2025年、Lagum(ラグン)が5枚目アルバムをリリース
2025年5月27日、ブラジルのロック・バンド、Lagum(ラグン)が5枚目アルバムとなる「As Cores, As Curvas e as Dores do Mundo」をリリースしました。
この作品が、最高です!
「日本でもラグンのファンが増えてほしい!」ということで、特集記事を書かせていただきます!
Lagum(ラグン)とは?

Lagum(ラグン)は、ブラジルのミナスジェライス州の州都、ベロオリゾンテ(Belo Horizonte)出身のバンドです。ヴォーカルのPedro Calais(ペドロ・カライス)を中心に結成されており、現在のメンバーは、ギタリストのZani(ザニ)とJorge(ジョルジ)、ベーシストのChicão(シコゥン)の計4人。
そもそもの始まりは、Pedro Calais(ペドロ・カライス)がFacebookにアップした自作の曲でした。その動画を見た音楽関係者の友人から「バンドを組んだ方がいい」とアドバイスされ、幼馴染などメンバーを集めて、Lagum(ラグン)が結成されています。
2016年には、アルバム「Seja o Que Eu Quiser」(セジャ・オ・キ・エウ・キゼール)を発表。2018年に、シングル「Deixa」(デイシャ)が大ヒットして注目を浴び、Sony Music Brasilと契約するにいたります。
2019年には、2枚目アルバム「Coisas da Geração」(コイザス・ダ・ジェラソン)をリリースしています。
2010年代後半の「チルいポップス」ブーム
このようにLagumが登場した2010年代後半、ほぼ同時期にMelim(メリン)やAnavitória(アナヴィトーリア)が大ヒットしているのにも注目です。
MelimもAnavitóriaもLagumも、レゲエやフォークに影響を受けた「チルいポップス」で、こういった音楽が、2015年以降の数年間、「ブラジル・ポップスのトレンド」を形成していました。
そんな中でもLagumは、ベロオリゾンテ出身で、同郷のロック・バンドであるSkank(スカンキ)やJota Quest(ジョタ・クエスチ)の後継者としても期待が高かったのではないかと思います。
そして、Lagumは次々と作風を変えながら継続して作品をリリースし、独自の音楽性を深めていくことになりました。
ブラジリアン・ロックの佳作「Memorias」
Lagumの作品のなかでも一番オルタナティヴ・ロック寄りなのが、2021年の3枚目アルバム「Memórias (De Onde Eu Nunca Fui)」(メモリアス、ジ・オンジ・エウ・ヌンカ・フイ)です。
この「メモリアス」は、私がラグンの中で一番よく聴いたアルバムでもあります。Lagumの「まず最初に聴く一枚」としてオススメです!
ゲストも豪華で面白く、ラップ界の重鎮Emicida(エミシーダ)、当時飛ぶ鳥を落とす勢いでヒットしていたラッパーL7NNON(レノン)、サンバの女性歌手Mart’nália(マルチナリア)が参加しています。とくにPapatinho(パパチーニョ)がプロデュースした「Eita Menina」(エイタ・メニーナ)は、私も大好きな一曲です。
ところで、気づかれたかもしれませんが、「Memórias」のアルバムジャケットは5人がいるのに、「Eita Menina」のMVではLagumのメンバーが4人しかいません。じつは、「Memórias」をリリースする直前の2020年、ドラマーのTio Wilson(チオ・ウィルソン)が急死しています。「Memórias」はTio Wilsonが最後に参加した作品となり、彼を失ったLagumは、その後、一気に音楽性を変えていくことになりました。
「終わり」をテーマにした内省的な作品「Depois de Fim」
ドラマーとの死別をへた2023年、Lagumは4枚目アルバム「Depois do Fim」(デポイス・ド・フィン、「終わりの後」)をリリースしています。
この作品のテーマは、「終わり」。人との別れや失恋を歌っているのに、なぜか不思議な温かさがある作品です。内省的で、心に沁みる音楽だと思います。
2025年の新作「As Cores, As Curvas e as Dores do Mundo」
そして本題の新作です。
2025年にリリースされた5枚目アルバム、「As Cores, As Curvas e as Dores do Mundo」(アス・コーレス・アス・クルヴァス・イ・アス・ドーレス・ド・ムンド」は、タイトルを日本語にするなら「世界の色と曲線と悲しみと」。
Sonyとの契約を解消し、インディーズで制作されています。どの曲もほんとうに良くて、私としてはLagumの最高傑作だと思います。
この曲はタイトルが「Dançando no Escuro」(ダンサンド・ノ・エスクーロ)、「暗闇のなかで踊る」という意味で、サビの歌詞は「暗闇のなかで踊る、自分と自分だけで」。明るくて楽しい曲調なのに、孤独について歌っているのが印象的です。
「As Desvantagens de Amar Alguém Que Mora Longe」(アス・デスヴァンタージェンス・ジ・アマー・アウゲン・キ・モーラ・ロンジ)、直訳して「遠くに住む人を愛することのデメリット」。
恋人に限らず、家族でも友人でも、大切な人が遠くにいってしまう悲しみを歌っていて、聴いていて胸がぎゅっとしめつけられるような良い曲だと思います。
ブラジルのロックの伝統
ここから話は脱線しますが、Lagumの新作は、ブラジルのロックの名盤、Legião Urbana(レジオン・ウルバーナ)の「Dois」(ドイス)を彷彿とさせるものがあると思います。
Legião Urbana(レジオン・ウルバーナ)は80年代にポスト・パンクのバンドとして登場し、その音楽性ゆえ「ブラジルのThe Smiths(スミス)」とも呼ばれています。一方で、スミスとはまた違う「憂い」や「あたたかさ」があって、そこが魅力です。バンドの中心人物であったヴォーカリスト、Renato Russo(へナート・フッソ)は1996年にエイズで死去しており、文字通り「伝説のバンド」としてブラジル・ロック史に名を残しています。
なかでもアルバム「Dois」は本当に良い作品なのですが、サブスクで解禁されておらず、フィジカルも入手困難な状態です。どこかでリイシューしてくれないものでしょうか──?
なにはともあれ、最近のLagumの音楽は、Legiao Urbanaのようなブラジル・ロック特有の「憂い」や「あたたかさ」を受け継いでいると思います。


