MC Kevin O Chirisが「Universo150」をリリース
ブラジルのストリートで生まれた音楽、バイレファンキ(Funk)。その最重要人物ともいえるMC Kevin O Chiris(エミセー・ケヴィン・オ・クリス)が、2026年7月2日にアルバム「Universo 150」(ウニヴェルソ・セントイシンクエンタ)をリリースしました。
MC Kevin O Chrisとは、誰?
Kevin O Chris(ケヴィン・オ・クリス)は、2010年代後半に大流行した150BPM(1分間あたりの拍数150)の高速ファンキ、「ファンキ150BPM」を代表するアーティストです。ファンキ150BPMは、リオデジャネイロのアンダーグラウンドのシーンで、ダンスフロアを盛り上げるために考案されました。
ただひたすら踊るための激しいサウンドが特徴なのですが、Kevin O Chrisはそのサウンドに独特のチルいメロディーを重ねることで、多くの人に愛されるポップな楽曲を作り出し、ジャンルの可能性を拡げました。
とても若いアーティストで、生まれたのは1996年12月5日、リオデジャネイロ州ドゥケ・デ・カシアス(Duque de Caxias)出身。ドゥケデカシアスはリオデジャネイロ市の北に接する町で、今年ワールドカップのオフィシャル曲を歌ったファンキの国民的歌手、Ludmilla(ルジミーラ)を輩出した町でもあります。ドゥケデカシアスはリオ郊外のペリフェリア(periferia)といえる地域を擁しており、ファンキ界で重要なアーティストがたて続けに登場した場所として、注目の町かもしれません。なお、Kevin O Chrisという名前は、リオデジャネイロ風に発音すると「ケヴィン・オ・クリシュ」となります。
この曲「Ela É Do Tipo」(エラ・エ・ド・チポ)は2019年にリリースされると、Spotify Brasilのチャートで1位を数週間キープし、Spotify Global Viral Top 10にも食い込んで、Drake(ドレイク)によるリミックス版が作られるに至っています。ポルトガル語の歌詞はすがすがしい下ネタなのですが、音楽としてひたすら良く、それが世界中のリスナーの心をとらえたのではないでしょうか。
また、2023年にはDJ Dennis(ジージェー・デニシュ)とコラボした「TÁ OK」(タ・オキ)が大ヒットしています。
2023年ごろは、バイレファンキがサンパウロのクラブ文化のなかでインターナショナル化し、重低音の効いたテクノのようなサウンドが大量生産されていました。そんな中で登場した「Ta ok」は、2000年代中頃のリオデジャネイロのファンキに原点回帰したサウンドとなっており、リリース当時は逆に新鮮で、初めて聴いたとき、とても衝撃を受けたのを覚えています。
「Ta Ok」はSNSで話題を呼び、Spotify Brasilのチャートで1位を数週間キープし、Karol G(カロル・ジー)と Maluma(マルーマ)によるリミックス版が作られるに至りました。その後、この曲を模倣したサウンドが市場にあふれたため、今となっては新鮮さは失われてしまったものの、当時の世界的なトレンドで最初の火付け役になったのは、まちがいなく「Ta OK」だったといえます。
このようにMC Kevin O Chirisは、ファンキBPM150にしても、2000年代のファンキの復興にしても、つねにバイレファンキの新しいトレンドを作り出してきました。
最近だと、まったく話題になりませんでしたが、DJ Ramon Sussesso(ジージェー・ハモン・スセーソ)のリミックスした曲「Mina da Barra」(ミーナ・ダ・バッハ)が秀逸です。こんなファンキの曲は聴いたことがなく、控えめに言っても最高だと思います。
全曲ファンキ150BPMのアルバム、「Universo150」
そんなMC Kevin O Chirisが、2026年にUniversal Music Brasil(ユニバーサル・ミュージック)に移籍し、移籍後第一弾して発表したアルバムが「Universo 150」(ウニヴェルソ・セントイシンクエンタ)、直訳して「150の世界」です。
「150」というのは、言うまでもなくファンキ150BPMのこと。アルバムの1曲目はKevin O Chrisの独白で、ファンキが自分の人生にとってどれだけ大事なものであるか、そしてファンキ150BPMに出会い、そのサウンドに魅了され、いかにしてスターダムを駆け上がっていったか、素朴な言葉で語られています。そして2曲目からは、150BPMという怒涛のスピードで、個性的なサウンドとメロディーが次々と繰り出されていきます。
Kevin O ChrisはこれまでもアルバムやEPを何枚かリリースしてきました。ただ、数々のすばらしいシングル曲と比べてしまうと、いまいち存在感に欠ける出来だったと言わざるをえません。そんな中、「Universo150」はしっかりしたコンセプトに貫かれていて、Kevin O Chrisのキャリアの中でも記念碑的な一枚です。リオデジャネイロで受け継がれてきた音楽の伝統や、彼自身の個性が色濃く表れていて、すばらしいと思います。




