- Anittaが8枚目のスタジオ・アルバムをリリース
- シングル「Pinterest」
- 豪華なゲスト、プロデューサー
- Anittaの軌跡
- 今作「EQUILIBRIVM」
- 全曲紹介
- 1「Desgraça」(ジシグラーサ)
- 2「Mandinga」(マンジンガ)
- 3「Caminhador」(カミニャドー)
- 4「Bemba」(ベンバ)
- 5「Ternura」(テルヌーラ)
- 6「Deus Existe」(デウス・エジスチ)
- 7「Caso de Amor」(カーゾ・ジ・アモー)
- 8「Varias Quejas」(ヴァリアス・ケハース)
- 9「So Much Love」(ソー・マッチ・ラブ)
- 10「Pinterest (Spanish version)」(ピンテレスト)
- 11「Nanã」(ナーナン)
- 12「Vai Dar Caô」(ヴァイ・ダー・カオ)
- 13「Choka Choka」(チョカ・チョカ)
- 14「Meia-Noite」(メイア・ノイチ)
- 15「Ouro」(オウロ)
- 最後に
Anittaが8枚目のスタジオ・アルバムをリリース
2026年4月16日、Anitta(アニッタ)の8枚目のスタジオ・アルバムとなる「EQUILIBRIVM」(エキリーブリウン)がリリースされました。
この作品が、最高です!
MPBやボサノヴァをふだん聴いていてAnittaは避けているというリスナーも、今までブラジル音楽を聴いたことのないという人も、ぜひ一度聴いてみて欲しい、「これこそがブラジル・ポップスだ」と私が自信をもってお勧めできる一枚です。
シングル「Pinterest」
アルバムのリリース前の3月6日、先行シングルとして「Pinterest」(ピンテレスト)が発表されていました。サンバのエッセンスを取り込んだブラジル・ポップスの良曲で、アルバムを象徴する一曲となっています。
「Pinterest」は、ポルトガル語バージョンとスペイン語バージョンが存在します。さらに、YouTubeのチャンネル「A Colors Show」(ア・カラーズ・ショー)でもふたつの言語のライブを披露しており、合計で4種類の音源があることになります。
「A Color Show」は世界中の実力派アーティストを取り上げることで知られており、ブラジルだとEmicida(エミシーダ)、Luedji Luna(ルエジ・ルナ)、Liniker(リニケル)などが過去に出演していました。こういった芸術性の高いアーティストと並んでもまったく見劣りせず、むしろ歌唱力とカリスマ性で圧倒するかのように、アニータは最高のライブをしていると思います。
「Pinterest」は歌詞も重要です。Anittaがポルトガル語で作詞しています。
Fiz esse samba pra você sentir
Pra muita ou pouca gente, pra quem quiser ouvir
このサンバはあなたに感じてもらうためにつくった
大勢でも少なくても、聴きたいという人のために
これまで「もっと大勢の人に届くように」ということでスペイン語や英語を習得し、ラテンアメリカで人気のレゲトンを歌ってきたアニータが、はじめて「大勢でも少なくても、聴きたいという人のために」、サンバ風のポップスを歌っている。そこに、私は胸が熱くなりました。
豪華なゲスト、プロデューサー
豪華なゲストにも注目です。
最大の目玉は、ラテンアメリカのポップスの女王、Shakira(シャキーラ)とのコラボ。また、現代ブラジル音楽の最重要アーティストであるLiniker(リニケル)やLuedji Luna(ルエジ・ルナ)、そしてMarina Sena(マリーナ・セナ)やEbony(エボニー)のような人気アーティストが参加しているのも見逃せません。
プロデューサーも最高のメンツです。Janluska(ジャンルスカ)は、Terno Rei(テルノ・ヘイ)の「Gêmeos」(ジェメロス)やMarina Sena(マリーナ・セナ)の「Coisas Naturais」(コイザス・ナトゥライス)を手掛けた人物。Iuri Rio Branco(イウリ・ヒオ・ブランコ)は、Marina Senaのデビュー作をはじめ、2025年にはLuedji Luna(ルエジ・ルナ)やDon L(ドン・エリ)の楽曲を制作しており、今のブラジルで一番ホットなプロデューサーではないでしょうか。Papatinho(パパチーニョ)は昔からAnittaの曲を作ってきたお馴染みの人物で、アルバム後半にリオデジャネイロらしいバイレファンキのグルーヴを吹き込んでいます。
Anittaの軌跡
ここであらためてAnittaの経歴を振り返っておきましょう。
Anittaは1993年3月30日リオデジャネイロ生まれ。2010年ごろYouTubeに投稿した画像がプロデューサーの目にとまり、2012年にバイレファンキ界の新星としてデビューした、というのはこちらの記事でも取り上げたとおりです。
一方で、デビューして間もない頃からラテンアメリカのトップ・アーティストとなることを目標にかかげており、スペイン語でレゲトンの曲をたくさん歌ってきました。そのため、Anittaのヒット曲にはレゲトンが多いです(詳しくはこちらの記事)。
アニータがすごいのは、デビューして10年後にその目標を実現したこと。2022年に「Envolver」(エンヴォルヴェール)という曲がSpotifyのグローバル・ランキングで1位に到達しました。そしてちょうど同じ頃、アメリカのCoachella (コーチェラ・フェスティバル)に出演し、世界中にむけライブ動画を配信。この時期のアニッタの勢いは見ていて爽快で、ブログをちょうど立ち上げたばかりだった私は、夢中になってアニッタの記事ばかり書いていました。
世界の頂点に立った後、Anittaはブラジルの音楽に回帰していきます。2024年の「Funk Generation」(ファンキ・ジェネレーション)では、バイレファンキを欧米のポップスやK-Popとミックスさせ、世界中のリスナーにファンキの面白さを伝えました。
「Funk Generation」が海外市場を意識したブラジリアン・ファンキの作品だったとしたら、2024年の年末にリリースされた「Ensaios da Anitta」(エンサイオス・ダ・アニッタ)は、ライブに来るようなブラジル国内のファンだけを意識して作られた、本当にブラジルらしい作品です。フォホー、ピゼイロ、アホッシャ、ブレーガ・ファンキ、アシェーといったブラジルの大衆音楽の曲が並び、ファンキもブラジルの土着的なサウンドなのが、前作と比べてとても対照的でした。
アルバムのタイトルもカーニバル期間にAnittaがおこなうツアー名から取られており、ある種の総決算として作られたアルバムだったのではないでしょうか。なお、2025年に楽曲を追加し、再リリースされているため、クレジットによっては2025年作となっています。
じつは2025年は、アニッタが「活動していない」ということがSNSで話題になっていた一年でした。
デビューして以来、ワーカホリックのように休みなく働き、休暇中も弾丸スケジュールでヒマラヤを訪れたりしてきたアニッタが、公の場にほとんど姿を見せず、SNSも更新しない──。感染症にかかったといいう報道もあり、世界中のAnitters(アニッタのファン)が心配するなか、久々に登場したアニッタは美容整形で顔が変わっており、ファンが騒然としたのも記憶に新しいところです。
この騒動(?)に対してアニッタは、「私は今まで何度も整形してきたんだから、これくらいで騒がないでほしい」みたいなことを冗談めかして言っていた気がします。そしてこの時期、どこかのインタビューで「これからはマーケティングで売れるものを作るのではなく、理解されなくても自分のやりたいことをやる」というようなことも語っていました。
今作「EQUILIBRIVM」
そして、今作「EQUILIBRIVM」(エキリーブリウン)です。
タイトルは古典ラテン語で「平衡、バランス」を意味する言葉で、古典ラテン語では「U」が「V」と表記されるため、現代風に書き直せば「Equilibrium」。シングル「Choka Choka」(チョカ・チョカ)のジャケットをはじめ、YouTubeで公開されたリリック・ビデオのデザインは、Luis Matuto(ルイス・マトゥート)というグラフィック・アーティストが手掛けています。Anittaが彼の作品を気に入ってアートワークを頼んだらしく、タロット・カードのような神秘主義的なデザインは、アルバム全体に崇高さを添えています。

そして言うまでもなく、内容も最高です。サンバ、ボサノヴァ、バイーア音楽などなど、ブラジルの古き良き音楽の伝統をくみながら、いまブラジルで最も熱いアーティストたちを集結させ、ここ数年のブラジル・ポップスの中でも最高レベルの音楽を作りだしています。アルバム全体で一貫したストーリー性があるのも良く、歌詞を読みながら、最初から最後まで通して聴きたい内容です。
全曲紹介
1「Desgraça」(ジシグラーサ)
プロデュースはJanluska(ジャンルスカ)とGabrieldvarte。Carmen Miranda(カルメン・ミランダ)を引用したという曲です。

カルメン・ミランダは1930年代から1950年代にかけて活躍したブラジル人の女性歌手。優れた歌手であっただけでなく、アメリカで女優として活躍しました。頭の上にフルーツを乗せ、明るいブラジル人女性のキャラクターを演じて人気を博したのですが、ブラジル国内では評価されず、むしろ「ブラジルの文化を侮辱した売国奴」とバッシングされたそう(ウィリー・ウォーパー氏『リアル・ブラジル音楽』pp56-57)。
とはいえカルメン・ミランダの歌唱力、カリスマ性、そして良い曲をたくさん歌うことのできた音楽的な素養は格別で、現代は偉大なアーティストとして高く評価されています。
じつはAnittaは、世界中に熱烈なファンをかかえていながらも、ブラジル国内には強力なアンチが存在します。Anittaのアンチは、彼女の歌やダンスが「下品」で、ブラジルの文化と歴史に泥を塗るようなことをしていると思っているようです──。
でも、Anittaの歌唱力、カリスマ性、そして音楽的な素養は、後世もっと高く評価されることになるはずです。Anitta は、まさに現代のCarmen Mirandaだと私は思います。
2「Mandinga」(マンジンガ)
Marina Sena(マリーナ・セナ)とのコラボ曲。この曲もプロデュースはJanluska(ジャンルスカ)とGabrieldvarteで、Marina Senaの「Coisas Naturais」と似たムードの曲に仕上がっています。
Baden Powel(バーデン・パウエル)とヴィニシウス・ジ・モライス(Vinícius de Moraes)の名曲「O Canto de Ossanha」(オ・カント・ジ・オサーニャ)をサンプリングしているのにも注目です。「O Canto de Ossanha」は、1966年のアルバム「Os Afro-sambas」(オス・アフロ・サンバス)の収録曲。「Os Afro-sambas」は、ボサノヴァの巨匠がバイーア州のアフリカ系民間信仰であるカンドンブレに影響を受けて作った、ブラジル音楽史に残る重要作品です。
元の曲がもつカンドンブレの土着的なグルーヴ感が、アニータとマリーナ・セナの妖艶な世界観で再解釈されており、アルバムの中でも特に良い一曲だと思います。
3「Caminhador」(カミニャドー)
Liniker(リニケル)はラテングラミーをはじめとする音楽賞を総なめにしてきた現代MPBの最重要アーティスト。自分自身を信じることについて歌った曲で、アニッタはこの曲の歌詞が気に入っているとのこと。歌詞を日本語訳しながら聴きたい一曲です。
4「Bemba」(ベンバ)
ブラジル北東部のバイーア音楽の曲。
Luedji Luna(ルエジ・ルナ)はブラジリアン・ジャズのアーティストで、バイーアの伝統音楽をモダンで洗練された形に昇華し、世界的に高く評価されています。2025年は優れたアルバムを2枚たて続けにリリースし、日本でも話題をよびました。そんなルエジ・ルナとアニータのコラボは、本作のなかでもとくに異色な組み合わせといえるのではないでしょうか。
じつはルエジ・ルナは、2023年に「Ensaios da Anitta」への参加を打診されていたそうです。まさか出演する側として呼ばれたと思わなかったルエジルナは、夫のZudizilla(ズジジーラ)と一緒に見に行きたい、と返答したそう。これに対してアニータは、歌う側として参加してほしいと伝え、ここから二人の友情が始まったとのことです(詳しくはこちらの外部記事)。
楽曲「Benba」をプロデュースしたのは、バイーアの実力派アーティストMagary Lorde(マガリ・ロージ)。Seu Jorge(セウ・ジョルジ)の2025年の話題作「Baile à la Baiana」(バイリ・ア・ラ・バイアーナ)をプロデュースした人物です。こういった人がさりげなく参加しているのが、本作の面白いところだと思います。
5「Ternura」(テルヌーラ)
Melly(メリー)とのコラボ曲。Mellyは2023年のPremio Multishow(ムウチショー賞)で新人賞を受賞したアーティストで、作曲の能力が見込まれてこのアルバムにゲストとして呼ばれたそうです。プロデュースはIuri Rio Branco(イウリ・ヒオ・ブランコ)。カンドンブレで信仰されている川の女神「Oxum」(オシュン)について歌う歌詞で、アルバム前半の中でも私がとくに好きな曲です。
6「Deus Existe」(デウス・エジスチ)
レゲエの曲。リオデジャネイロのレゲエ・バンド、Ponto de Equilíbrio(ポント・ジ・エキリーブリオ)とのコラボで、プロデュースはIuri Rio Branco。この曲と次の「Casa de Amor」の作曲には、Mellyも関わっているようです。
7「Caso de Amor」(カーゾ・ジ・アモー)
R&Bの曲。共演しているOs Garotin(オス・ガロチン)は2024年にラテン・グラミーを受賞したバンド。プロデュースはIuri Rio Brancoで、サンバのような二拍が心地よいアーバンな一曲に仕上がっています。
8「Varias Quejas」(ヴァリアス・ケハース)
バイーア州サルヴァドールの音楽集団、Orodum(オロドゥン)の「Várias Queixas」(ヴァリアス・ケイシャス)をカバーした曲で、スペイン語で歌われています。
Orodum(オロドゥン)といえば、アフリカ系の伝統文化を継承する団体で、大人数で打楽器を一斉に叩き、地響きのような音楽を奏でることで知られています。彼らの音楽はSamba Raggae(サンバ・ヘギ)と呼ばれ、Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)がコラボで抜擢したことで、世界的に有名になりました。社会的な事業をおこなう団体でもあります。かれらの歴史的・社会的な使命についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、よければお読みください。
9「So Much Love」(ソー・マッチ・ラブ)
英語とスペイン語で歌われている、Anittaもお気に入りだという曲。Richard Camachoというアメリカのヒスパニック系アーティストが作曲したようで、とてもアメリカっぽい一曲だと思います。
10「Pinterest (Spanish version)」(ピンテレスト)
ポルトガル語でアニータが作詞した曲。アルバムの発表前、先行シングルとして公開されており、新作が今までのアニッタと違う作品になるということを高らかに宣言する一曲でした。ここにはColorsのスペイン語バージョンを貼っておきます。
11「Nanã」(ナーナン)
男性ラッパーのRincon Sapiência(ヒンコン・サピエンシア)、女性ラッパーのKing Saints(キング・セインツ)とのコラボで、Papatinho(パパチーニョ)がプロデュースした曲。1970年代のバイーアのトリオOs Tincoãs(オス・チンコァス)の曲「Nanã」(ナーナン)を引用しています。
パパチーニョの2024年作「MPC」(エミペーセー)を思い起こさせる90年代バイレファンキ風のアレンジで、とてもリオデジャネイロっぽいと思います。ブラジルの古き良き音楽からHip Hopまで、幅広い音楽を材料にして独自の美学で調理するパパチーニョの手腕が発揮された一曲です。
12「Vai Dar Caô」(ヴァイ・ダー・カオ)
ひきつづいてPapatinho(パパチーニョ)の曲。イギリスのArt Of Noise(アート・オブ・ノイズ)の曲「Moments In Love」(モメンツ・イン・ラブ)をサンプリングし、「MPC」のようなバイレファンキに仕上げています。
リオデジャネイロ州出身のフィーメイル・ラッパー、Ebony(エボニー)が参加しているのにも注目です。Ebonyは2020年代から活動している若いラッパーで、数多くいる女性ラッパーの中でも、社会批判を真正面からおこなう若い世代の人物として存在感をはなっています。
13「Choka Choka」(チョカ・チョカ)
ラテンアメリカの女王ともいえる歌姫Shakira(シャキーラ)とのコラボで、アルバム最大の話題曲。プロデュースはPapatinho(パパチーニョ)と、ナイジェリア出身で現在アメリカのマイアミで活動するシンガーソングライター、Daramola。このDaramolaという人物は、他のトラックでもクレジットに名前が乗っており、アルバム制作を陰で支えた縁の下の力持ちのような存在なのかもしれません。
アニッタがスペイン語で、シャキーラがポルトガル語で歌っているのも重要です。ラテンアメリカのポップス史のなかで、記念碑的な作品となるのではないでしょうか。
Choka, choka, cuerpo con cuerpo, boca con boca
Sou pequenininha, mas posso te dar uma volta
Cai na toca, cai na toca, toca da cabocla
身体と身体、唇と唇
私は小さいけれどあなたを回せる
穴に落ちろ、穴に落ちろ、カボクロの穴に
動詞「chocar」(チョカー)は「ぶつかる」という意味。「choka-choka」という造語は、ものがぶつかる音のオノマトベです。
そして「Cabocla」(カボクラ、カボクロ)というのは、アマゾンに住むインディオとヨーロッパの混血の人々のこと。
Shakiraはポルトガル語で歌うにあたって、歌詞の意味をよく知らないと歌うことができない、ということで、熱心に言葉の意味についてたずねたそうです。カボクラとはいったい誰なのか、シャキーラも当然に関心をもち、知ることになったのではないでしょうか。
Anittaはこれまで、アマゾンに住む少数民族の保護をうったえる活動をしてきました。人気者のAnittaがアマゾンの小さな村を訪ねることで、その村の存在が全国的に知られるようになるということもありました。この国際的なコラボ曲で「カボクラ」という言葉を歌詞に入れたことにも、そういった社会的な意義があったと私は思います。
14「Meia-Noite」(メイア・ノイチ)
ライブで映えるファンキの曲。クレジットにあるLos Brasileros(ロス・ブラジレイロス、ブラジル人たち)は、Dan Valbusa、Marcelinho Ferraz、Pedro Dashという3人のプロデューサーのトリオで、ブラジル国内のJão(ジャウン)やIvete Sangalo(イヴェッチ・サンガロ)をはじめ、今やシャキーラに次ぐラテンアメリカの歌姫、Karol G(カロル・ジー)の曲もプロデュースしてきたベテランです。
そしてこの曲は、ブラジルの民間信仰の女神、Ponpagira(ポンパジーラ)がテーマとなっています。

どういった女神なのか詳しく分からないのですが、原初的で力強い女性性の女神であり、恋愛がらみのおまじないで頼りにされる存在のようです。誤解を恐れずに言うならば、魔女のような女神とも言うことができるかもしれません。このボンパジーラのイメージが、アルバムの隠れたモチーフとなっています。
15「Ouro」(オウロ)
Emanazulは、このアルバムの共演者のなかで、もっとも無名だったアーティストです。2025年の休養期間、アニータがよく聴いていたという男女のデュオで、マントラとブラジルのスピリチュアル音楽をミックスした独自の音楽をやっています。精神を安定させる音楽だということで、ぜひアルバムに参加してほしいとアニータが声をかけ、コラボが実現したようです。このトラックは、読み上げられる言葉が重要です。
Desacelera
Encontrar o equilíbrio é um encontro diário consigo mesmo pra alinhar seu meio termo
O equilíbrio é o caminho do meio
ペースを落とそう
バランスを見つけるというのは、自分の中道を見つけるために、自分自身と毎日向き合うということ
バランスとは中道の道
ワーカホリックであり、ブラジル・ポップスの頂点に立つ人気者であり、様々なバッシングや悪意にも耐えてきただろうアニータが語るこの言葉は、誰よりも説得力があり、心に響きます。
曲の最後は何語か分からない異国の言葉のマントラで締めくくられ、この終わり方も美しいです。
最後に
Anittaはこれまでも良い曲をたくさん歌ってきており、間違いなくブラジル・ポップスの女王のような存在でした。
でも、本作「Equiliblium」は、そんなAnittaのキャリアを一段さらに高いところに引き上げる作品で、アニータは文字通り、ブラジルのポピュラー・ミュージックの女王になったと思います。
ブラジルのポピュラー・ミュージックは現地の言葉でMusica Popular Brasil、略してMPB。現在のMPBが保守化するなか、Anittaはポップスの方面からその限界を打ち破り、新しい境地を開きました。
アルバムの公開時、いっさいMVがリリースされていなかったのも注目に値します。アニータの歌声、歌詞、音楽だけがあり、それだけでとてもすばらしい。そう多くのリスナーが思ったのではないでしょうか。
少なくとも私はそう思いました。そして、ブラジル・ポップスに魅了されてきたこの10年間、この作品が来るのをずっと待っていたんだ、と思うほどでした。
毎日たくさんの音源がデジタル・プラットフォームでリリースされ、新しいアーテイストが登場しては消えていく中、Anittaという名前と「EQUILIBRILUM」という作品は、未来の歴史に残ると私は信じています。

