Karol Conká(カロル・コンカ)とは、誰?
Embed from Getty ImagesKarol Conká(カロル・コンカ)は、ブラジル独自の音楽をHip Hopに取り込み、また黒人女性としての誇りをラップで歌って、国内外で高く評価されてきたアーティストです。
ところが、人気リアリティ番組に出演すると、そこでの言動がSNSでバッシングを受け、大炎上。ゴシップの人物として不名誉なかたちで注目を集めることになりました。
しかし、そのような逆境をへて、音楽活動を継続し、アーティストとしての才能をさらに開花させています。
この記事では、彼女のバイオグラフィーをたどり、テレビ番組で何があったのか、その後どうなったのかにも触れつつ、代表曲を紹介します。
なお、彼女の名前は、英語で読むとKarol Conka「キャロル・コンカ」ですが、このブログでは「カロル・コンカ」とします。
カロル・コンカのバイオグラフィー
デビュー前
カロルコンカの本名は、Karoline dos Santos Oliveira(カロリーナ・ドス・サントス・オリベイラ)。パラナ州クリチバで、1986年1月1日に生まれました。
子供のころから詩を書いていたという彼女は、10代でラッパーになることを決意。
もともとKarolという愛称で、Carolというスペルと区別するため、”Karol com K“(カロル・コン・カー)、英語訳すれば”Karol with K”、「Kのつくカロル」と学校で呼ばれていたため、Karol Conkáと名乗るようになります。
妊娠、出産、離婚、うつ病
ラッパーとしてプロになる夢をもった彼女は、地元のラッパー仲間を集め、グループを結成しました。
そして19歳のとき、そのグループのメンバーだったMC Cadelisとの間に、子供を妊娠。2005年12月31日、カロル・コンカの19歳最後の日に、男の子を出産しました。
産後しばらくして離婚し、シングルマザーとなった彼女は、子供が2歳の時、うつ病を発症しています。
さらに、子育てがあったため、アーティスト活動を再開できたのは、子供が5歳になったときでした。
デビューアルバム”Batuk Freak”
本格的に音楽活動を再開した彼女は、2013年、デビューアルバム“Batuk Freak”(バトゥーキ・フリーク)を製作。
この作品は、オンライン上で無料でリリースされました。ポルトガル語が分からなくてもカロル・コンカのラップのうまさ、声の「力」が感じられる一枚です。
アルバムの最初をかざる“Boa Noite”(ボア・ノイチ)は、ブラジルのバイーア州の民謡をサンプリングしています。なんとYoutubeにその元の音源がありました↓
“Boa Noite”というバイーア民謡で、バイーア州イピオカの女性たちが歌っている音源。1977年の”Documentário Sonoro do Folclore Brasileiro Nº21: Baianas / Alagoas”というレコードに収録されているようです。
“Batuk Freak”では、ブラジル伝統のリズムや音を取り込むことで、エッジのきいたHip Hopを作り出しました。音楽のこうした面白さは、プロデューサーのNave(ナヴィ)によるものでしょう。
ところが、Naveの名前はプロデューサーとしてクレジットに記載されず、長い間ストリーミングの著作権料を受け取っていなかったとのこと。こうした問題ゆえ、アルバム自体がストリーミングで非公開となっていたようです。
こうした「実績の独占」は大問題ですが、今はもうSpotifyに公開されているため、法的な対立が収まったのだろうと推測されます。こうしたトラブルも含め、カロルの「清算」が、のちに紹介する「BBB騒動」をきっかけに済んだのだとしたら、とても喜ばしいことだと思います。
なお、”Batuk Freak”の発表後、2014年にカロル・コンカは来日し、渋谷でクラブイベントに出演しています。
“Tombei”の大ヒット
また、2014年には、Tropkillaz(トロプキラズ)がプロデュースしたシングル、“Tombei”(トンベイ)をリリース。いまや彼女の代表曲と言ってもよいでしょう。
キャッチ―なメロディーの”Tombei”は大ヒットし、ブラジルの国民的音楽賞であるムウチショウ賞を受賞。ブラジル中にカロル・コンカの名前が知られるようになりました。
オリンピック開会式への出演
2016年には、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催されたオリンピックの開会式に出演しています。
Embed from Getty Images12歳のMC Soffia(エミセー・ソフィア)と共に、ピンクのドレッドヘアでラップを披露しました。カロル・コンカが、ブラジルを代表するHip Hopアーティストとして、国内外に認知された瞬間でした。
また同年、Tropkillazのプロデュースで、シングル“Maracutaia”(マラクタヤ)をリリースしています。クイーカの音が印象的で、リズムもサウンドも、ブラジルっぽさやアフリカっぽさが絶妙にポップにまとめられています。
セカンドアルバム”Ambulante”
2018年には、Boss in Drama(ボス・イン・ドラマ)のプロデュースで、セカンドアルバム“Ambulante”(アンブランチ)をリリース。
ブラジルらしさを追求したヒップ・ホップだけでなく、しっとりしたエレクトロニック・ミュージックまで歌いあげ、どの曲もあくまでポップに仕上がた良作です。
“Vogue do Gueto”(ヴォーグ・ド・ゲットー)は、都会的なエレクトロミュージックでありながら、カロル・コンカらしさが表れている一曲。MVでは、カロルのヴォーグ・ダンスが見られます。
“Saudade”(サウダージ)は、メロディーが印象的な穏やかなレゲエ調の一曲です。まさに「サウダージ」、「郷愁」にあふれています。カロル・コンカはラッパーですが、こういうしっとりした曲で聴かせる歌声もすばらしいと思います。
リアリティ番組”BBB”での炎上
アーティストとして不動の評価を得ていた彼女が、話題のリアリティ番組に出るということは、それ自体がニュースだったようです。
“Big Brother Brasil”(ビッグ・ブラザー・ブラジル)、略して“BBB”は、Globo(グローボ)というテレビ局で放映されている、ブラジルで今一番人気とされるリアリティ番組です。
10人の有名人と10人の一般人が、外界から隔絶された場所で共同生活を行い、毎回誰かが「退去」するという仕組みで、誰が退去するかは、視聴者の投票で決まります。
このBBBという番組については、Newsweek Japanに投稿されている記事で、現地在住の方による詳しい解説があるので、こちらの外部リンクをご覧ください↓
カロル・コンカが出演したのは、2021年、BBBのシーズン21で、当初はファンの期待を集めました。
しかし、番組が進むにつれて視聴者の反感をかいます。
そして、約2億8000万票が投じられた中、99.17%の総意で退去することになりました。このような数字は、不名誉ながら番組史上の最高記録とのことです。
どうしてそんなことになったのでしょうか? 特に問題視され、バッシングされたのは、次のような言動でした。
- 嫌いなメンバーに対して、「一緒に食事したくないから、あんたは立って食べろ」(意訳)と命令した
- 自分好みのイケメンと仲良くしてる女の子をいじめた
- シリーズ優勝者となった人気者ジュリエッチの、ノルデスチ(東北部)特有の喋り方をからかった
こうした振る舞いや発言で、SNSは大炎上。
彼女をよく知る関係者も、彼女のキツさが素のものであるとツイートしたり、全然関係ないようなバッシングが溢れたり、収拾がつかなくなりました。
SNSの炎上にとどまらず、Rock The Mountain Festival(ロック・ザ・マウンテン・フェスティバル)のような音楽フェスへの出場が中止となったり、彼女の出演している他の番組が放映中止となったりして、カロル・コンカを締め出すような動きが加速。
有名人を、何らかの言動を理由に社会的地位から追放させる、キャンセル・カルチャーの嵐が吹き荒れました。
「転落の後の人生」
リアリティ番組で「排除」された後、カロル・コンカは約1カ月近く取材を受け、これにもとづくドキュメンタリー番組が製作されました。番組タイトルは、”A Vida Depois do Tombo”(ア・ヴィーダ・デポイス・ド・トンボ)、訳して「転落の後の人生」。カロルがBBBでの言動をふりかえり、さらには自分の人生もふりかえって、悪かったところを謝罪するという内容だったようです。
また、BBBの最終回に出演して、一連の体験を歌詞にした新曲“Dilúvio”(ジルヴィオ)をライブ演奏しています。この曲は放映後に話題となり、ヒットしました。
↑ タイトルの”dilúvio”(ジルヴィオ)は、「洪水」という意味。コーラスの部分の歌詞を引用します。
Só mais um dia de luta
Depois do dilúvio
“Dilúvio”
(意訳)「戦いの日はあと一日だけ 洪水の後」
この曲の原形は、BBB出演前にほぼ完成していたそうですが、一連の出来事を経験して、きゅうきょ歌詞が変更されたようです。
カロル自身、歌詞への思い入れが強い特別な曲のようで、「歌うとあの時の匂いや感覚がして、泣きたくなる」とインタビューで話しています。
また、プロデューサーのLeo Justi(レオ・ジュスチ)は、ふだんファンキやエレクトロニック・ミュージックで派手な音楽を作っているのですが、彼としては異例の穏やかなこの曲が、Spotifyで一番ヒットすることになりました。
3枚目アルバム”Urucum”
2022年3月には、3枚目のアルバムとなる“Urucum”(ウルクン)を発表。「BBB騒動」をめぐる体験を歌った曲が多く、これまで以上に内省的な歌詞の作品になりました。
音楽的にも、前作より「ブラジルらしさ」を追求しており、ラップや歌の「力」も増して、何度も聴き返したくなるようなすばらしい一枚だと思います。
なお、「ウルクン」というのは赤い色素の「アナトー」として知られる植物の名前で、いろいろな病気の症状に効く薬草として用いられてきたそうです。カロルにとってアルバム制作が「治療」のような側面をもっていたことと、作品全体のイメージカラーが「赤」だったことから、このタイトルが選ばれました。
作詞作曲はカロルコンカですが、プロデューサーRDDの功績も見逃せません。RDDは、バイーアの音楽グループATTØØXXÁ(アトーシャ)の中心人物として知られるRafa Dias(ハファ・ジアス)の別名です。
“Calma”(カウマ)は、エキゾチックな打楽器と、都会的なピアノの音の組み合わせが面白い一曲。スローテンポで、ラップではないのびやかなカロルの歌声が聴けます。薬草の名前がふさわしいような、心に寄り添うような音楽で、アルバムの中でも私が特に好きな一曲です。
アルバム最後を飾るのは、“Louca e Sagaz”(ロウカ・イ・サガス)。リアリティ番組出演以前に製作された、アルバムの先行シングルです。トラックメイクはWC no Beat(ダブリウセ・ノ・ビーチ)が担当しています。スペルを見ると一瞬びっくりする名前ですが、WCは本名のWesley Costa(ウェズリー・コスタ)のイニシアルとのこと。もともとファンキのアーティストですが、この曲は特に優れていると思います。
最後に
カロル・コンカは、ブラジルらしいHip Hopを表現し、フェミニズムや黒人のエンパワーメントをラップで歌って、ある種の孤高のアーティストとして評価されていました。
そんな彼女が人気番組のBBBに出演するということで、多くの人は、彼女が高潔な人物であることを期待したのだと思います。ところが、彼女の人当たりが予想外にキツくて、ブラジル人からすると不愉快な言動が目立ち、SNSで大炎上したのでしょう。
でも、その炎上とキャンセルカルチャーを生き抜いて、良い曲をリリースし続けているのは、本当にすごいことです。ネット上でミーム(ネタ)にされても、むしろそのネタを利用して、チャーミングなキャラクターとして返り咲いている印象すらあります。
そんなカロル・コンカを、私は日本から応援し続けたいと思います。
この記事は以下のリンクを参考に書きました。
- TPM、UOL(2011/6/28) デビューアルバム発表後のインタビュー
- Gshow, Globo.com(2016/8/31) 息子について語っている
- Rapmais(2021/6/3) ”Batuk Freak”のクレジットをめぐる問題について
- Screen Rant(2021/2/25) BBB騒動について英語で簡潔にまとめている
- G1, Globo.com(2021/4/2) BBB以降、関係者のSNSでの発言
- Pop Line(2021/4/30) BBB騒動に関する彼女自身の見解
- Uol(2021/5/5) ”Dilúvio”の歌詞がリアリティ番組出演によって変更されたことについて
- Papel Pop(2022/3/31) ”Urcum”に関するインタビューで、”Dilúvio”に言及している
- Eolor(2022/4/1) ”Urcum”に関するインタビュー