Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)とは、誰?

パブロ・ヴィター アーティスト紹介
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Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)とは、誰?

世界的に有名なブラジルのドラァグ・クイーン

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ブラジルドラァグ・クイーンPabllo Vittar(パブロ・ヴィター)は、2017年のデビュー以来、数々のヒット曲を世に送り出し、ブラジリアン・ポップス界のトップスターとして注目を集めてきました。

高音域のクリアで力強い歌声と、長身を生かしたダンスは圧倒的で、Lady Gaga(レディー・ガガ)Rina Sawayama(リナ・サワヤマ)など海外のアーティストともコラボし、国際的な知名度もますます高くなってきています。

この記事では、Pabllo Vittarのバイオグラフィーを、代表曲とともに紹介していきます。

Pabllo Vittarという名前の読み方

なお、Pabllo Vittarという名前の読み方は、「パブロ・ヴィッタル」が正確なようです。ただ、日本語では「パブロ・ヴィター」や「パブロ・ヴィタール」で定着しつつあるので、このブログでは「ヴィター」と表記することにします。

バイオグラフィー

子供時代

Pabllo Vittarの本名は、Phabullo Rodrigues da Silva(パブロ・ホドリゲス・ダ・シウバ)

1993年11月1日、赤道近くの港町、マラニャン州サンルイスで、母子家庭に男の子として生まれました。

実は、パブロは双子です。双子の妹さんと、年上のお姉さんがいます。

お母さんは看護師で、その職場が変わるたび、一家はマラニャン州、パラ州の各地を転々としていました。

一方で、音楽好きなお母さんの影響なのか、教会の聖歌隊で歌ったり、クラシックバレエとジャズダンスを習っていたそうです。

性別、セクシュアリティーの悩み

小さなころから女の子っぽかったというパブロは、声が高いことを学校でからかわれていたそうです。食堂で突然、熱いスープの入った皿を顔に投げつけられたこともあったとか──。

そんな偏見や悪意と戦いながらも、アーティストになることを夢見て、16歳でサンパウロに上京しています。この上京の後、自分がゲイであることをお母さんにカミングアウトすると、お母さんは温かく受け入れ、以降パブロの活動を応援し続けてくれているようです。

ルポールのドラァグレースとの出会い

サンパウロに約2年住んだ後は、家族でミナスジェライス州のウベルランジアに転居しています。

この頃に見た番組『ルポールのドラァグレース』が、パブロの人生を大きく変えることになりました。

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『ルポールのドラァグレース』とは、「アメリカの次のドラァグ・スーパースター」の座をめぐって出場者が芸を競う、コンテスト形式のリアリティー番組です。アメリカを代表するドラァグクイーンのルポールが、司会と審査員を務め、いまや世界中に根強いファンをもち、強い影響力をもった長寿番組となりました。

この番組のシーズン7を見て、ドラァグ・クイーンとしてアーティストになりたいと思ったパブロは、17歳で初めて女装をし、クラブでフライヤー配りをしたそうです。

そして18歳になると、クラブのショーに出演したり、Youtubeに動画を投稿したりするようになります。また、こうした活動のかたわら、ウベルランジア連邦大学のインテリアデザイン科に入学しています(のちに芸能活動が忙しくなり中退)。

2015年”Open bar” Youtube発、ブラジルのドラァグ・スター

ドラァグ・クイーンの歌手として、少しずつ手ごたえをつかんだパブロは、プロデューサーRodrigo Gorky(ホドリゴ・ゴーキー)を紹介してもらい、彼のもとで音楽活動に専念することになります。

最初の仕事は、Major Lazer(メジャー・レイザー)“Lean On”(リーン・オン)のカバー。2015年10月、”Open Bar”(オープン・バー)というタイトルで動画がYoutubeにアップされると、すぐに話題となり、異例の再生回数を記録することになりました。

Pabllo Vittar “Open Bar”

同年12月には、EP “Open bar”(オープン・バー)を発表しています。Beyoncé(ビヨンセ)Rihanna(リア―ナ)のカバー曲も収録されていたようですが、それらの曲は著作権の問題で現在聴くことができません。

2017年 デビューアルバム”Vai Passar Mal”

ツアーやテレビ番組への出演で注目を集めたパブロは、本格的な音楽活動に乗り出します。

2017年には、デビューアルバム”Vai Passar Mal”(ヴァイ・パサール・マウ)を発表。

次に紹介する“K.O.”(ケーオー)、そしてMateus Carrilho(マテウス・カヒーリョ)とコラボした“Corpo Sensual”(コルポ・センスアウ)は、とくにヒットしました。

Pabllo Vittar “K.O.”
Pabllo Vittar “Corpo Sensual” feat. Mateus Carrilho

同年、Major Lazer(メジャー・レイザー)の楽曲“Sua Cara”(スア・カラ)Anitta(アニッタ)と共演し、この曲でラテングラミー賞にノミネートされています。

Major Lazer “Sua Cara” feat. Anitta & Pabllo Vittar

モロッコで撮影されたというMVは、映画『マッドマックス』シリーズのような雰囲気の作品に仕上がっています。アニッタのセクシーなダンスも見所ですが、途中でパブロが出てきた瞬間、全体の雰囲気が明るく切り替わり、私はこれを見るたびにパブロのカリスマ性を感じます。

2018年 2枚目アルバム”Não Para Não”

2018年10月4日には、2枚目アルバム”Não Para Não”(ノン・パラ・ノン)をリリース。テンションの高いダンスチューンから、しっとりした曲まで、伸びやかな高音域の声で歌いこなすパブロの魅力が詰まった一枚です。

アルバムの中から、ヴォーカルの力がいかんなく発揮されている2曲を貼っておきます。“Seu Crime”(セウ・クリミ)“Disk Me”(ジスキ・ミ)です。

Pabllo Vittar “Seu Crime”
Pabllo Vittar “Disk Me”

ちなみにこのアルバムがリリースされた2018年10月は、ブラジル総選挙の時期でもありました。LGBTQ差別で有名なボルソナロが大統領候補として出馬する中、パブロは反ボルソナロを訴える若いアーティストとしても国内外の注目を集めていきます(詳しくはこちらの記事をどうぞ)。こうした政治的な背景もあり、ラジオ局の中には、パブロの曲をリクエストしても無視するような動きもあったようです。

そんな逆風を追い風にするかのように、パブロの人気は爆発的に高まり、”Não Para Não”のリリース以降、数々の音楽賞を獲得するようになりました。たとえば2019年には、ブラジルのMTVが主催する音楽賞MTV MIAWのMusical Act部門、ヨーロッパのMTV主催のMTV EMAでBest Brazilian Act部門を受賞しています(EMAは2020年も連続で受賞)。

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2020年 3枚目アルバム”111″

パブロの人気はブラジル国内にとどまらず、LGBTQのアイコンとして世界中の注目を集めるようになりました。

そんな中で2019年に制作されたのが、海外ファンを意識し英語スペイン語の楽曲を含んだEP “111 1”です。パブロの誕生日、11月1日にちなんだ題のこの作品は、二部作として計画され、翌年2020年にEP全曲を含むアルバム“111”がリリースされることになりました。

先行シングルとして、かつてコラボしたことのあるイギリスのCharli XCX(チャーリー・エックス・シー・エックス)と再びタッグを組んだ“Flash Pose”(フラッシュ・ポーズ)がリリースされています。

Pabllo Vittar “Flash Pose” ft. Charli XCX

ちなみに、このMVでメイクを担当しているのは、『ルポールのドラァグレース』シーズン13に出場したGottmik(ゴットミク)です。

2020年に発表された3枚目アルバム”111″は、ブラジル・ポップスの最先端をゆく個性豊かな楽曲の宝庫となりました。中でもMVが必見の曲を2曲、貼っておきます。“Clima Quente”(クリマ・ケンチ)“Amor de Que”(アモール・ジ・キ)です。

Pabllo Vittar “Clima Quente” ft Jerry Smith
Pabllo Vittar “Amor de Que”

2021年 4枚目アルバム”Batidão Tropical”

2021年に発表された4枚目アルバム”Batidão Tropical”バチダン・トロピカウ、「熱帯のビート」)は、パブロのアルバムの中で一番「ブラジルらしさ」を追求した、原点回帰的な内容になっています。最初の3曲がオリジナル、後半の6曲は、テクノ・ブレガと呼ばれるジャンルで、パブロの故郷であるブラジル北部(赤道近くの熱帯)の「懐メロ」をカバーしたものです。(「テクノ・ブレガって何?」という方は、こちらの記事をどうぞ。)

全ての楽曲について、反復映像をつけた「ビジュアライザー」をYoutubeで公開しているのですが、四半世紀前くらいのチープでクレイジーな空気感を絶妙に表現しています。

Pabllo Vittar “Zap Zum”

↑ テクノブレガで有名なCompanhia do Calypso(コンパニア・ド・カリプソ)の曲“Zap Zum”(ザピ・ズン)のカバー。キッチュなビジュアライザーがいい味を出しています。

Pabllo Vittar “Ama Sofre Chora”

↑ “Ama Sofre Chora”(アマ・ソフリ・ショラ)はオリジナル曲。MVは、アルバムで次に収録されているトラック“Triste com T”(トリスチ・コン・テー)と二本立てで、結婚が破談になった花嫁をテーマにしたひとつの物語になっています。「ピラニアも泣く」という歌詞にあわせた、熱帯魚のようなヘアメイクが素敵です。

同年の12月には、無観客で収録されたライブアルバム”I Am Pabllo”(アイ・アム・パブロ)をリリース。「地水火風」のモチーフで四部構成となったオンラインライブの音源と映像で、パブロのベストアルバムのような内容に仕上がりました。

シングルカットされた曲“Trago Seu Amor De Volta”(トラゴ・セウ・アモール・ジ・ヴォウタ)では、アルバム”Não Para Não”収録のオリジナル音源を上回るパフォーマンスをみせています。パゴージ出身のアーティスト、Dilsinho(ジウシーニョ)とのコラボです。

Pabllo Vittar, Dilsinho – Trago Seu Amor De Volta (I AM PABLLO LIVE)

2022年 豪華コラボの一年

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2022年はアルバムのリリースこそ無かったものの、ワールド・ツアーや大型フェスへの出演など、国際的な活躍がめざましく、豪華アーティストとのコラボも次々と繰り出した一年になりました。

ブラジル総選挙を半年後にひかえた3月のLollapalooza Brasil(ロラパルーザ・ブラジル)では、反ボルソナロの急先鋒となり、「ボルソナロ出てけ!」の呼びかけで海外メディアからも注目されました(詳しくはこちらの記事をどうぞ)。また、アメリカのCoachella(コーチェラ)では、ドラーグクイーンとして初めて単独公演をおこなっています。

Pabllo Vittar – Follow Me (feat. Rina Sawayama) (Official Music Video)

↑ リナ・サワヤマとのコラボ、“Follow Me”(フォロー・ミー)。コーチェラではまさかの共演が実現し、客席を沸かせました。

LGBTQのロールモデルとして

さて、ここで音楽の話を終え、最後に「LGBTQのロールモデル」としてのパブロの横顔に触れておこうと思います。

次の動画をご覧になってみてください。ファッション誌Vogue(ヴォーグ)が企画した、メイクアップ動画です。英語字幕付きで、メイクの技術だけでなく、パブロの明るくて芯のある人柄がよく分かる動画になっています(ヴォーグの公式サイト)。

Brazilian Pop Star Pabllo Vittar’s Spectacular 15-Minute Drag Transformation | Beauty Secrets

──LGBTQのアーティストとして偏見と戦うのは厳しいことだけれど、だからこそロールモデルになりたい──私の音楽で困難を切り抜けられたとか、ありのままの自分でいいんだと思えたとSNSでメッセージを受け取ると、やりがいを感じる──

この動画では、仕事に対するそんな思いが、ユーモアを交えながら語られています。

パブロは、LGBTQの権利を守り、ロールモデルになるという強い使命感ゆえ、政治的な発言や行動を、積極的におこなってきました。

こうした政治的側面については、次の記事に詳しくまとめたので、興味のある方はぜひご一読ください。

最後に

ここまで、Pabllo Vittarのバイオグラフィとともに、代表的な曲をたどってきました(リミックスアルバムには触れませんでした)。

パブロは、ドラァグ・クイーンのカルチャーの中だけで成功したわけではありません。大衆的な支持を得て、ブラジルのポップスを代表するスターになりました。そして、音楽活動だけでなく、LGBTQの権利を守るため、積極的に政治的な発言やアクションをしています。

今のブラジルの音楽界では、ドラァグ・クイーンやトランスなど色々な属性の人たちが最前線で活躍していて、性別を超えた美しさや技能が多くの人の支持を得ているように見えます。そのような状況になったのは、今までのたくさんのアーティストの成果だと思いますが、状況を劇的に変えるきっかけはPabllo Vittarだった、と評価する人が少なくありません。

「ドラァグの」とか、「実は男で」といった説明抜きにして、みんなが楽しめるいい歌を、きれいにメイクアップして明るく歌う。そんなパブロの姿が、世界中の人の心をつかみ、世の中を変えつつあるのではないでしょうか。

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