Pabllo Vittarのコラボ曲、Alibiが世界的ヒット

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パブロ・ヴィターのコラボ曲が世界的な大ヒット!

2024年6月28日にリリースされた楽曲、”Alibi“(アリバイ)が、世界中で大ヒットしています。

SEVDALIZA – ALIBI FT. PABLLO VITTAR & YSEULT (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

YouTubeでは、リリースから1か月もたたない7月23日時点で、再生回数3191万回を記録。Spotifyでは、再生回数6893万回を突破し、グローバル・ランキング12位にまで上り詰めています。

この曲に参加しているのは、イラン出身のオランダ人Sevdaliza(セヴダリザ)カメルーン系のフランス人Yseult(イズー)、そしてブラジルのドラァグクイーンPabllo Vittar(パブロ・ヴィター)

それぞれが、英語フランス語ポルトガル語で歌い、コーラスはスペイン語という、まさに国際的なコラボ曲です。曲名にもなっている「alibi」という歌詞にしても、セブダリザとイズーは「アラバイ」と発音していますが、パブロは「アリビ」と発音しており、各言語が尊重されています。

参加アーティストが3人とも、マイノリティーとして表現活動を続けてきた、というのも特徴といえるでしょう。

そんな曲が、リリース前からTikTokでバズり、Spotifyでも再生回数が急増。ビリーアイリッシュのような超有名人に交じって、グローバルランキング上位に食い込んでいます。

ブラジルや北米、欧州、中南米、東アジアといった、どこかの地域だけで局所的に流行しているのではなく、本当にいろいろな国のランキングに入っており、今後の動向からも目が離せません。

Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)とは、誰?

Pabllo Vittarの曲、Aiaiai Mega Principeのジャケット
Pabllo Vittarのシングル、”Ai Ai Ai Mega Príncipe”

さて、この朗報を受けて、ブラジル・ポップスのファンで、パブロの信者でもある私としては、「パブロ、すごい!」と思いながら、毎日を過ごしております。

Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)は、2010年代後半のブラジル・ポップスにおける最重要アーティストのひとり。歌うドラァグ・クイーンとして、メジャーな音楽シーンで大ヒットし、社会現象となっただけでなく、政治的にも存在感を示してきました(詳しくは、ブログ内のこちらの記事をどうぞ)。

2024年は、4月9日にアルバム”Batidão Tropical Vol. 2“(バチダウン・トロピカウ・ヴォルミ・ドイス)をリリースしています。パブロの出身地(ブラジル北部)独自の音楽を現代風によみがえらせた作品で、なかでも収録曲”São Amores“(ソン・アモーリス)は、キュートな振り付けと共にTikTokで大ヒットしました。

Pabllo Vittar – São Amores (Live @ São Paulo Pride)

そして今や、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙までも、「ルポールは、クイーンの頂点に立つクイーンかもしれないが、全世界の王冠を継ぐ後継者が現れた」と評するほど(The New York Times、2024/6/30)。

いやあ、それにしても、好きなアーティストの曲が、グローバルチャートをのぼりつめていくのって、本当に嬉しいものですね!

一方で、「Sevdalizaって誰?」「Yseultって、名前どう読むの?」と、何も知らなかった私は、内心あせりました──。この数週間、あわてて色々な音源を聴き、記事を読み、そうして最近ようやく、このグローバルヒットの意味が、少しだけ見えてきた気がします。

そこで、この記事では、“Alibi”という曲について、現時点で分かっていることをまとめてみました。私と同じような疑問や興味を持ってらっしゃる方にとって、少しでもお役に立つ情報があれば嬉しいです。

Sevdaliza(セヴダリザ)とは、誰?

Sevdalizaのアルバム、Shabrangのジャケット
Sevdalizaのアルバム、”Shabrang”

パブロの話から始めてしまいましたが、”Alibi“(アリバイ)はSevdaliza(セヴダリザ)の曲です。Sevdaliza(セヴダリザ)イラン出身のアーティストで、実験的な音楽が高く評価されており、日本でも音楽愛好家の間では名の知れた存在だったようです(無知な私は知りませんでした)。

1987年イランテヘランで誕生し、5歳の時に家族でオランダに移住。運動神経がよく、バスケットボール選手としてオランダ代表に選ばれていたという経歴の持ち主なのですが、スポーツ界の雰囲気が肌に合わないと感じたらしく、アーティストに転向しています。

一方で、バスケ選手としての奨学金で大学に行き、修士号まで取得していて、ペルシア語、オランダ語、英語、フランス語、ポルトガル語に堪能とのこと。こうした語学力ゆえに、国際的なコラボが実現したのかもしれません。

音楽性は、雑に言えば「イランのビョーク」、私なりの言い方をすれば、トリップホップのような、鬱だけれど気高く、聴いていると高次元に飛んでいけそうな音楽。いずれにしても、TikTokでバイラル・ヒット、というのがあまり想像つかない、硬派な音楽をやってきています。

音楽だけでなく、自身が制作にたずさわっているミュージックビデオにも注目です。

SEVDALIZA – HUMAN

2016年にリリースされた”Human“(ヒューマン)のMVを貼っておきます。

男たちの値踏みするような視線を浴びながら、ひずめの足をあらわにし、妖艶に踊るセブダリザが印象的です。歌詞の「I am human(私は人間)」には、女はモノでなく人間だ、というフェミニズム的な意味があるのでしょう。「普通の人間」(そんなものはないと思いますが)とは違う身体を隠さず踊るMVには、気高さや崇高さが表現されているように私は感じました。

ライブでも、このようなカリスマ性あふれるパフォーマンスが見られるようです。2019年には来日し、Red Bull Music Festival Tokyo(レッドブル・ミュージック・フェスティバル東京)に出演。ブラジルでも2019年に初公演を果たし、2022年にはサンパウロのPrimavera Sound(プリマヴェーラ・サウンド)に出演しています。ただ、ブラジルでも、知る人ぞ知るアーティストだったらしく、今回のヒットによって、爆発的に知名度が上がったようです。

Yseult(イズー)とは、誰?

Yseultの曲Rien à prouverのジャケット
Yseultのシングル、”Rien à prouver”

楽曲”Alibi“(アリバイ)に参加しているアフリカ系の歌手は、Yseult(イズー)。言語によって、イゾルテ、イゾルト、と読み方が変わりますが、フランス語ではイズーという発音になるようです。

Yseult(イズー)は、カメルーン出身の両親のもと、1994年フランスで生まれています。2013年、歌のオーディション番組に出演して、決勝まで進出。メジャーなレーベルと契約したものの、誰かの作った曲を歌っていた頃には、商業的に成功できなかったようです。

そこで契約を解消してベルギーに移住し、インディーズのレーベルから自分で作詞した楽曲をリリースしていくうちに、着実に評価を得ていきました。ソプラノの鈴のような歌声が印象的ですが、低音域も温かく、表現力の幅広い歌手だと思います。

Yseult – Corps (Clip Officiel)

2020年の曲、”Corps“(コル)は、ピアノと歌声だけで構成されており、Yseultの表現力が発揮されている一曲です。自分の肉体、自分の弱さをさらけだすような歌と映像表現もすばらしく、フランス語が分からなくても、その切実な感じに心打たれます。

音楽の多国籍感の正体

Alibi“は、国籍もルーツも異なる3人による、多国籍なコラボ曲です。

その多国籍感の正体は、英語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語の歌詞で歌われているというだけはありません。ラテンポップスをベースに、いろいろな国の音楽が自然に溶け込んでおり、なんとなく懐かしい感じがするけれど、今まで聞いたことが無い、そんな不思議な作品に仕上がっています。

そこで、どんな音楽がミックスされているのか、知っておくとさらに楽しめるかもしれないトピックスを、2個まとめてみました。

「ファヴェーラ」

サンプリングされているフレーズ「ファヴェーラ(Favela)」は、ブラジルの音楽ジャンル、ファンキ(Funk)に由来します。

ファンキはバイレファンキとも呼ばれており、ファヴェーラ(スラム街、ゲットー)で生まれたストリート・カルチャーで、北米の音楽をサンプリングすることから生まれたダンス・ミュージックです。

貧乏であったり差別されていた人たちが、自分たちが楽しむための音楽を作り出していった、そういった歴史的経緯のある音楽で、いまやブラジル音楽として無視できない存在になっています(詳しくはブログ内のこちらの記事をどうぞ)。

その音楽の震源地である「ファヴェーラ」という言葉が、”Alibi”では印象的にサンプリングされています。

「ローザ・ケ・リンダ・エレス」

コーラスで聖歌のように繰り返されるフレーズ、「ローザ・ケ・リンダ・エレス」(Rosa, qué linda eres)。これはコロンビアに伝わる”Rosa“(ローザ)という歌の一節で、セブダリザは、この曲に触発され、”Alibi”(アリバイ)を制作したそうです。

いわば元ネタとなったともいえる歌、”Rosa“は、今から約100年前コロンビアMagín Diaz(マヒーン・ディアス)が作曲しました。

Magín Diaz, Rosa

最も古い録音は、1927年にキューバSexteto Habanero(セクステト・ハバネロ)というバンドが演奏したもので、その後、2002年にはコロンビアTotó La Momposina(トト・ラ・モンポシーナ)がアルバムに収録しており、まさに時代を超えて歌い継がれてきた歌だと言えます。

コロンビアとキューバは、地理的には海をはさんでいますが、音楽的に深いつながりがあるようです。私も知りませんでしたが、昔のコロンビアプランテーション農園では、キューバ音楽が流行していたとのこと。

コロンビアの貧しい農家に生まれたMagín Diaz(マヒーンディアス)は、サトウキビ農園で児童労働をしていたらしく、そのとき農場主の娘に恋をしました。音楽的才能のあった彼は、キューバ音楽の影響を受け、彼女を想い、「ローザ、君はなんて美しいんだ(Rosa, qué linda eres)」と歌うこの曲を作曲したそうです。

といはいえ、人種差別が問題にならないくらいに、人種差別があたりまえの時代。農場主の娘には、「黒人は嫌い」と相手にされませんでした。それでも、農場で働く人たちのあいだで、この歌が大流行し、中南米音楽の最先端の地、キューバに逆輸入されていくことになりました(ウィキペディア情報)。

こうした異人種間の叶わぬ恋を歌った歌が、国境を越え、時代を超え、歌い継がれ、2024年に全世界のヒット曲となった──ということに、胸が熱くなるのは私だけでしょうか。

歌詞、全部は分かりませんでした…

ブラジルやコロンビアの音楽を取り入れ、グローバル・ヒットを果たした楽曲、”Alibi”。歌詞では一体、何を歌っているのでしょうか?

結論から言うと、私には全部を訳すことができませんでした──。期待してここまで読んで下さった方、悪質なまとめサイトみたいになってしまい、本当にごめんなさい!

ただ、私にも訳せる部分はあるので、それだけは紹介します。

Sevdalizaの歌う英語の歌詞は、こんな訳ができると思います。

Can you remember when the last time was
You felt safe in the dark?
This world was never meant for a woman's heart
But still, you rise through it all

When I'm out of breath, she's my vitals
When I need to rev, she's my ride-or-die
When I'm out of faith, she's my idol
I just killed a man, she's my alibi

最後に暗闇の中で安全だと思えたのはいつか、覚えている?
この世界が、女の心のためにあったことはない
それでも、あなたは立ち上がる

息を切らしているとき、彼女が私の生きる力になる
エンジンをかけないといけないとき、彼女はいつでも飛んできてくれる
信仰を失ったとき、彼女は私の偶像
私は男の人を殺した、彼女は私のアリバイ

パブロの歌うポルトガル語は、私にはうまく訳せませんが、冒頭のソロは、こんな感じです。

No meu amor sempre tem dor
Tudo pelo meu prazer

私の愛にはいつも苦しみがある
すべては私の喜びのため

フランス語に関しては、まったく分かりません──。

ちょっと開き直って言わせてもらうと、英語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語で歌われている曲について、歌詞をぜんぶ理解して聴ける人は、世界中を探しても、そんなに居ないはずです。

そして、さらに開き直らせてもらうと、「全部を理解できる人が、ほとんどいない」という事実が、実は重要な気がします。なにせ、リリース前からTikiTokに流し、インフルエンサーの間でバズらせていたほど、「売る」ためのマーケティングに力を入れていた曲です。「みんな歌詞を分かってくれないなんて、想定外だ」ということは、さすがに無いでしょう。

歌詞が分からなくてもいい、という前提で曲が作られている──。

あるいは、意味をぜんぶ理解してもらおうとしていない──。

多くの人に聞いてもらって、それぞれの人にとって、知らなかった言語の世界、聞いたことのなかった音楽の世界に、いざなうような曲である──。

そんな深読みを、私はしています。

言葉が分からなくても、とりあえず踊ろう

そして、こうしたことを踏まえたうえで、改めてミュージックビデオを見てみると、みんな、とりあえず踊っているのが印象的です。

Sevdalizaの肌には、「ビッチ」など悪口が墨で書かれており、それを周りの女の人たちが洗い清め、全員で踊りだします。同時に手を叩いたりはしますが、特定の振り付けを踊っているわけではなく、一人一人、思い思いに揺れて踊っているだけ。

お互いの言語も、文化的背景もぜんぜん違う人たちが集まって、好きなように踊っている。そこに、カタルシス(心が洗われるような感動)があるような気がします。

この曲がTikTokでバズった理由としては、腰を振る振り付けが面白いとか、ベリーダンスみたいなダンスをするのにちょうどいいとか、曲がエキゾチックな感じで魅力的とか、そういった理由があるのでしょう。

一方で、「言葉が分からなくても、とりあえず踊ろう」という精神が、世界中に伝わっていったんじゃないか、と考えると、ちょっと面白いですよね。

プロデューサーによると、2年半の制作期間をへて、30以上のバージョンを試作して完成した、という渾身の作品です(G1、2024/7/22)。

今後さらにヒットし、日本でもパブロ・フィーバーが起こるといいなと願っています!

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