- はじめに
- ジョルジベンの関連作まとめ
- Toquinho「Toquinho」1970年
- Os Originais do Samba「É Preciso Cantar」1973年
- Os Mutantes「Os Mutantes」1968年
- Gal Costa「Gal」1969年
- Caetano Veloso「Bicho」1977年
- Maria Bethânia「A Tua Presença」1971年
- Elis Regina「Elis Regina In London」1969年
- Doris Monteiro「Doris Monteiro」1970年
- Os Incríveis「Os Incríveis」1969年
- Elza Soares「Do Cóccix Até O Pescoço」2002年
- Chico Science & Nação Zumbi「CSNZ」1998年
- 【番外編】Gretchen「Gretchen」1983年
- さいごに
はじめに
こんにちは、ヨシイタケコです。突然ですが、これから2回に分けてJorge Ben(ジョルジ・ベン)特集をやります。
Embed from Getty Imagesジョルジベンは私が一番好きなアーティストで、以前こんな記事も書きました。
でも、この記事だけではジョルジベンのすごさについて、とてもお伝えしきれていませんでした。深く反省しています──。
そこで今回は、もっと気合を入れてジョルジベンの魅力に迫ります!
まずこの記事で取り上げるのは、ジョルジベンの関連作。ジョルジベンが裏方としてどんな曲を他のアーティストに楽曲提供してきたか、あるいはコラボしてきたか、まとめて振り返ります。
どれも名曲ぞろいで、聴けばすぐにジョルジベンだと分かる個性があり、ここで紹介する音源を聴けば、その偉大さを実感できるはずです!
ジョルジベンの関連作まとめ
Toquinho「Toquinho」1970年

ボサノヴァの名ギタリスト、Toquinho(トッキ―ニョ)による1970年の作品。トッキ―ニョの美しいギター演奏もさることながら、このアルバムの最大の魅力は、ジョルジベンとのコラボ曲にあります。「Que Maravilha」(キ・マラヴィーリャ)、「Zana」(ザナ)、そして「Carolina, Carol Bela」(カロリーナ、カロウ・ベラ)の3曲は、どれも聴いた瞬間にジョルジベンと分かる質感をもっており、その中でも「Que Maravilha」と「Carolina, Carol Bela」は数多くのアーティストにカバーされてきました。
トッキ―ニョの洗練された透き通るような音楽と、ジョルジベンの野生的で荒々しい音楽がぶつかりあい化学反応を起こした、奇跡のような作品だと思います。
Os Originais do Samba「É Preciso Cantar」1973年
1960年代にリオデジャネイロで結成されたサンバのグループ、Os Originais do Samba(オス・オリジナイス・ド・サンバ)は、私の調べた限りでも7曲、ジョルジベンが作った曲を歌っています。
- 「Cadê Tereza?」1969年「Os Originais Do Samba」収録
- 「Se Papai Gira」1969年「Vol. 2」収録
- 「Tá Chegando Fevereiro」1970年「Samba É De Lei」収録
- 「Tenha Fé, Pois Amanhã um Lindo Dia Vai Nascer」1971年「Exportação」
- 「La Vem Salgueiro」1972年「Samba É A Corda… Os Originais A Caçamba」収録
- 「Falador Passa Mal」1973年「É Preciso Cantar」収録
- 「Mulher, Mulher」1981年「Os Originais Do Samba」収録
このうち「Cadê Tereza?」(カーダ・テレーサ)は、同時期の1969年リリースされた「Jorge Ben」というアルバムでジョルジベン本人も歌っていて、今ではそちらのほうが有名ではないでしょうか。でも、発表当時はオリジナイス・ド・サンバが歌ったバージョンのほうがヒットし、知名度が高かったそうです。ジョルジベンをディグるなら、ぜひ同時にチェックしたい存在です。
Os Mutantes「Os Mutantes」1968年
ブラジル音楽ファンのみならず、サイケデリック・ロックの愛好家からも評判が高いOs Mutantes(オス・ムタンチス)の1968年のデビューアルバム。ムタンチスは、ブラジルで「ロックの女王」として敬愛されている、今は亡きRita Lee(ヒタ・リー)が在籍していたバンドでもあります(詳しくはこちら)。
このアルバムの中で一番良い曲「A Minha Menina」(ア・ミーニャ・メニーナ)を、じつはジョルジベンが作曲しています。トロピカルなサイケデリックロックで、とてもムタンチスらしい演奏ですが、サンバ由来の躍動感は、いかにもジョルジベンらしいといえる一曲です。
ムタンチスについては、こちらのMPB(ブラジルのポピュラー・ミュージック)特集の記事でもご紹介しています。「MPBって何?」とう方は、ぜひご一読ください。
Gal Costa「Gal」1969年
MPBを代表する女性歌手Gal Costa(ガル・コスタ)も、ジョルジベンの曲をいくつか歌っています。
ただ、曲紹介をする前に、とてもややこしい話をしておかなければなりません。ガルコスタは1969年に2枚のアルバムを出しています。タイトルはそれぞれ「Gal Costa」と「Gal」。そして、Spotifyではこの両方が「Gal Costa」というタイトルで登録されてしまっており、事情を知らない人を混乱させる状態となっています。
2枚の見分け方は簡単です。ジャケットが天使のようなガルコスタの顔写真なのが「Gal Costa」で、音楽も天使の歌みたいな音楽。

ジャケットが極彩色のサイケデリックなほうが「Gal」で、音楽もサイケデリック。

そこで便宜上、それぞれのアルバムを「天使のGal Costa」、「サイケのGal」と呼ぶことにします。
「サイケのGal」で一番印象的なトラック「Tuareg」(トゥアレギ)は、ジョルジベンがガルコスタのために作った曲です。サハラ砂漠の民トゥアレグ族をイメージした歌詞とサウンドは、あやしげだけれども楽しく、トロピカリア・ムーブメントの中でもとくに面白い曲ではないでしょうか。また、「サイケのGal」にはジョルジベンの名曲「País Tropical」(パイス・トロピカウ)も収録されています。Caetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)、Gilberto Gil(ジルベルト・ジル)とのコラボで、トロピカリア・ムーブメントの主導者たちが集結した自由で楽しい演奏です。
一方、「天使のGal Costa」にはジョルジベン作曲の「Que Pena」(ケ・ペナ)と「Deus é o Amor」(デウス・エ・オ・アモー)が収録されており、こちらは清らかな楽園の音楽といった雰囲気です。
Caetano Veloso「Bicho」1977年
トロピカリア・ムーブメントの主導者であり、MPBの最重要アーティストであるCaetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)も、数多くのジョルジベン作品を歌ってきました。私の知っている限りでも、「Zumbi」、「Jorge De Capadócia」、「Quem Cochicha O Rabo Espicha」、「Charles, Anjo 45」をカバーしています。
なかでもジョルジベンがカエターノに楽曲提供した「Olha O Menino」(オリャ・オ・メニーノ)は必聴です。1977年のアルバム「Bicho」(ビーショ)に収録されています。「Bicho」は名曲ぞろいで、カエターノ作品の中でも私がとくに大好きな一枚です。
Maria Bethânia「A Tua Presença」1971年
Caetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)の妹であるMaria Bethânia(マリア・ベターニア)の作品。マリア・ベターニアの魅力は中性的な歌声と神秘的な存在感で、カエターノをはじめとするMPBの大御所の楽曲提供を受けてきました。
しっとりしたAOR系の作品が多い中、1971年のアルバム「A Tua Presença」(ア・トゥア・プレゼンサ)では軽快なサンバも歌っています。なかでもジョルジベンとコラボした楽曲「Mano Caetano」(マヌ・カエターノ、訳して「カエターノ兄さん」)は楽しい雰囲気で、マリア・ベターニア作品として異色ではないでしょうか。カエターノは当時、軍事政権の弾圧をうけてロンドンに亡命していました。そんな状況下で「カエターノ兄さんがやってきた」という歌詞をマリアベターニアが歌うのは、希望を歌いあげるようなことだったはずです。
Elis Regina「Elis Regina In London」1969年
ブラジリアン・ジャズの良曲「Zazueira」(ザズエイラ)は、ジョルジベンが作曲しています。最初にこの曲を歌い音源を世に出したのはWilson Simonal(ウィルソン・シモナル)のようです。
一方で、ブラジルの音楽史上最高の歌手であるElis Regina(エリス・レジーナ)の歌ったバージョンのほうが有名ではないでしょうか。突発的に録音されたという奇跡の名盤、1969年の「Elis Regina in London」(エリス・レジーナ・イン・ロンドン)に収録されている「Zazueira」は、圧倒的な歌唱力に裏打ちされた自由で奔放な歌い方で、曲の魅力が最大限に引き出されています。
Doris Monteiro「Doris Monteiro」1970年
エリス・レジーナよりひとまわり上の世代の歌手、Doris Monteiro(ドリス・モンテイロ)の作品。ドリス・モンテイロは知的で風格のある歌声の持ち主で、1950年代のサンバ・カンサォン(サンバ歌謡)の時代から活躍し、時代の変遷とともにボサノヴァからMPBまで歌ってきました。
1970年のアルバム「Doris Monteiro」に収録されている「Se Você Quiser Mas Sem Bronquear」(シ・ヴォセ・キゼー・マイス・セン・ブロケアー)は、ジョルジベンが作曲しています。上品なボサノヴァかと思いきや、ジョルジベンらしい遊び心も顔をのぞかせる一曲です。
Os Incríveis「Os Incríveis」1969年
サンパウロで1960年代に結成されたバンド、Os Incríveis(オス・インクリヴェイス)は、「ブラジルのグループ・サンウンズ」とも呼ばれる音楽をやっていたロックバンドです。1969年のアルバム「Os Incríveis」では、一曲目にジョルジベン作曲のトラックが収録されています。
曲名は、その名も「Vendedor De Bananas」(ヴェンデドール・ジ・バナナス)、訳して「バナナ売り」。「バナナをごらん!バナナを売りにきたよ!」という歌詞はユーモラスで覚えやすく、子供向けに「おかあさんといっしょ」で流してもイケそうな気がします。ジョルジベンの歌には子供のような純粋なところがあり、そこもまた魅力のひとつです。
Elza Soares「Do Cóccix Até O Pescoço」2002年
1950年代から活動してきたサンバの女性歌手、Elza Soares(エルザ・ソアレス)が72歳になってリリースした衝撃作。アルバムのタイトルは「Do Cóccix Até o Pescoço」(ド・コクシス・アテ・オ・ペスコーソ)。サンバを土台としてヒップホップにも挑戦した野心的な内容で、ブラジル音楽界の重要人物を集結させ、エルザソアレスにしかできない音楽をやっています。晩年のアバンギャルドな作品もすばらしいですが、私が一番好きなエルザソアレスの作品は、このアルバムです。
ジョルジベンが作曲した「Hoje É Dia De Festa」(オージ・エ・ジア・ジ・フェスタ)はヒップホップ風のアレンジで、ジョルジベンの過去の名曲がサンプリングされているのも聴きどころとなっています。エルザ・ソアレスは過去にもジョルジベンの曲「Mas Que Nada」や「Pulo, Pulo」を歌っており、こちらもエルザ独自の歌唱で必聴です。
「エルザ・ソアレスがすごい!」ということについては、過去にこんな記事も書いているので、ぜひご一読ください。
Chico Science & Nação Zumbi「CSNZ」1998年
ジャンルを横断し、ユニークな音楽をやっていたジョルジベン。そんなジョルジベンと同じように唯一無二の音楽をやっていた人物が、1990年代にもいました。Chico Science(シコ・サイエンス)です。
Embed from Getty Imagesシコサイエンスはブラジル北東部ペルナンブーコ州レシフェ出身。北東部の伝統音楽(マラカトゥ)やヒップホップ、レゲエ、ロックを融合させた独自の音楽を作り出し、レシフェの音楽シーンを支える存在でした。その音楽は、マングローブにちなんでManguebeat(マンギビート、マンギビーチ)といいます。
シコサイエンスが率いていたバンドChico Science & Nação Zumbi(シコ・サイエンス・イ・ナソォン・ズンビ)は2枚のスタジオアルバムを出し、いずれも世界中の音楽愛好家から絶賛されました。
しかし1997年の人気絶頂期、シコサイエンスは交通事故で命を落としてしまいます。その翌年の1998年、トリビュート盤としてリリースされたのが「CSNZ」です。「CSNZ」には4曲の未発表音源と、ライブ音源(原曲より良い)、そして豪華アーティストらによるリミックスが収録されています。
そしてこの未発表音源が、ほんとうに最高なのです! 交通事故さえなければ作られただろう幻の「3枚目のアルバム」こそ、歴史的な傑作となるはずだったのではないかと思わされます。ジョルジベンらとコラボした曲「Malungo」(マルンゴ)も、この未発表音源のなかの一曲です。
シコサイエンスについては、「彼がまだ生きていたらその後のブラジル音楽界は大きく変わっていた」とも言われているそう(『リアル・ブラジル音楽』ウィリー・ヲゥーパー氏)。「CSNZ」を聴くと、私もそう思わざるをえません。
なお、Nação Zumbiの主要メンバーであるJorge Du Peixe(ジョルジ・ドゥ・ペイシ)は、全曲ジョルジベンのカバー・アルバムを別プロジェクト(Los Sebosos Postizos)でリリースしており、こちらもマンギビート風ジョルジベンとして一聴の価値があります。
【番外編】Gretchen「Gretchen」1983年
さいごに、まさかのGretchen(グレッチェン)です。グレッチェンは昔のセクシー系アイドルで、近年は「元アイドルのおばちゃん」という立ち位置のタレントとして活躍しています。ネットミームにもなっている人で、一時期のTwitterでは毎日のようにグレッチェンのGIF動画が流れていました。そういうフィルターバブルのなかに居たのは、私だけでしょうか──?
そんなグレッチェンの1983年のアルバム「Gretchen」には、なんとジョルジベンの作曲した曲が収録されています。その名も「Ela Tem Raça, Charme, Talento E Gostosura」(エラ・テン・ハッサ・シャーミ・タレント・イ・ゴストスーラ)。グレッチェンは、ひかえめに言ってそんなに良い曲ばかり歌っているわけではありません。でも、なぜかこの曲は不思議な魅力があり、私は好きです。
さいごに
いかがでしたでしょうか。長い記事でしたが、ここまで読んでくださりありがとうございます。
ジョルジベンのコラボ作は、ほかにもGilberto Gil(ジルベルト・ジル)の「Queremos Guerra」(ケレモス・ゲーハ)やZeca Pagodinho(ゼカ・パゴジーニョ)の「Ogum」(オグン)などあるのですが、このあたりでいったん終わりにします。
前の記事でも書いたとおり、私がブラジルの音楽を真剣に聞き始めたのは、ジョルジベンと出会ったからでした。欧米の音楽をおもに聴くなかで、なんとなくMPBも聴いていたころ、「この曲、良いな」と思った曲がことごとくジョルジベンの作った曲だと気づいたのです。
祝祭的だけれども郷愁にあふれ、何度くりかえし聴いても飽きない。他に似た音楽が存在しない。そんなジョルジベンの音楽に魅了され、いつのまにかブラジル音楽ばかりひたすら聴くようになっていました。そして今現在のブラジルポップスも聴くようになり、こんなブログを開設するに至っています。
ジョルジベンは私にとって、とても大事な存在なのです。
というわけで、次回もジョルジベン特集をやります! いましばらくお付き合いください。




