メジャー・レイザー)が仕掛けた世界的な大ヒット曲で、2015年3月にリリースされています。この曲のカバーであるパブロの「Open Bar」(オープン・バー)は、2015年10月にYoutubeにアップされ、SNSで話題となりバイラルヒットをとげました。
こうして2015年12月には、EP 「Open Bar」(オープンバー)を発表。Beyoncé(ビヨンセ)やRihanna(リア―ナ)のカバー曲も収録されていたのですが、残念なことに著作権の問題で今はもう聴くことができません。唯一「Open Bar」だけが、Diplo本人のお墨付きを得て、現在も公開されています。
2017年アルバム「Vai Passar Mal」でメジャーデビュー
その後もテレビ番組の出演やツアーで着実に人気を集めたパブロは、2017年に1枚目のアルバムとなる「Vai Passar Mal」(ヴァイ・パサール・マウ)をリリースします。
「Vai Passar Mal」の収録曲「K.O.」(ケーオー)は、いまだにパブロの代表曲ともいえる大事な一曲です。独特なリズムですが、これはブラジル北東部(ノルデスチ)発のダンスミュージックであるForró(フォホー)のリズムで、パブロはこの後もフォホーのポップスをたくさん歌っていくことになります。
同じ2017年、Major Lazer(メジャー・レイザー)の楽曲「Sua Cara」(スア・カラ)でAnitta(アニッタ)と共演。この曲はラテングラミーにノミネートされることになりました。
モロッコで撮影されたというMVは、映画「マッドマックス」のような雰囲気の作品で、アニッタのセクシーなダンスも見所なのですが、途中でパブロが出てきた瞬間、全体の雰囲気が明るく切り替わるのが印象的です。私はこれを見るたびに、パブロのカリスマ性を感じます。
2018年 2枚目アルバム「Não Para Não」
2018年10月には、2枚目のスタジオアルバムとなる「Não Para Não」(ノン・パラ・ノン)をリリースしています。EDMからしっとりした曲まで、伸びやかな高音域の声で歌いこなすパブロの魅力が詰まった一枚です。なかでも収録曲「Disk Me」(ジスキ・ミ)の歌声とミュージックビデオの美しさは圧巻です!
アルバム「Não Para Não」(ノン・パラ・ノン)のリリース以降、パブロは数々の音楽賞を獲得するようになります。2019年には、ブラジルのMTVが主催する音楽賞「MTV MIAW」のMusical Act部門、ヨーロッパのMTV主催の「MTV EMA」でBest Brazilian Act部門を受賞。いずれもファン投票による音楽賞なので、若者からの圧倒的な支持がこうした形で現れたといえるでしょう。
Embed from Getty Images2020年 3枚目アルバム「111」
国内外で人気が高まる中、海外ファンを意識して制作されたのが、3枚目アルバムとなる「111」(セントイオンジ)でした。パブロの誕生日である「11月1日」にちなんだタイトルで、英語やスペイン語の曲を収録しており、海外アーティストとのコラボも注目の一枚です。
この中から、イギリスのCharli XCX(チャーリー・エックス・シー・エックス)とコラボした「Flash Pose」(フラッシュ・ポーズ)を紹介します。英語のエレクトロポップで、ミュージックビデオでは、「ルポールのドラァグレース」シーズン13に出場したトランスのドラーグクイーン、Gottmik(ゴットミク)がメイクを担当しています。
2021年 4枚目アルバム「Batidão Tropical」
2021年の4枚目アルバムは、ブラジル北部の音楽ジャンル、Tecnobrega(テクノブレーガ)をフィーチャーした作品となりました。タイトルは「Batidão Tropical」(バチダン・トロピカウ)。日本語に訳すと「熱帯のビート」です。
日本人の感覚だと「北は寒い」というイメージがありますが、南半球のブラジルでは北に行けば行くほど暑く、ブラジル北部は気候としては熱帯で、カリブ海地域の影響を受けた独自の文化が根付いているそうです。
そんな北部が発祥のBrega Pop(ブレーガ・ポッピ)、そしてTecnobrega(テクノブレーガ)と呼ばれるジャンルは、パブロが幼少期に触れていた、いわばパブロのルーツともいえる音楽。フォホーやエレクトロポップのように他のアーティストもやっている人気ジャンルだけでなく、もはや全国的には「懐メロ」となっていたブレーガにも取り組むことで、「今のブラジルポップス界で、パブロヴィターにしかできないこと」をやった作品になったと思います。
「Bang Bang」(バンギ・バンギ)は、テクノブレガのバンドCompanhia do Calypso(コンパニア・ド・カリプソ)の同名曲のカバー。「ズンチャチャズンチャッ」というエイトビートのリズムに、ポップでキッチュなメロディーが印象的で、典型的なブレーガポッピの曲です。ミュージックビデオでは、本家Companhia do Calypsoの衣装とダンスを再現しています(こちらが本家の映像です)。
また2021年の12月には、ライブ・アルバム「I Am Pabllo」(アイ・アム・パブロ)をリリース。「地水火風」のモチーフで四部構成となったオンライン・ライブの音源で、パブロのベストアルバムともいえる内容となっています。シングルカットされた「Trago Seu Amor De Volta」(トラゴ・セウ・アモー・ジ・ヴォウタ)は、Dilsinho(ジウシーニョ)をゲストとして迎えており、アルバム「Não Para Não」のオリジナル版を上回るパフォーマンスだと思います!
2022年 コーチェラ単独公演
2022年はアルバムのリリースこそ無かったものの、4月にアメリカの音楽フェスCoachella(コーチェラ)でドラーグクイーンとして初めて単独公演を実現。リリースして間もないRina Sawayama(リナ・サワヤマ)とのコラボ曲「Follow Me」(フォロー・ミー)をステージ上で共演し、そのライブ動画は世界中に生配信されました。
2023年 5枚目アルバム「Noitada」
2023年には5枚目アルバム「Noitada」(ノイターダ)をリリース。音楽的にはブラジル独自のストリートミュージックであるFunk(ファンキ)をフィーチャーした作品です。パブロの歌声よりもDJの仕事っぷりが印象的な一枚なのですが、このアルバムに収録されている「Ameianoite」(アメイアノイチ)は、Gloria Groove(グロリア・グルーヴ)が参加しており、ブラジルのドラァグ・クイーンの2大巨星の共演として必聴です。
「Noitada」と同じ年、パブロはブラジル音楽の名曲をいくつかカバーしています。ヒットはしませんでしたが、重要だと思うので紹介しておきます。
女性ロック歌手、Pitty(ピチー)の2003年の人気曲「Equalize」(エクアリジ)のカバーです。レゲエやフォホーのリズムに乗ったパブロの歌声が明るく、「パブロはフォホーが合う」ということがよく表れている一曲だと思います。
2024年 6枚目アルバム「Batidão Tropical Vol. 2」
6枚目アルバム「Batidão Tropical Vol. 2」(バチダン・トロピカウ・ボウミ・ドイス)は、その名の通り4枚目アルバムの続編で、テクノブレーガやフォホーなどブラジル北部の「熱帯のビート」を扱った作品です。
収録曲「Pede Pra Eu Ficar」(ペジ・プラ・エウ・フィカー)は、フォホー風のポップスです。ちなみに記事冒頭で紹介したヒット曲「São Amores」(サン・アモーリス)も、このアルバムに収録されています。
フォホーの一種であるピゼイロのブームを引き起こした João Gomes(ジョアン・ゴメス)とのコラボ曲も、2024年にリリースされています。こちらもパブロの歌声が最高です!
来日公演、待ってます!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。私の個人的な趣味が強い記事ですが、この記事を通してパブロヴィターの魅力が少しでもお伝えできていれば嬉しいです。
なお、パブロはデビュー以来、政治的な言動でも影響力を持ってきました。このことについては次の記事に詳しくまとめてあります。長文ですが、読めばパブロの魅力をもっと深堀りできるので、時間があるときにゆっくり読んでください。
最後に、パブロがまさかの日本語で「東京に連れて行って!」と歌う、Chameleo(カミリオ)とのコラボ曲を貼っておきます。来日公演を待っています!