- “Numanice (Ao Vivo)”とは?
- 楽曲紹介
- 1. Ela Não
- 2. Desse Jeito é Ruim Pra Mim / Perfume / Antes de Dizer Adeus
- 3. Não é Por Maldade
- 4. Cheiro Bom do Seu Cabelo
- 5. Te Amar Demais / Best Part
- 6. Eu Te Uso e Sumo / Não Seria Justo / Nem Pensar
- 7. Amor Difícil
- 8. Vai e Volta
- 9. Sintoma de Amor / Depois do Amor / Agenda
- 10. I Love You Too
- 11. Mande Um Sinal / Sinais
- 12. Tô de Boa
- 13. Um Pôr do Sol na Praia
- 14. Vai Lá Vai Lá / Que Mulher (Nega danada) / Cadê Ioiô / Alguém Me Avisou
- 最後に
“Numanice (Ao Vivo)”とは?
Ludmilla(ルジミーラ)の“Numanice (Ao Vivo)”(ヌマナイシ・アオ・ヴィーヴォ)は、2021年1月29日にリリースされたライブ・アルバムです。
全曲がサンバの一種である「パゴージ」(Pagode、パゴーヂ)というジャンルで、彼女のパゴージ・プロジェクトである“Numanice”(ヌマナイシ)の一作品として製作されました。
その前に、「パゴージとは何?」という方は、こちらの記事をどうぞ。記事を読まなくても、「ポップなサンバのこと」という理解でとりあえず問題ないと思います。
また、“Numanice”シリーズの全貌については、こちらの記事をどうぞ。”Numanice”という言葉の意味や読み方、ディスコグラフィーもまとめてあります。
Ludmillaのパゴージ作品の中でも、特にオススメ
Ludmillaのパゴージ作品を初めて聴くという方に、私がまずオススメしたいのは、この“Numanice (Ao Vivo)”です。
理由は三つあります。
一。まず、ライブの選曲が良いです! Ludmillaの曲に加えて、昔のサンバやパゴージの曲も演奏されており、「伝統の後継者」であろうとする気概が伝わってきます。
二。それでいて、今現在の音楽のトレンドを取り込み、誰もが楽しめる「ポップス」になっています。初めてブラジリアン・ポップスを聴く人も、入りやすい一枚だと思います。
三。そして何より、Youtubeで視聴できる屋外ライブの動画が最高なんです! 背景となっているリオデジャネイロの絶景だけでも、一見の価値があります。
ただ、演奏されている曲が多いです。これは嬉しくもあり、厄介なことでもあります。私自身、「これは誰の曲?」「このコラボ相手は誰?」といったことが最初はよく分からなったので、良さを100%は理解できていませんでした。
そこで、この記事では、ライブで演奏された曲が誰の曲なのか、どういったアーティストとのコラボなのか、ひとつひとつ紹介していこうと思います。このページがLudmillaの作品を楽しめる場となれば嬉しいです。
最高のロケーション
曲紹介の前に、ライブが開催された場所について、触れておきます。
“Numanice (Ao Vivo)”のライブは、リオデジャネイロのポン・ヂ・アスーカル(Pão de Açúcar)で開催されました。ポン・ヂ・アスーカルというのは、直訳して「砂糖のパン」という名前の巨大な岩山で、その名の通りコッペパンをまっすぐ突き立てたような形をしています。ロープウェイを乗り継いで山頂にのぼることもでき、リオの海岸を一望することができる観光名所としても知られています。
その山頂で、Ludmillaはライブをおこないました。なんと史上初とのことです。
当時ブラジルではコロナの感染が急速に再拡大しており、ロックダウンをめぐり政界でも世論でも大激論が交わされていました。そんな中、無観客でライブを開催するということで、観客がいないからこそ実現できる特別なロケーションとして選ばれたようです。
なお、ここを貸し切るために、約100万レアル(当時のレートで約2000万円)かかったとのこと。その価値のある絶景のライブとなっています(Metrópoles, 2021/01/26)。
それでは、一曲ずつ曲を見ていきましょう。
楽曲紹介
1. Ela Não
“Ela Não“(エラ・ナン)はこのライブのためのオリジナル曲。覚えやすいフレーズで、アルバムの顔ともいえる一曲です。Spotifyでは今現在、Thiaguinho(チアギーニョ)とのコラボ曲に次ぐ再生回数を記録しています(2022/12/12)。
2. Desse Jeito é Ruim Pra Mim / Perfume / Antes de Dizer Adeus
パゴージの男性歌手Belo(ベロ)の曲を3曲、メドレー形式で歌っています。Beloは典型的な「パゴージ・ホマンチコ」(Pagode Romântico)の歌手。パゴージホマンチコというのは、スペルの通り「ロマンチックなパゴージ」で、パゴージの中でもバラード色が強い音楽のことです。
3. Não é Por Maldade
“Não é Por Maldade“(ナン・エ・ポル・マウダージ)は、Ludmillaのオリジナル曲。もともと”EP Numanice”に収録されていた曲で、Marvvila(マーヴィッラ)というパゴージの若手女性歌手とデュエットしていましたが、そのバージョンは現在すべての音楽プラットフォームから削除されています。どういった事情だったのかは分かりませんが、大好きなコラボだっただけに残念です。
とはいえ、パゴージ・バンドSorriso Maroto(ソヒーゾ・マロート)との共演も最高で、このアルバムの中でも特に際立った曲となっています。
4. Cheiro Bom do Seu Cabelo
“Cheiro Bom do Seu Cabelo“(シェイロ・ボン・ド・セウ・カベーロ)は、“EP Numanice”の曲。EPの中でも軽快な曲で、ライブではリオの絶景と最高にマッチしています。
5. Te Amar Demais / Best Part
“Te Amar Demais“(チ・アマール・デマイス)は、Sodréというアーティストの2018年の曲で、“EP Numanice”でパゴーヂ調にカバーされました。ライブでは、パゴージ・バンド、Di Propósito(ヂ・プロポジト)と共演しています。
最後にワンフレーズだけ繰り返し歌われているのは、カナダのDaniel Caesar(ダニエル・シーザー)の曲”Best Part (feat. H.E.R.)“(ベスト・パート)。北米のR&Bとパゴージが自然に溶け合っている一曲です。
6. Eu Te Uso e Sumo / Não Seria Justo / Nem Pensar
このメドレーで歌われているのは、Mr. Dan(ミスター・ダン)の“Eu Te Uso e Sumo”、Exaltasamba(エザウタサンバ)の“Não Seria Justo”と“Nem Pensar”。
Exaltasambaは、パゴージ・ホマンチコの中でも特に人気を博したバンドのひとつです。そしてこの後、ExaltasambaのボーカルだったThiaguinho(チアギーニョ)が出てくるという演出になっています。
7. Amor Difícil
“Amor Difícil“(アモール・ジフィシウ)は“EP Numanice”の曲。元Exaltasamba(エザウタサンバ)でパゴージ界のスター歌手、Thiaguinho(チアギーニョ)との共演です。チアギーニョが出てきた瞬間から、一気に場の雰囲気が楽しくなるのが伝わってきますよね。ライブ映像を見ているだけで思わず顔がほころぶようなコラボです。
8. Vai e Volta
Ludmillaのアルバム“Hello Mundo”(ハロー・ムンド)に入っていたR&B調の曲”Vai e Volta“(ヴァイ・イ・ヴォウタ)を、パゴージ風にアレンジしています。
9. Sintoma de Amor / Depois do Amor / Agenda
このメドレーではパゴージ・ホマンチコの懐メロが3曲歌われているのですが、特に「バラード度」の高い選曲です。
“Sintomas de amor”は、Grupo Disfarce(グルポ・ディスファルシ)というパゴージ・バンドの曲。“Depois do amor”と“Agenda”は2曲とも元がデュエットの曲で、Belo(ベロ)の作品です。
10. I Love You Too
“I Love You Too“(アイ・ラブ・ユー・トゥー)は、このライブアルバムのオリジナル曲で、ラッパーOrochi(オロシ)とのコラボ。
LudmillaとOrochiは、2020年11月、別の企画で共演していました。
↑ この“Poesia Acústica”(ポエジア・アクースチカ)は、人気アーティストが7、8人集まって順番にラップを披露していくという企画で、音楽配信の再生回数を見ても、人気なのがうかがえます。
この音源を聴いて改めて思うのですが、ブラジルのRap(ハッピ)にはアメリカのラップとはまた違う「歌うような感じ」がありますよね。Ludmillaの “I Love You Too”は、そういったブラジル独自のRapをパゴージでやっているのが印象的です。
11. Mande Um Sinal / Sinais
パゴージ・バンドのPixote(ピショーチ)の“Mande Um Sinal”、そしてSorriso Maroto(ソヒーゾ・マロート)の“Sinais”をカバーしています。
12. Tô de Boa
“Tô de Boa“(ト・ジ・ボア)は“EP Numanice”の曲で、Vou pro Sereno(ヴォウ・プロ・セレーノ)というパゴージ・グループとの共演です。軽快な曲だからか、皆で立って演奏していて、一段と楽しい雰囲気のライブになっています。
Vou pro Serenoは、このライブアルバムの共演者のなかでも特別なバンドです。Ludmillaは2018年以来、Vou pro Serenoのライブアルバムにゲストとして出演し続けており、これが彼女にとってパゴージの重要な経験となっています。
↑ 2018年、Vou pro Serenoのライブで演奏された、Ludmillaの大ヒット曲”Cheguei“(シェゲイ)のパゴージ・バージョンです。こうやって自分の持ち歌がサンバに生まれ変わった体験が、もしかするとNumaniceの原点にあるのかもしれません。
13. Um Pôr do Sol na Praia
“Pôr do Sol na Praia“(ポル・ド・ソウ・ナ・プラヤ)は“EP Numanice”の曲。元はSilva(シルヴァ)とのコラボ曲で、パゴージ・アレンジによって軽快なムードの一曲になっています。
ライブでは、ちょうど日が傾き、空が黄金色にかすんでいる時刻で、西の彼方にコルコバードのキリスト像が見えます。ライブ映像の中でも最高の瞬間のひとつです。
14. Vai Lá Vai Lá / Que Mulher (Nega danada) / Cadê Ioiô / Alguém Me Avisou
最後はThiaguinho(チアギーニョ)とVou pro Sereno(ヴォウ・プロ・セレーノ)も集まり、大団円をむかえます。
“Vai Lá, Vai Lá“と”Cadê Ioiô“は、パゴージの創始者ともいえる大御所バンド、Fundo de Quintal(フンド・ヂ・キンタウ)のレパートリーです。
ちなみにFundo de QuintalのUbirany(ウビラニー)は、2020年12月11日に新型コロナウイルスで亡くなっています。ライブの演目がいつ決まったのかは分かりませんが、これらの曲が最後に演奏されることで、追悼の意味も込められることになりました。
“Que Mulher (Mulher Danada)“はサンバ・パゴージの大御所、Zeca Pagodinho(ゼカ・パゴヂーニョ)の曲。
ラストを締めくくるのは、伝統的サンバで知られる黒人女性アーティスト、Dona Ivone Lara(ドナ・イヴォーニ・ララ)の”Alguém Me Avisou“です。サンバの歴史、パゴージの歴史に敬意を示す選曲となっています。
最後に
ここまで、”Numanice (Ao Vivo)”の曲目を紹介してきました。
なんの予備知識無しでも楽しめるライブアルバムですが、知れば知るほど、聴けば聴くほどすばらしい作品です。
そしてこのライブがあったからこそ、次の”Numanice #2″、そして”Numanice #2 Ao Vivo”が生まれていきます。ぜひ他のNumaniceプロジェクトもチェックしてみてください。