【2025年】ブラジル・ポップスの年間ベストアルバムTop10

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はじめに

こんにちは、ヨシイタケコです。ブラジル音楽の中でも「ブラジル・ポップス」とでもいうべき音楽が好きで、このウェブサイトをやっています。

今回は、そんな私が選ぶ2025年の年間ベスト・アルバムをご紹介します。「最近のブラジルの音楽って、どんな感じ?」というご新規の方も、この記事を読めば、この一年間の重要作品をチェックできます

第10位から第1位まで、ランキングの選考基準は、「私がたくさん聴いたかどうか。そして、数年後も聴くと思うかどうか」。独断と偏見にもとづくランキングですが、ぜひ最後までお付き合いください。

2025年ブラジル・ポップスの年間ベストアルバム

第10位 Pedro Sampaio「SEQUÊNCIAS #1」

第10位は、Pedro Sampaio(ペドロ・サンパイオ)の待望のアルバム、「SEQUÊNCIAS #1」(セケンシアス・ヌメロ・ウノ)。ブラジル独自の音楽ジャンル、ファンキ(バイレファンキ、Funk)に分類される音楽です。

1997年リオデジャネイロ生まれのペドロ・サンパイオは、YouTubeにアップしたDJ動画が話題となり、その勢いでデビューしています。ヒット曲を量産し、「彼氏がいるのでは?」と噂されていた2023年、音楽フェス「ロラパルーザ・ブラジル」のステージで、バイセクシュアルであることをカミングアウトしており、LGBTQアイコンとしても人気を集めてきました。

今年はシングル曲「SEQUÊNCIA FEITICEIRA」(セケンシア・フェイチセイラ)がバズり、Spotifyでも大ヒットしています。

PEDRO SAMPAIO – SEQUÊNCIA FEITICEIRA feat MC GW, MC Rodrigo do CN, MC Jhey, MC Nito

この曲をはじめとする「Sequencia」シリーズのシングル曲を集めたアルバムが、「SEQUÊNCIAS #1」です。ペドロ・サンパイオというキャラクターの魅力もさることながら、MC GW(エミセー・ジェーダブリュ)や、ミュージックビデオやライブで毎度おなじみのダンサーの皆さんも最高だと思います。

第9位 BK’「Diamantes, Lágrimas e Rostos para Esquecer」

第9位は、BK’(ベーカー)「Diamantes, Lágrimas e Rostos para Esquecer」(ジアマンチス・ラグリマス・イ・ホストス・パラ・エスケセール)。長いタイトルは、「ダイヤモンド、涙、そして忘れるべき顔」という意味で、「DLRE」という略称も用いられます。

BK’(ベーカー)は、1989年生まれ。映画『シティ・オブ・ゴッド』の舞台ともなった、リオデジャネイロのCidade de Desu(シダージ・ジ・デウス)地区出身のラッパーです。もともと硬派な作風で、SNSを見ているかぎり、幅広い層に支持され、尊敬されているアーティストだと思います。

今作ではMPB(ブラジルの古き良きポップス)の名曲をたくさん引用し、ラップとMPBをつなげることに成功しました。なかでも注目なのが、ブラジリアン・ソウルの名盤、Evinha(エヴィーニャ)「Cartão Postal」(カルタン・ポスタウ)のサンプリング。影響力のあるラッパーとして、若い世代にエヴィーニャのすばらしさを伝えることになりました。

BK’ part. Evinha (prod. Deekapz), Só Quero Ver (Visualizer)

第8位 Rubel「Beleza. Mas agora a gente faz o que com isso?」

第8位は、Rubel(フーベル)です。フーベルは、1991年リオデジャネイロ州生まれのシンガーソングライター。次世代MPBの最重要アーティストで、彼のつくりだす独特の質感をもったチェンバーポップは、日本でも高い人気をほこっています。2025年は来日し、音楽フェスFrue(フルエ)に出演しました。

今作のタイトル「Beleza. Mas agora a gente faz o que com isso?」(ベレーサ、マイス・アゴーラ・ア・ジェンチ・ファス・オ・キ・コン・イッソ)は、「美しいね。でもこれ、どうするの?」という意味。正直に言うと、第一印象は前作と比べ「ちょっと地味かな」と思ったのですが、そのあと聴けば聴くほどメロディーの美しさに魅了されました。余計なものを全部そぎおとした音楽で、すばらしいと思います。

Rubel, Carta de Maria (Visualizer)

第7位 Lagum「As Cores, As Curvas e as Dores do Mundo」

第7位は、Lagum(ラグン)です。ラグンミナスジェライス州ベロオリゾンテで2014年に結成されたロック・バンド。今作「As Cores, As Curvas e as Dores do Mundo」(アス・コーレス・アス・クルヴァス・イ・アス・ドーレス・ド・ムンド)が「すごく良い!」ということについては、当ブログ内のこちらの記事でも書いています。

長いタイトルは、訳して「世界の色と曲線と悲しみと」。ラグンの持ち味であるレゲエ由来の「チルさ」と、前作の「内省的な深さ」がほどよく混じりあっており、ラグンの作品の中で一番好きかもしれません。どの曲も短くシンプルで、歌詞も分かりやすく、ポルトガル語初心者の私でも歌のフレーズをすぐ覚えられます。そういった「ポップさ」が群を抜いていると思い、第7位に選びました。

LAGUM – As Desvantagens de Amar Alguém Que Mora Longe

第6位 Papatinho「MPC」

つづいて第6位は、Papatinho(パパチーニョ)「MPC」(エミペーセー)です。ファンキ(バイレファンキ、Funk)の中でもオールドスタイルなリズムに回帰した、異色の作品でした。詳しくはこちらの記事で解説しています。

このアルバムは、ゲストの人選が最高です。Cidinho(シジーニョ)Anitta(アニッタ)MC Kevin o Chris(エミセー・ケビン・オ・クリス)など、ファンキの歴史の中で重要な人物をキャスティングしているだけでなく、ファンキに近接するダンスミュージックやラップの人気アーティストも出演していて、世代もジャンルも超えた「オールスター勢ぞろい」な企画となっています。

ファンキはどんどん進化し、グローバル化しています。そんな中で、あえて原点に回帰し、誰でも楽しめる音楽に作り替えているところに、パパチーニョの手腕が現れていると思いました。少年時代の記憶をたどるようなミュージック・ビデオも、レトロで最高です。

Papatinho, Major RD, Carol de Niterói, Califfa, Bonde dos Estraga Festa MPC(Música Popular Carioca)

第5位 Stefanie「BUNMI」

ここまでに挙げた作品を超えて、第5位に選ばざるをえなかったのが、Stefanie(ステファニー)「BUNMI」(ブンミ)です。

ステファニーサンパウロ州サントアンドレ出身のラッパーで、20年以上のキャリアがあり、今作は初のスタジオ・アルバムとして制作されました。

ところで2025年は、女性ラッパーの活躍が目覚ましかった年です。Tasha & Tracie(ターシャ・イ・トレイシー)Duquesa(ドゥケーサ)Ajuliacosta(アジュリアコスタ)Ebony(エボニー)Cashley(カシリー)など、女性ラッパーが次々と新作をリリースし、男性中心だったブラジルのラップ界に新風を巻き起こしました。

その中で私が一番たくさん聴いたのは、ステファニーです。硬派なスタイルで社会批判をおこなうサンパウロ・ラップの伝統を受け継いでおり、言葉の重み、ラップの気迫が別格だと思います。

つらい体験を振り返り、「私を成長させてくれたすべてのことを私は忘れない」と歌う曲「Mundo Dual」、女性ラッパーたちによるサイファー「Outra Realidade」、Emicida(エミシーダ)など超豪華なゲストをむかえた「MAAT」などなど、どのトラックも、言葉の力、ラップの力がみなぎっており、最高としか言いようがありません。

2026年ロラパルーザ・ブラジルにも出演が決定しており、ブラジルでいま一番注目のアーティストの一人ではないでしょうか。ピアニストのJonathan Ferr(ジョナタン・フェー)とコラボした曲「Mundo Dual」を貼っておきます。

Stefanie feat. Jonathan Ferr, MUNDO DUAL (Áudio Oficial)

第4位 Don L「Caro Vapor Vol. II – Qual a Forma de Pagamento?」

「よく聴いたかどうか」という観点から、Stefanieを上回る第4位は、こちらの記事で「必聴の一枚」として取り上げたDon L(ドン・エリ)です。

Don L(ドン・エリ)は1981年生まれで、セアラ州フォルタレザのシーンから出てきたラッパーです。長いタイトルは「高価な煙 第二章 お支払方法はいかがなさいますか?」という意味で、冒頭のトラック「Caro」(カロ、高い)では、Hip Hopのカルチャーがもつ消費主義的な側面を風刺しています。

社会派のラッパーとして知られており、今作でテーマとなっているのも、グローバル経済のもたらす格差、巨大IT企業による富の独占などなど。とても現代的なテーマで、彼のもつ問題意識に、とても共感しました。

一方で、ラテンアメリカ各地の音源をサンプリングし、独自の世界観を作りだしていて、音楽として単純に面白いのも魅力です。収録曲はどれも個性的で、今年、何度も聴き返しました。

Don L, saudade do Mar part. Alice Caymmi, CARO Vapor II – qual a forma de pagamento?

第3位 Gaby Amarantos「Rock Doido」

このチープでキッチュな音楽は、かなり好き嫌いが分かれるかもしれません。でも、この極端なまでの通俗性に、神が宿っていると私は思います。

Gaby Amarantos(ガビ・アマラントス)は1978年生まれでパラー州ベレン出身のアーティスト。ベレンはアマゾン川の河口にある都市で、昔から独自の音楽文化をはぐくんできました。2025年は、COP(国連気候変動枠組み条約)の会議開催地として国際的な注目を集め、そういった政治的な背景もあって、ブラジル音楽界でもパラー州の音楽にスポットライトが当たっていたように思います。

ブログ内のこちらの記事で「2025年ブラジル・ポップスの傑作」として取り上げた「Rock Doido」(ホッキ・ドイド)は、パラー州らしい音楽の個性もさることながら、映像表現が最高です。フェリーニ映画が大好きな私は、このミュージックビデオに似たものを感じ、とても心動かされました。全身全霊をかけてパラー州をレぺゼンしているガビ・アマラントスに、敬意を表さずにはいられません。

Gaby Amarantos, Rock Doido (O Filme)

第2位 João Gomes、Mestrinho、Jota.pê「Dominguinho」

2025年を振り返ったとき、アルバム「Dominguinho」(ドミンギーニョ)は本当に最高で、現代ブラジルポップスの結晶のような音源だったと思います。

ピゼイロと呼ばれる新種のフォホー(ブラジル北東部のダンスミュージック)でMPB界に新風を吹き込んだ歌手、João Gomes(ジョアン・ゴメス)。オーディション番組The Voice Brasil(ザ・ヴォイス・ブラジル)で有名になったギター弾き語りの歌手、Jota.pê(ジョタ・ペー)。そして、アコーディオン奏者のMestrinho(メストリーニョ)。この3人がトリオを組み、ペルナンブーコ州レシフェオリンダ(Olinda)という歴史地区でセッションした作品が、「Dominguinho」です。

それぞれのアーティストの持ち歌から、昔のヒット曲まで、様々な曲が独自のアレンジで再解釈されています。フォホーにルーツをもちながら、純粋なフォホーというわけでもない、まさにこの三人だからこそ成立する音楽で、ラテングラミーMultishow賞を総なめにするのも納得の一枚です。

João Gomes Cantor – BEIJA FLOR – João Gomes, @mestrinhooficial e @Jota.Pe.Oficial (Dominguinho)

第1位 Marina Sena「Coisas Naturais」

第1位は、ブログ内のこちらの記事でも取り上げたMarina Sena(マリーナ・セナ)「Coisas Naturais」(コイザス・ナトゥライス)です。

ミナス系のインディーロックという彼女の原点に立ち戻った作品でありながら、ブラジル北部の歌謡曲アホッシャや、スペイン語圏の音楽バチャータなども取り込んでおり、ラテンアメリカ音楽の最前線を切り開いています。

マジック・リアリスム的な世界観もすばらしいです。マリーナ・セナはガブリエル・ガルシア=マルケスの愛読者でもあり、『百年の孤独』や『愛その他の悪霊について』が好きなら、このアルバムの世界観にも魅了されるのではないでしょうか。

ちょっとグロテスクで怖いけれど、どうしても惹きつけられてしまう。そんな、魔術的で、前人未踏の音楽だと思います。

Marina Sena – Numa Ilha (Clipe Oficial)
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