- Prêmio Multishowとは?
- なぜMultishow賞に注目するのか?
- 2024年のMultishow賞はどうだった?
- 各部門のノミネートと受賞結果まとめ
- Álbum do Ano(今年のアルバム)
- Capa do Ano(今年のジャケ写)
- Instrumentista do Ano(今年の楽器演奏者)
- Produção Musical do Ano(今年のプロデューサー)
- Artista do Ano(今年のアーティスト)
- Show do Ano(今年のライブ)
- Categoria Brasil(ブラジル部門)
- Clipe TVZ do Ano(今年のビデオクリップ)
- Hit do Ano(今年のヒット)
- Revelação do Ano(今年の新人)
- Arrocha do Ano(今年のアホッシャ)
- Axé/Pagodão do Ano(今年のアシェー、パゴダン)
- Brega do Ano(今年のブレーガ)
- DJ do Ano(今年のDJ)
- Forró/Piseiro do Ano(今年のフォホー、ピゼイロ)
- Funk do Ano(今年のファンキ)
- Gospel do Ano(今年のゴスペル)
- MPB do Ano(今年のMPB)
- Música Urbana do Ano(今年のアーバンミュージック)
- Pop do Ano(今年のポップス)
- Rock do Ano(今年のロック)
- Samba/Pagode do Ano(今年のサンバ、パゴージ)
- Sertanejo do Ano(今年のセルタネージョ)
- おわりに
Prêmio Multishowとは?
2024年12月3日、第31回目となるPrêmio Multishow(プレミオ・ムウチショウ)の授賞式が開催されました。
「Prêmio Multishow」は、むりやり日本語にするなら「マルチショー賞」。ブラジル最大のテレビ局Globo(グローボ)が放映するエンタメ系チャンネル、Multishowが主催するブラジル音楽の音楽賞です。
昨年から授賞式が無料放送されるようになり、賞の部門もジャンルごとに細分化。ブラジルの国土は広く、地域ごとに色々なジャンルがあるのですが、そういった多様性もすくいとる音楽賞になりました。
なぜMultishow賞に注目するのか?
ところでブラジル音楽の賞といえば、まずLatin Grammy(ラテングラミー)を思い浮かべる人が多いかもしれません。
ただ、ラテングラミーは「アメリカ人が選ぶ、ブラジル音楽の賞」です。それに対してMultishow賞は、「ブラジル人が選ぶ、ブラジル音楽の賞」という特徴があります。「今のブラジルのリアルな音楽を知りたい」というニーズに対し、「今年はこんな曲があった」という情報源として、Multishow賞は注目に値します。
また、昨年からジャンルごとに部門が創設されたため、ブラジル音楽の色々なジャンルを知るうえで、とても役立つようになりました。例えば、「アホッシャって何?」と疑問に思ったら、まずMultishow賞の「アホッシャ部門」をチェックすれば、説明を読んだり聞いたりするよりも、直接的にスッと理解できるはずです。
2024年のMultishow賞はどうだった?
2024年のMultishow賞を一言で表すと、「Linikerの圧勝」でした。
アルバム「CAJU」(カジュー)をリリースしたLiniker(リニケル)が、主要部門「今年のアーティスト」を含む4部門を勝ち取り、最多受賞となりました。
「CAJU」は質の高いMPB(エミペーベー)として評論家から絶賛されただけでなく、大衆的なポップスとしても聴きやすい仕上がりになっており、そのバランスが絶妙だったと思います。今回Multishow賞を総なめにしたのも納得で、まさに2024年のブラジル音楽を代表する一枚だと言えるでしょう。
なお、今年の一般投票は以下の5部門のみで受け付けていました。逆に言えば、この5部門以外は専門家投票で選ばれています。
- Show do Ano(今年のライブ)
- Categoria Brasil(ブラジル部門)
- Clipe TVZ do Ano(今年のビデオクリップ)
- Hit do Ano(今年のヒット)
- Revelação do Ano(今年の新人)
それでは各部門のノミネートと受賞を見ていきましょう!
各部門のノミネートと受賞結果まとめ
Álbum do Ano(今年のアルバム)
- 333, Matuê
- CAJU, Liniker 受賞
- Funk Generation, Anitta
- Rosa, Samuel Rosa
- Se o Meu Peito Fosse o Mundo, Jota.pê
- Serenata da GG, Vol. 1, Gloria Groove
「今年のアルバム」部門は、Liniker(リニケル)の「CAJU」(カジュー)が受賞しました。
Linikerは1995年生まれで、サンパウロ州の奥地アララクアラ出身。2010年代後半から活動しているトランスジェンダー女性のアーティストで、現代のMPB(エミペーベー、古典的なブラジルポップス)における最重要人物といえます。
2024年の「CAJU」は、日本語で語られる搭乗アナウンスから始まり、ブラジルの色々なジャンルの音楽を横断していく内容で、一曲一曲がそれぞれ独自の魅力をもちながらアルバムとしてのまとまりがあり、何度も繰り返し聴きたくなる作品です。もしまだ聴いていないなら、いますぐ聴いてください!
2024年に大ヒットしたアルバムとしては、Matuê(マトゥエ)の「333」(トレス・トレス・トレス)にも注目です。Spotifyブラジルではリリース直後の再生回数が史上最多を記録。若者からの絶大な人気がこうした数字に現れました。一方で、「ブラジルのトラップの人気ラッパー」という肩書を投げ捨てるような実験的な内容で、音楽的にはサイケデリック・ロックに接近。くわしくはこちらの記事にも書きましたが、ロック好きならきっとハマる一枚だと思います。
Capa do Ano(今年のジャケ写)
- CAJU, Liniker 受賞
- Funk Generation, Anitta
- OPROPRIO, Yago Oproprio
- Serenata da GG, Vol. 1, Gloria Groove
- Tara e Tal, DUDA BEAT
- Topo da Minha Cabeça, Tássia Reis
「今年のジャケ写」部門もLiniker(リニケル)が受賞しました。
他の候補で私が注目していたのは、Duda Beat(ドゥダ・ビーチ)です。Duda Beatは、もともと女の湿っぽい情念を歌うシンガーソングライターでしたが、昨年の「Te Amo Lá Fora」(チ・アモ・ラ・フォラ)リミックス版でエレクトロニック・ミュージックの可能性を模索。その延長線上で2024年に新作「Tera e Tal」(テラ・イ・タウ)を発表し、路線変更をとげました。音楽の独自性だけでなく、アートワークの完成度の高さでも群を抜いていると思います。
Instrumentista do Ano(今年の楽器演奏者)
- Amaro Freitas 受賞
- Hamilton de Holanda
- Hermeto Pascoal
- Jonathan Ferr
- Pretinho da Serrinha
- Rafael Castilhol
「今年の楽器演奏者」部門は、ジャズ・ピアニストのAmaro Freitas(アマーロ・フレイタス)が受賞しました。
ブラジル各地のルーツ・ミュージックを取り込んだ型破りな演奏は日本でも人気が高く、これまでにも何度か来日を果たしています。2024年の来日では、単独公演だけでなく音楽フェスFrue(フルエ)で中村佳穂と共演し、話題となりました。
今年のアルバム「Y’Y」(イプシロン・イプシロン)の曲を演奏しているソロライブの映像を貼っておきます。
Produção Musical do Ano(今年のプロデューサー)
- Eduardo Pepato
- Gustavo Ruiz Chagas
- Julio Fejuca
- Pretinho da Serrinha 受賞
- Rafael Castilhol
- Iuri Rio Branco
「今年のプロデューサー」部門はPretinho da Serrinha(プレチーニョ・ダ・セヒーニャ)が受賞しました。
Pretinho da Serrinhaについては、2023年にXande de Pilares(シャンヂ・ヂ・ピラレス)の「Xande Canta Caetano」(シャンジ・カンタ・カエターノ)をプロデュースした、というところまでは私も抑えているのですが、ごめんなさい、今年はどの作品をプロデュースしたか調査不足です。分かり次第、追記します。
Artista do Ano(今年のアーティスト)
- Ana Castela
- Anitta
- Gloria Groove
- Jão
- Liniker 受賞
- Matuê
「今年のアーティスト」部門もLiniker(リニケル)の受賞です。アルバム「CAJU」から、「TUDO」(トゥード)のミュージックビデオを貼っておきます。
Show do Ano(今年のライブ)
- Caetano & Bethânia
- Ivete Sangalo: 3.0, A Festa / Rock in Rio 2024
- Iza, Rock in Rio 2024
- Jão, Superturnê / Rock in Rio 2024 受賞
- Ludmilla, Numanice #3 Tour / Rock in Rio 2024
- Planet Hemp, Baseado em Fatos Reais: 30 anos De Fumaça / Rock in Rio 2024
一般投票を受け付けていた「今年のライブ」部門は、Jão(ジャウン)が受賞しました。
Jão(ジャウン)は1994年生まれでサンパウロ州の奥地アメリコ・ブラジリエンセ出身のシンガーソングライター。じつはサンパウロ大学を卒業しているエリートでもあります。ブリティッシュ・ロック的な感性のブラジルポップスをやっており、今いちばん人気なポップスターの一人であることに間違いはありません。
2024年には、アルバム「Super」(スペル)のデラックス版「Supernova」(スペルノヴァ)がリリースされており、その収録曲「O Triste É Que Eu Te Amo」(オ・トリスチ・エ・キ・エウ・チ・アモ)が最高です。未聴なら今すぐ聴いてください!
Categoria Brasil(ブラジル部門)
- NORDESTE, Sued Nunes
- CENTRO-OESTE, Thauane
- SUL, Vitor Limma
- NORTE, Viviane Batidão 受賞
- SUDESTE, Yan
ブラジル各地のローカル・シーンに光を当てるための部門です。今年はブラジル北部のViviane Batidão(ヴィヴィアニ・バチダン)が受賞しました。
Clipe TVZ do Ano(今年のビデオクリップ)
- Carta Aberta, MC Cabelinho (Dir. Rafael do Carmo)
- La Noche, Yago Oproprio (Dir. Luis Carone)
- Mil Veces, Anitta (Dir. Jackson Tisi) 受賞
- O Som, Matuê (Dir. Rafael do Carmo / Matuê)
- Sagrado Profano, Luísa Sonza feat. Kayblack (Dir. Diego Fraga)
- TUDO, Liniker (Dir. Marcelo Jarosz)
一般投票を受け付けていた「今年のビデオクリップ」部門は、ブラジルポップスの女王、Anitta(アニッタ)の「Mil Veces」(ミル・ヴェーセス)が受賞しました。
Anittaはリオデジャネイロ出身で1993年生まれ。2010年代のブラジル・ポップスを代表するスターで、いまや世界的に名の知れたアーティストとなりました。国際市場を意識して活動してきたため、スペイン語のレゲトンや英語のエレクトロポップの曲が多かったのですが、2024年にはアルバム「Funk Genaration」(ファンキ・ジェネレーション)でファンキに原点回帰。その収録曲「Mil Veces」は、スペイン語で歌われているセクシーな曲ですが、音楽的にはアニッタのデビュー当時を思い出させるファンキのポップスになっています。
アニッタは受賞スピーチで、近年YouTubeでミュージックビデオが試聴されなくなってきている現状に言及していたようです(最近はビデオを作っても見てもらえないから残念だ、みたいな)。実際、昨年あたりからストーリー性のある凝ったミュージックビデオが減り、かわりに反復映像のビジュアライザーが増えたように思います。これもまた音楽業界の変化で、しかたのないことかもしれません。
そんな中で、ラッパーのMC Cabelinho(エミセー・カベリーニョ)が2023年にリリースした「Carta Aberta」(カルタ・アベルタ)には注目です。YouTubeでの再生回数は9631万回(2024年12月4日時点)で、他のノミネート作と比べても圧倒的な差をつけて視聴されています。歌詞ではネット上でバッシングされる苦しみを歌っており、ビデオでは人種差別や閉鎖的なSNS空間を風刺しているのも印象的です。チャラい若者として出てきたMC Cabelinhoが、2022年の良作「Little Love」をへて産み出した、渾身(こんしん)の一曲だと思います。
Hit do Ano(今年のヒット)
- Caju, Liniker
- Escrito Nas Estrelas, Lauana Prado 受賞
- Macetando, Ivete Sangalo e Ludmilla
- Nosso Primeiro Beijo, Gloria Groove
- São Amores, Pabllo Vittar
- Só Fé, Grelo
一般投票を受け付けていた「今年のヒット」部門は、Lauana Prado(ラウアナ・プラド)が受賞しました。
Lauana Pradoは1989年生まれで、ゴイアス州ゴイアニア出身。オーディション番組「The Voice Brasil」(ザ・ヴォイス・ブラジル)出身のセルタネージョ歌手です。
Setanejo(セルタネージョ)はブラジルのカントリーともいえるジャンルで、現在ブラジルで一番人気の音楽ジャンルとなっています。男性歌手が多いのですが、そんな中で活躍する女性歌手は「声が太くてなんぼ」という風潮があるのも特徴です。中でもLauana Pradoはしゃがれ声が独特でロックスターのようなオーラがあり、かっこいいと思います!
Revelação do Ano(今年の新人)
- Duquesa
- Grelo
- Jota.pê
- Os Garotin
- Yago Oproprio
- Zaynara 受賞
「新人賞」はZaynara(ザイナラ)が受賞しました。
Zaynaraは2001年生まれでブラジル北部パラー州のカメタ出身。テクノブレガの伝説的グループ、Banda Calypso(バンダ・カリプソ)のJoelma(ジョエルマ)を師と仰いでおり、共演も果たしています。
2024年は同じくブラジル北部出身のPabllo Vittar(パブロ・ヴィター)のテクノブレガ作品にゲスト参加。コラボ曲「Quem Manda em Mim」(ケン・マンダ・エン・ミン)で全国レベルまで知名度を上げました。私もこの曲、大好きです!
Arrocha do Ano(今年のアホッシャ)
- 5 da Manhã, Natanzinho Lima
- Arrasada, Heitor Costa
- De Graça ou Pagando, Grelo
- Mentira Estampada na Cara, Natanzinho Lima
- Oração, Nadson o Ferinha
- Só Fé, Grelo 受賞
バイーア州のダンスミュージックとして生まれたArrocha(アホッシャ)。「今年のアホッシャ」部門を受賞したのは、2024年に歌手デビューしたGrelo(グレロ)の「Só Fé」(ソー・フェ)でした。
Greloはゴイアス州アナポリス出身で、1997年生まれ。もともとは作曲家で、彼が作曲にたずさわった曲は、Marília Mendonça(マリリア・メンドンサ)とMaiara & Maraísa(マイアラ・イ・マライザ)のコラボ曲「Esqueça-Me Se For Capaz」、Simone Mendes(シモーニ・メンジス)の「Erro Gostoso」などなど、近年のセルタネージョの中でもリスナーの記憶に強く残るヒット曲ばかり。Greloが楽曲提供していたセルタネージョの人気デュオ、Henrique & Juliano(エンリキ・イ・ジュリアーノ)に歌手としての才能を見い出されて、2024年にソロ歌手としてデビューすることになったそうです。
Grelo自身が作曲した「Só Fé」は、覚えやすいメロディーの中に郷愁のただよう良曲で、大ヒットしました。
Axé/Pagodão do Ano(今年のアシェー、パゴダン)
- Macetando, Ivete Sangalo part. Ludmilla 受賞
- Nego Doce, O Kannalha
- Perna Bamba, Parangolé part. Léo Santana
- Seus Recados, Ivete Sangalo e Liniker
- Tá Gostosin, ÀTTØØXXÁ e É O Tchan
- Tranca Rua, ÀTTØØXXÁ feat. Baco Exu do Blues
バイーア州のお祭りポップスであるAxé(アシェー)と、その進化版であるPagodão(パゴダン)。「今年のアシェー、パゴダン」部門を受賞したのは、Ivete Sangalo(イヴェッチ・サンガロ)とLudmilla(ルジミーラ)のコラボ曲、「Macetando」(マセタンド)でした。
Ivete Sangaloは1972年生まれでバイーア州ジュアゼイロ出身。90年代からアシェーの人気歌手として活躍し、今でも国民的スターとして幅広い層に支持されています。50歳を過ぎているのですが、超人的なスタミナと人間力で、最近ますます輝いているように見えます。
Ludmillaは1995年生まれでリオデジャネイロ州のドゥケ・デ・カシアス出身。ファンキの天才少女として2010年代にデビューし、R&Bからパゴージまで幅広く歌って評価され、2024年はアメリカの音楽フェス、コーチェラ・フェスティバルに出演しました。また、パゴージのアルバム「Numanice #3 Ao Vivo」(ヌマナイシ・ドイス・アオ・ヴィーヴォ)も今年リリースしており、Multishow賞の受賞には至りませんでしたが、こちらも良作です。
「Macetando」は年始にリリースされ、ちょうどカーニバルの時期に大流行し、Spotifyのブラジル・チャートで1位を獲得しています。アシェーの女王イヴェッチ、ファヴェーラの女王ルジミーラ、カーニバル、そして覚えやすい歌詞とダンス。これがヒットしないわけがありません!
Brega do Ano(今年のブレーガ)
- DAQUI PRA SEMPRE, Manu Bahtidão e Simone Mendes 受賞
- Me Libera, Gaby Amarantos feat. Banda Uó
- Não Vou te Deixar, Gaby Amarantos e Pabllo Vittar
- Outra Vez, Raidol e Viviane Batidão
- Quem Manda em Mim, Zaynara feat. Pabllo Vittar
- Sobrou pra Você, AQNO
ブラジル北部のパラー州ベレンで発展したジャンル、Brega(ブレーガ)。もともとカリブ海の音楽から影響を受けた大衆的ラブソングを指すジャンル名だったようですが、そこから派生したBrega Pop(ブレーガ・ポッピ)やTecno Brega(テクノ・ブレーガ)は、アゲアゲなダンスミュージックに発展しました。
そんな「ブレーガ」部門を受賞したのは、Manu Bahtidão(マヌ・バチダン)とSimone Mendes(シモーニ・メンジス)の「Daqui Pra Sempre 」(ダキ・プラ・センプリ)でした。
Simone Mendesは1984年にバイーア州奥地のウイバイ生まれ。セルタネージョ界の人気姉妹デュオSimon & Simaria(シモーニ・イ・シマリア)として一世を風靡(ふうび)し、昨年からソロ活動を始め、安定した人気を誇っています。
Manu Bahtidãoは1986年生まれ。北東部(ノルデスチ)のアラゴアス州で生まれ、北部のパラー州でテクノブレーガの歌手として活躍していたそうです。全国的にヒットするようになったのは2023年からで、私もこのシモーニ・メンジスとのコラボで名前を知りました。
それにしても、ブラジルのアラフォー女性たち、かっこ良過ぎだと思います!
DJ do Ano(今年のDJ)
- Alok 受賞
- Anna
- Mochakk
- Mu540
- Paulete Lindacelva
- Pedro Sampaio
「今年のDJ」部門は、昨年と同じAlok(アロック)でした。Anittaとのコラボ曲を貼っておきます。
2023年のMultishow賞特集でも同じことを書いたのですが、今年もDJ部門のノミネートの中で私が推していたのは、Pedro Sampaio(ペドロ・サンパイオ)でした!
Pedro Sampaioは1997年リオデジャネイロ生まれのアーティストで、今年はGasparzinho(ガスパルジーニョ)というアーティストの曲「CAVALINHO」(カヴァリーニョ)のリメイクでヒット。ライブでこの曲がかかったらオーディエンスがいっせいに電車ごっこみたいなダンスをする「ファン文化」も生まれました。底抜けに明るくて、いろんなリミットを突き抜けた感があり、まさに現代ブラジルのポップスターだと思います。
Forró/Piseiro do Ano(今年のフォホー、ピゼイロ)
- Amor Na Praia, NATTAN
- Beijo, Blues e Poesia, Seu Desejo
- Casca de Bala, Thullio Milionário 受賞
- Coração de Vaqueiro, João Gomes
- Maravilhosa, Zé Vaqueiro
- Página de Ex, Mari Fernandez
ブラジル北東部(ノルデスチ)のダンスミュージックであるForró(フォホー)。その進化系であるPiseiro(ピゼイロ)は、2022年にJoão Gomes(ジョアン・ゴメス)が全国的にヒットしたのを機に大流行し、セルタネージョ歌手がこぞってピゼイロの曲を発表、一時はSpotifyのヒットチャートがピゼイロで埋め尽くされていた時期もありました。
そんな「フォホー、ピゼイロ部門」を2024年に受賞したのは、Thullio Milionário(トゥリオ・ミリナリオ)の「Casca de Bala」(カスカ・ジ・バラ)でした。
Thullio Milionárioは1990年生まれで、リオグランデ・ド・ノルテ州ナタル出身。この曲はTikTokで火が付き、Spotifyのグローバル・バイラルチャートで8位まで上り詰めたそうです。
Funk do Ano(今年のファンキ)
- Joga Pra Lua, Anitta, Dennis, Pedro Sampaio 受賞
- MTG QUEM NÃO QUER SOU EU, Dj Topo, Mc Leozin, Seu Jorge, MC G15
- Recadin No Espelho, Mc Kevin O Chris e Luísa Sonza
- Rolé Na Favela de Nave, Oruam, Didi, Dj LC da Roça, MC K9, MC Smith, Mainstreet
- Te Maceto Depois do Baile, Dj Zigão, Dj Lafon do Md, Mc Rodrigo do CN, Mc Rf
- THE BOX MEDLEY FUNK 2, THE BOX, Mc Brinquedo, MC Cebezinho, Mc Laranjinha, MC Tuto, Dj Oreia
リオデジャネイロのファヴェーラ(スラム街)のストリートミュージックとして発生したFunk(ファンキ)。「今年のファンキ」部門は、Anitta(アニッタ)、Dennis(デニス)、Pedro Sampaio(ペドロ・サンパイオ)の「Joga Pra Lua」(ジョガ・プラ・ルア)が受賞しました。
音楽としては、Dennisがプロデュースした2023年のヒット曲「Ta OK」(タ・オキ)と同系統のファンキです。
一方、2024年のファンキといえば、「MTG」ではないでしょうか。
MTGとはモンタージュの略で、何かの曲をコラージュしている、ということらしいです(ミーティングではありません)。2024年のファンキ界では、独特のミニマルなサウンドで名曲をコラージュしたMTGがヒットチャートを賑わせました。
そんなMTGの中でも特にヒットしたのが、DJ Topo(ジージェー・トポ)です。DJ TopoがSeu Jorge(セウ・ジョルジ)の曲「Quem Não Quer Sou Eu」(ケン・ノン・ケル・ソウ・エウ)をサンプリングし、ミニマルなサウンドで仕上げたトラックは、Spotifyのブラジルチャートで1位を獲得しました。こうしたヒットの後を追い、ファンキに限らず色々なアーティストがMTGのトラックを出していたのが、2024年の潮流だったと思います。
Gospel do Ano(今年のゴスペル)
- Batalhas Secretas, Ton Carfi
- Bênçãos que Não Têm Fim, Isadora Pompeo 受賞
- Lindo Momento, Julliany Souza
- Ovelhinha, Isadora Pompeo
- Toda Terra, Gabriela Rocha
- Tu és + Águas Purificadoras, Fhop MUSIC, Débora Rabelo e Hamilton Rabelo
「ゴスペル」部門はIsadora Pompeo(イサドラ・ポンペオ)が受賞しました。1999年生まれのリオ・グランデ・ド・スル州出身の歌手です。
ブラジルのゴスペル事情は全然分からないのですが、この曲のYouTubeの再生回数はたった1年間あまりで1.7億回を超えており、とにかく超人気なことがうかがえます。
MPB do Ano(今年のMPB)
- Cacau, Melly
- CAJU, Liniker 受賞
- Feito a Maré, Jota.pê e Gilsons
- Ouro Marrom, Jota.pê
- TUDO, Liniker
- VELUDO MARROM, Liniker
ブラジルの古典的ポップスともいえるMPB(エミペーベー)。「今年のMPB」部門はLiniker(リニケル)の曲「CAJU」(カジュ―)が受賞しました。聴けば聴くほど良い曲で、こういった曲が絶賛されるブラジルという国は、本当に良いなと思います。Linikerは3曲も同部門でノミネートされています。
Música Urbana do Ano(今年のアーバンミュージック)
- A Dança, MC Hariel e Gilberto Gil 受賞
- Carta Aberta, MC Cabelinho
- Crack com Mussilon, Matuê
- La Noche, Yago Oproprio
- Purple Rain, Duquesa, Yunk Vino e Go Dassisti
- Você Parece Com Vergonha, Ajuliacosta
「今年のアーバン・ミュージック」部門は、MC Hariel(エミセー・アリエウ)とGilberto Gil(ジルベルト・ジル)のコラボ曲が受賞しました。
ブラジル音楽界の巨匠Gilberto Gil(ジルベルト・ジル)は、2024年に「最後」のワールドツアーの一環として来日。82歳とは思えない軽やかで楽しいステージを見せ、日本のファンを湧かせました(本当に最高でした!)。
一方のMC Hariel(エミセー・アリエウ)は、サンパウロ出身で1997年生まれのFunk(ファンキ)のラッパー。Gloria Groove(グロリア・グルーヴ)のアルバム「Lady Leste」(レディー・レスチ)にも参加していますが、私がとくに注目するのは、彼の「産休」と「育休」です。2023年には一人目の子の育児に専念するために、2024年には二人目の子が産まれるのにともない、それぞれ音楽活動を休止しています(詳しくはこちらの記事とこちらの記事)。
私の知るかぎり、男性で「産休」と「育休」をとったアーティストは、MC Harielくらいしか思いつきません。アーティストとして脂の乗っている時期の休業は痛手だったのではないか、と思いきや、2024年にMultishow賞を獲得。心からお祝いしたい受賞となりました。
Pop do Ano(今年のポップス)
- DEIXA ESTAR, Liniker, Lulu Santos e Pabllo Vittar
- Mal, Jão e Gustavo Mioto
- O Triste É Que Eu Te Amo, Jão
- POCPOC, Pedro Sampaio
- Sagrado Profano, Luísa Sonza feat. Kayblack
- サン・アモーレス、パブロ・ヴィッタール賞受賞
「今年のポップス」部門は、Pabllo Vittar(パブロ・ヴィター)の「São Amores」(サン・アモーリス)が受賞しました。
Pabllo Vittarは1993年生まれでブラジル北部の出身。ドラァグ・クイーンの歌手として2010年代後半にデビューし、唯一無二の声と容姿で社会現象を起こしました。2021年にはブラジル北部に特有の音楽ジャンル、テクノ・ブレーガやフォホーをテーマとしたアルバム「Batidão Tropical」(バチダン・トロピカウ)を発表。2024年にはその続編である「Batidão Tropical Vol. 2 」(バチダン・トロピカウ・ボウミ・ドイス)をリリースし、その収録曲「São Amores」(サン・アモーリス)がTikTokでバイラルヒットをとげました。
また、2024年のPabllo Vittarといえば、Sevdaliza(セヴダリザ)とYseult(イズー)とのコラボ曲、「Alibi」(アリバイ)のグローバル・ヒットも重要です。ブラジル音楽という枠では収まらない曲ですが、ブラジル音楽の要素とポルトガル語が印象的に使われており、こうした曲が世界中でヒットするということに、新たな時代の訪れを私は感じました。
Rock do Ano(今年のロック)
- Dentes Amarelos, Dead Fish
- Do Tamanho da Vida, Barão Vermelho e Cazuza 受賞
- Eu Nunca Fui Embora, Fresno
- Labirinto da Memória, Dead Fish
- Perpétuo, Black Pantera
- Tradução, Black Pantera
「今年のロック」部門は、伝説のロック歌手Cazuza(カズーザ)の未発表詞を楽曲化した「Do Tamanho da Vida」(ド・タマーニョ・ダ・ヴィーダ)が受賞しました。
CazuzaはバンドBarão Vermelho(バラォン・ヴェルメーリョ)のヴォーカルとしても知られ、1985年には音楽フェスRock in Rio(ロック・イン・リオ)の伝説的な初回に出演。80年代ブラジルを代表するロックスターとして一世を風靡(ふうび)しましたが、1990年にエイズにより命を落としています。
そんなCazuzaのお母さんからバンドに提供された詞が、2024年に新曲としてよみがえったのが、この曲です。今年はRock In Rioの「40周年」とのことで、この曲がRock In Rioで演奏されたことは話題となりました。
Samba/Pagode do Ano(今年のサンバ、パゴージ)
- Apaguei Pra Todos, Ferrugem e Sorriso Maroto
- Coração Partido, Menos é Mais
- Febre, Liniker e Thiaguinho
- Maliciosa, Ludmilla
- Me Bloqueia, Ferrugem
- Nosso Primeiro Beijo, Gloria Groove 受賞
ブラジルといえば、やっぱりサンバです! Pagode(パゴージ)はサンバのサブジャンルで、即興的なセッションからサンバ風ポップスまで幅広く含むのですが、ちょっと一言では伝えられず、くわしくはこちらの記事にまとめたので、よければお読みください。
そんな「サンバ、パゴージ」部門は、Gloria Groove(グロリア・グルーヴ)の「Nosso Primeiro Beijo」(ノッソ・プリメイロ・ベイジョ)が受賞しました。
ドラァグ・クイーンのGloria Grooveは、1995年生まれでサンパウロ出身。圧倒的な歌唱力で人気を集め、2022年のMultishow賞では「今年の歌手」部門を受賞しており、まさに今のブラジルポップスを代表する歌手の一人といえます。
以前からLudmilla(ルジミーラ)のパゴージ作品に参加しており、お母さんがRaça Negra(ハッサ・ネグラ)というパゴージ・グループのコーラスだったという縁もあって、2024年は「Serenata da GG」(セレナータ・ダ・ジェージェー)の名で2枚のパゴージ作品を発表。その収録曲「Nossa Primeiro Beijo」は、Spotifyブラジルのヒットチャートで上位に居座り続けるロングヒットとなりました。
2024年のパゴージといえば、Menos é Mais(メノス・エ・マイス)の「Coração Partido」(コラソン・パルチード)も忘れてはいけません。スペインのシンガーソングライター、Alejandro Sanz(アレハンドロ・サンス)の1997年の曲「Corazón Partío」(コラン・パルティオ)のカバーで、Spotifyのブラジルチャートでもパゴージとして異例のヒットをとげました。「その場にいる皆で楽しむ音楽、これぞパゴージ!」というミュージックビデオなので、パゴージ初心者の方にもオススメです。
Sertanejo do Ano(今年のセルタネージョ)
- Dois Tristes, Simone Mendes
- Escrito Nas Estrelas, Lauana Prado 受賞
- Gosta de Rua, Felipe & Rodrigo
- Haverá Sinais, Jorge e Mateus, Lauana Prado
- Mulher Foda, Simone Mendes
- Xonei, Jorge e Mateus e Henrique & Juliano
ブラジルでいま一番売れている音楽ジャンル、「セルタネージョ」部門は、Lauana Prado(ラウアナ・プラド)の「Escrito nas Estrelas」(エスクリート・ナス・エストレーラス)が受賞しました。「今年のヒット」とあわせてダブル受賞です。ここではライブ映像を貼っておきます。
おわりに
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。この記事を通して、ブラジル音楽の幅の広さ、面白さを少しでもシェアできたら嬉しいです。
「去年までのMultishow賞も気になる」という方は、ぜひ2023年の記事や2022年の記事もチェックしてみてください。サムネイルが似ていますが、別記事となっています。